第4章 夏合宿編 六十話 リベリオン


「さてと、お前ら全員乗ったな。それじゃあ本題に入るぞ」


 最後に馬車に乗り込んだメルト先生は空いた席に座るとそう話し始めた。


「本題……? 何のことですか?」

「それを今から話すんだよ。この件について知ってるのはアレクだけだったか?」

「はい、4人にはまだ話してはいません。と言ってもあの噂は既に知っているみたいです」


 俺達4人が話についていけていない中アレクと先生はどんどん話を進めていく。


「まぁ、それは仕方ないだろ。元から諦めてたことだしな」

「あ、あの、それよりも本題とはなんの事なんですか?」

「嗚呼、悪い脱線しちまったな。お前達も既に知ってるみたいだが本題って言うのは近々起こる大きな戦いについてだ」


(それって、確か朝にサリーが話してた奴だよな。今回の合宿で急遽2年生も集められた理由でもある奴……それが一体どうしたんだ?)


「この噂は確かに嘘では無いんだが正確ではない、隠されてる部分が多いんだ」


(なるほど、先生の言う本題が何かなんとなくわかってきたな)


「つまりその隠された部分が先生の言う本題ってことですか?」

「その通り。と言っても俺は一般教師の身だ、この件についても大まかな事だけで詳しくは知らない。だからここからはこの件について俺なんかよりよく知ってるアレクに話してもらう。と言うわけだ、後は頼んだぞ」


 先生からそう任されたアレクはおもむろに口を開く。


「まずは噂の全容と今王国で起こっている事について話そう。事の発端は練兵場に届いた2枚の手紙だ」

「その内容は?」


 俺がそう聞くとアレクはその手紙に書かれていた事を話し始める。


『近日中に、この国の若く強き者を貰い受ける。

 我々の目的はただ1つ、世界の平和の為人間、亜人、魔族の全ての人類を滅ぼす事。

 まずは手始めにルステリア王国内最高峰と名高いアストレア魔法学院に伺わせてもらおう。

 これは確定事項だ、阻もうとするのならば容赦なく対応しよう。』


「これって、つまり……」

「嗚呼、この手紙の内容通りに行けば近い内に俺達生徒に何らかの接触があるということだ。交渉なのか勧誘なのか、最悪の場合奇襲も考えていた方がいいだろう」


 アレクの最後の言葉にアリシア達も各々不安を抱えているようだ。


「それで、その手紙を送って来たのは誰なんだ? 我々って言うことは多分個人じゃなくて組織だよな?」

「嗚呼、その通りだ。この手紙を送ってきた奴らの名は……」


 敵組織の名前を口にするのと同時にアレクは懐からカードを出す。すると見せられたカードに魔法で文字が書かれていく。

 そして、敵の組織名だろうその文字は――


革命軍リベリオン


「リベリオン……? それってどう言う意味だ?」

「この場合は、多分反逆って意味だと思う」


(けど、そうなるとこの書き方が気になる。革命軍ってなんだ?)


「大方、この世界のあり方その物に背きより良い平和へ導く革命家を気取っているのだろう。

 最近多発していた謎の宗教への勧誘や小さな事件事故も元を辿れば全てこいつらに繋がっていた」

「そんな事があったの?」

「嗚呼、最近休日に時間を取れなかったのもこれが原因だ」


(なるほど、だから最近忙しそうにしてたのか)


「けど、それだけ事件や事故が多いなら王都中に広まりそうだよな。少なくとも俺はそう言った噂とかは何も聞いた事が無い」

「俺もだ。ギルドの方でも全然耳にしなかったな」

「私も、王城にいながらそんな話は一切耳にしませんでした……」


 俺同様他の3人もやはり知らないようだ。


「まぁそれもそうだろう。事件事故と言っても1つ1つがよくある小さい事で些細な喧嘩や窃盗と言った別段公にするような事でも無かったからな。主婦の間の世間話で持ち上がるくらいだ。

 ただ、それがここ最近かなり頻発していた。それでおかしいと思って家が調べた結果がこれだ」


 アレクが言うには恐らく小さないざこざや口論をわざと大きくし喧嘩に発展させたり、何か事情がある人をピンポイントで狙いその人物達をそそのかすなりしていたのだろうと言うことらしい。

 確かにその程度なら軍やギルドに任せておけば噂として広りもせずに解決してしまうだろう。


 それに、窃盗や犯罪ならともかく喧嘩なんて物は軍に捕まることも無い。酷くてもその場で取り押さえられ現状注意を促して終わりだろう。


(けど、そう言う時って基本どっち側も相手が悪いって思ってることが多いからな。そこで何で俺が注意されるんだって思ってる人をまた唆して組織に勧誘してたのか)


 後にアレクにも確認したがやはりそうして国や世界に対して不満を持った人物に声をかけていたよだ。

 それが謎の宗教への勧誘だった訳だ。


(まぁ、その勧誘を報告してる人が多いってことはあまり引っかかっている人は居なさそうだけど、それでも国側からしたら構成員が増えているんじゃないかって心配でしかないな)


「これで最近の国の現状については大体話したな。だが、問題は次だ」

「手紙の内容……だよね」

「そうだ。手紙ではアストレア学院の生徒を伺うとだけ書かれていた。それが襲撃の意味合いだった場合生徒の多くを一纏めにしておくのはリスクが高い」


 そうして俺達が話しているところに最初の方から今までずっと言葉を発して来なかった先生が再度ようやく口を開いた。


「Aクラスにはそこまで多くないがこの学院の大多数の生徒は敷地内にある寮生活だ。幸い1年は合宿があったから学院内に纏まる事はなかったが2、3年はそう言う訳にもいかねぇ。と言う事で敷地内の生徒を減らすためにも今年は合同合宿になったって事だ」


(そうだったのか、でもそれだと次はこっちに人が纏まらないか?)


