第4章 夏合宿編 六十一話 忍び寄る脅威


「やっとついたー!」


 約5時間にわたる長旅を終え俺達は合宿の地であるアストレア領に到着した。


「お疲れ様ですレオ君」

「アリシアもお疲……って、あんまり疲れてなさそうだね」


 アリシアに限らずアレクとダリスもあんまり疲れてなさそうだ。何故だ、5時間も馬車に乗っていたんだぞ?


「はい、私は馬車に乗る機会は多かったですし長時間の長旅も何度か経験していたので」

「俺も同じ理由だ。長時間の馬車移動は何度か経験したことがある。まぁ以前よりはかなり疲れているがな。ここ最近お前の転移門ゲートに頼よりすぎていたという事か」


 考えている事が顔に出ていたのか俺の疑問にアリシアとアレクが答える。


 なるほど、確かにアリシアはで入学前に出会った時も馬車に乗ってたもんな。位の高い貴族や王家ともなるとそう言う機会も増えるのか。


「待てよ、それならなんでダリスも平気そうなんだ? お前は馬車に乗ることなんてあんまり無かっただろ」

「俺には筋肉があるからな!」


 いや、答えになってねぇよ! 疲れるかどうかに筋肉は直接関係して無いだろ……

 まぁ、普段のトレーニングとかで体力が付いていると考えることはできる……のか?


「みんな元気だね〜、私はもうヘトヘト」

「あれ、サリーも疲れてるの? なんか意外だな、2人の話を聞いてたらサリーの家も辺境伯の位だから馬車に乗ることは多いのかと思ったんだけど」

「それがそうでも無いんだよね。レオ君も少しは知ってると思うけど辺境伯って地位は公爵と同じだけど基本的な仕事は全然違うから」


 確か公爵の仕事は政治関係で辺境伯は軍事関係だったっけ。でもそれが今の話にどう関係してくるんだ?


「そのせいでお父さんが実家から中々離れられなかったから私とお母さんとお姉ちゃんは王都の屋敷に住んでたんだ。ちょうど今のレオ君と同じ感じかな」

「なるほどね、確かにそれだと長時間馬車に乗る機会も少ないか。それにしても……」


 改めて周りを見てみると凄い広いな。宿舎も学院の校舎程ではないにしても合宿の参加者が泊まるにしては十分すぎるぐらいの大きさだし宿舎の前には大きなグラウンドまである。これ、一般的な中等部の敷地と比べても遜色ないんじゃないか?


「それと、今回の合宿のメインと言っても過言では無いあの森。いやー、近くで見ると予想の何倍もデカイな」

「空気も綺麗で美味しいですね」

「うん、昔から森にはよく入ってたけど最近は昔ほど行く機会も減っちゃったからな。自然の空気はやっぱり落ち着くね」


 今までも学院の授業や対抗戦でいろんな森に行ってはいるがそのどれと比べても今回の森は落ち着ける気がする。


「おい、お前ら。降りたならさっさと並べよ〜」


 そう言えばメルト先生が同じ馬車に乗っているのをすっかり忘れていた。あの人本題を話し終えてからずっと寝てたからな……


 と言うことで合宿場所に無事到着した俺達はグラウンドに集合し合宿中の注意や今後の予定を聞いた後各学年各クラスに別れ打ち合わせとなった。先生の話ではここで今回の件の一部について説明するらしい。


 打ち合わせが始まると直ぐにメルト先生は馬車の中で話していた事の一部をクラス全体に伝えた。そこでアレクを除く俺達1班の4人が各班に配置される事も同時に伝えられる。


 その後は午後の予定まであと1時間程度余裕があると言うことで各々自由時間となり最後に先生が宿舎の中の設備や共有スペースの場所を確認するようにと言い打ち合わせも終了した。

 


 ▽▲▽▲▽▲▽▲

 


 翌日――


 合宿と言えども特別何かをやる訳でも無くその内容は普段の学院と何も変わらない。気持ち的には少し実戦形式の授業が増えるぐらいの感じだ。

 昨日もその後は予定通り空き部屋を使って筆記授業をした後今日の準備や打ち合わせ等をして一日を終えた。


「にしても、昨日の夕飯は豪華だったよな。さっきの朝食も美味かったし」

「そうか? あれぐらいは普通だろう。まぁ確かに、学院から提供される食事にしてはかなり豪勢だったが」

「お前、まじか……」

「レオの言う通り普通夕飯はあそこまで豪華じゃないぞ?」


 どうやらアレクにとって昨日の夕飯程度は普通みたいだ。まさかこ同じ貴族でも位が違うだけでここまで価値観に差があるとは。少し前までは同じ爵位だったダリスはどうやら俺と同じぐらいの価値観みたいだ。


 まぁ価値観が違うからって別に何かある訳じゃ無いけどな。


 ちなみに昨日の夕飯は一般家庭では滅多に食せないような高級食材がいくつも使われた料理が出された上に量もそれなりにあって当然味も文句なしと言う理想の夕飯だった。恐らく家ではあんな夕飯一生お目にかかれないだろう。