「あの、先生。それだと次はこちらに人が集まってしまうのではないでしょうか?」


 俺と同じ事を考えていたのかアリシアが先生にそう質問する。


「そうなるな。だがまぁ、そうなっても別に大丈夫だろ」

「という事は学院側は何か対策があるんですか?」

「対策って程でも無いがこっちの行先は相手側には分からない。万が一尾行されたとしても学院側とこっちで戦力が別れれば学院に全員留まるよりも対応は楽になる」


(なるほど、確かに戦力が分散してくれるのはありがたいな)


「それに、学院に生徒が少なければそれだけ教師陣が守る事に意識を割かずに済む。それが実績のある3年ともなれば尚更だ各々が自分で考え対応できるからな被害は最小限に抑えられるだろう」


 つまり学院側は守るべき人数を減らしさらに戦力を上げたと言うことだ。


「そうしてこちら側に来た敵は数で圧倒する。2年の中にも優秀な奴は多いが特に今年の1年には約2名化け物がいるからな。それなりの実力を持った敵が現れても力でごり押せるだろう。ここまでが学院としての考えだ」


(なんか今サラッと化け物扱いされた気がするな。先生俺とアレクの方見てたし……まぁそれは置いておくとして学院の戦略は確かに的確だ)


「だが、こちらはまだ経験が少ない。1箇所に何百人もの人間が纏まるのは危険だが行動する人数が少なくても危険だ。ましてや相手が何人で来るかも分からないから」

「と言う事でアレク以外のお前達4人には合宿の間Aクラスの残りの4班に1人ずつ入ってもらう。戦力補強と人数を増やす目的でな。割り当てはバランスを考慮して既に俺が考えてある」


 そうして先生は俺から順に名前と合宿で入る班を伝えて行った。


「まずはレオ、お前は4班だ」


(4班は確かバーン達の所か)


「あそこは実力とポテンシャルは高いが如何せん実戦経験が少ないからなルイだけで纏めるのは大変だろうからお前も手伝ってやら」

「はい」


「次にサリー、お前は5班だ。女子だけの所にダリスを入れるのはさすがに可哀想だからな」

「わかりました」


「それでそのダリス、お前は3班だ。あそこは前衛で戦える奴が少ないお前が入れば守備も補強できるだろう」

「おう、任せろ!」


(こいつ、今サラッと先生に向かってタメ口だったよな? 後で絞られても知らないぞ。それより、最後はアリシアか残ったのは2班、てことは……)


「と言う事で最後のアリシア様は2班だ。あの班は支援が得意な奴が少ない攻撃面はブリッツがいるから心配無いが何かあった時はよろしくな」

「はい!」


(やっぱり、ブリッツの班か。確かに戦闘や実戦となれば優秀な奴だけどなんか心配だ。それにこの引っかかる感じはなんだ? とりあえずアリシアの身に何も無ければいいけど……)


「割り当てはこんな感じだ。それと、今回の件について知っているのはお前達と2年の1部の生徒そして俺達教員だけだ。何かあった時いつでも連絡を取れるように通信用の小型魔石を渡しておく。くれぐれも他の生徒にはこの件について話すなよ」


「「「はい」」」「おう!」


(うん、今1人変だったな。こいつ絶対現地に付いたから先生に絞められる)


「ダリス、お前はあっちに付いたら真っ先に扱いてやる」


(ほらな、やっぱり。ダリスの奴顔真っ青にしてやがる。それより……)


「アレク、お前は何するんだ?」

「俺は先生達といざという時の為に備えておく。お前達への指示も俺が出す形になるだろう」

「今回の件について1番よく知ってるのはアレクだからなこいつがいないことには教師陣もどう対応していいのか分から場面があるかもしれんそう言う時の為だ。後は宿泊施設の方にもある程度の戦力を置いておかないといけないしな」


(なるほど、確かにそう言う事ならばアレクは適任かもしれないな)


「それに、こいつ以外にも2年の首席も残る。これでこっちの戦力は十分だ」

「2年の首席か、そう言えば会ったことないな。先生がそこまで言うって事はかなり強いんだろうけど、どれぐらいの実力なんですか?」

「そうだな、簡単に言えば今回合宿に参加している人間の中で最強はあいつだ」


 先生のその言葉に俺は1部違和感を感じる。


「合宿に参加してる人間って先生達も含めてですか?」

「嗚呼、1対1の勝負でお前とアレクならワンチャンあるかもしれないがそれでも厳しいだろうな」

「なるほど、それは是非1度手合わせしてもらいたいですね」

「今回の合宿でそいつの実力を見れることもあるんじゃないか? お前達みたいに化け物じみた魔力量と4属性と光と闇なんて言う珍しい魔法を持ってるわけじゃ無いがそれでも間違いなくあいつも1人の化け物だ」


 先生がここまでの評価をする人だそれだけ凄い人なんだろう。不安や危険が無くなった訳では無いが今回の合宿は良い経験になりそうだ。

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