「あれを食べれただけでも合宿に来てよかったわ」

「しかも合宿は始まったばっかりだしな。これからが益々楽しみだ」

「2人とも程々にね。夕飯はともかく朝とかお昼食べ過ぎてその後動けなくなっても知らないよ?」

「そうだぞ。ましてやお前達がいざとなった時に動けなかったら一大事だぞ」


 2人の言う通りなのは間違いないけど1番いいのはその万が一が起こらない事なんだよな……


「で、でも、まずは合宿を楽しみませんか? 暗いことばかり考えていては気分も沈んでしまいます」

「うん、それもそうだね。対策をするに越したことは無いけどそっちに気を取られすぎて合宿に集中出来なかったら本末転倒だし」

「まぁ、それもそうだな。とりあえずこっちの事は俺に任せろ何かあったら直ぐに連絡をする」


 どうやら俺とダリスは何とかこの場を乗り越えられたようだ。


 その後も朝の集合時間までは時間が残り引き続きこれからの合宿について各々思う事を話していたのだがその談笑は突然終わりを迎えることになる。


「レオ、アレクちょっといいか」

「メルト先生。何かあったんですか?」

「悪いが人の多いここでは余り大声で話せない事だ。着いてきてくれ」


 先生の表情にどこか張り詰めた物を感じた俺とアレクは先生の言葉に従いその後をついて行く。


「それで先生、話って言うのは?」

「嗚呼、実は今朝今日使う森の中を数人の教師で巡回していたんだがある物が見つかってな。それを見てもらってお前ら2人の意見が欲しいんだ」


 なるほどそう言う事か。でも、なんで俺達2人なんだ? もし例の事に関係しているならあの場にいた3人も連れてきた方がいいし万が一の時の行動とかについてならアレクだけでいいと思うけど……


 そうしてしばらく先生について行くと宿舎の隣にある魔法を練習するために作られたであろう小さな練習場へと連れてこられた。

 扉を開け中に入ると、そこには数人の先生達とこの宿舎の管理人さんそれともう1人俺達の知らない眼鏡を掛けた人物が何かを囲むようにして話していた。


 制服を来てるから2年生の人か。同じ学年では見た事ないしな。てことはもしかしてあの人が……


「2人とも気づいたか。あいつが2年の首席、ブレン・バスターだ」


 予想通りあの人が2年の主席みたいだ。何となく父さんやゼルさんに似た威圧感を感じるな。ただたっているだけで相当強いと確信できる。


「それと今ブレン達が見てるのがお前達に見せたい物だ」


 俺達は先生の案内でそれが見える位置へと移動する。そして、そこにあったのは……


「魔物の死体……ですか?」

「さすがはアレクだ。これを一目見て死体だってとはな」

「えっ、これが、死体……?」


 そう、そこにあったのは、死んでいるのかどうかすらも一瞬では見分けが付けられないような魔物の死体だった。


「いえ、見ただけでは分かりませんでした。熱魔法の応用で体温が無いことを確かめてやっと分かったんですよ。それでどうして俺達にこれを?」

「それはこの魔物の死因が関係している」

「死因?」

「そうだ。これを見てくれ」


 そう言って先生が指し示したのは横たわる魔物の額だった。


「これは……」

「魔法で貫かれた跡だ。それがこの魔物の死因、これを見て何か違和感があると思わないか?」

「えぇ、基本の4属性のその派生属性ではここまで綺麗な穴は開かない」

「その通りだ。火だと周りは燃えるし風の場合は渦を巻いたような後になる。

 それ以外の属性でやろうにもどうしても穴は歪んでしまう。たとえ可能性があったとしてもここまでの芸当をするにはそれなりの熟練者が長時間集中してイメージを固め大量の魔力を使わないと不可能に等しい。

 そうなると残る方法は自ずと絞られてくるってわけだ」


 なるほど、そう言う事か。何故今回呼ばれたのが俺とアレクだけなのかこれを聞いて何となく分かってきた。


「これだけ綺麗に穴を開けられる魔法となればそれは――」

「光魔法、ですかね」


 先生が途中まで言いかけたところで俺がその後に続くであろう言葉を呟く。


「光魔法なら他の属性と違って歪みも無い。それに光魔法の速さなら魔物の体を貫くなんて簡単です」

「あ、嗚呼、そうだ光魔法だ。そしてもう1つの方法が――」

「弓だ」


 次にそう言ったのは俺達が来てから険しい顔をしながら沈黙を続けていたブレン先輩だった。ここで答えたって言うことは先輩が連れてこられたのは弓について詳しいからだろう。


「弓を使って無属性の魔法を放てば歪みも無くそれなりの速度で魔物の額を貫く事が出来る」

「……まぁ、そうだな。先生は生徒が優秀で嬉しいよ……。っと悪い、話が逸れかけたな。確かにブレンの言う通り弓でも光魔法と同じ事をするのは可能だがそれにはいくつか条件がいる」

「弓を使うならば普通の弓や使い手ではこんな事は出来ない」


 という事は……


「魔装を使う、それか弓を扱い慣れている、もしくはその両方が揃っていないとできないって事ですか?」

「今年の新入生は優秀な者が多いと聞いていたが確かに、中々察しがいいな。もしや、お前達が噂の主席と次席か?」

「どんな噂かは知らないですけど1年の主席は俺で間違いないですよ」

「名前は?」

「レオナルド・フォン・リヴァイスです」

「レオナルドか、確かにお前の言う通りこれをやるならばその2つの条件が必要だ。厳密には魔弓でなければこんな事はできない。そして魔弓を扱うにはそれなりの経験と技術が必要になる」


 なるほど、つまり条件は1つという事か。


「だが、恐らくこれは魔弓を使った物では無いだろう」

「? どういう事だブレン」

「メルト先生がいない間に1度説明しましたが魔弓を使ったのならそれなりの魔力が消費されているはず、それを打ち出すとなれば教師陣の誰かもしくは俺かこの1年の2人どちらかが必ず気づきます。だが誰も気づかなかったということは少なくとも魔弓や魔装は使われていないという事です」

「なるほど、確かにそうだな。となると可能性は光魔法だけになってくる訳か……」


 でも、そもそもなんでこんな事になってるんだ? 

 魔物が1体討伐されたぐらいでここまで大事にする必要無いと思うけど。


「先生、今更なんですけどな魔物が討伐されただけでこんな大事になるような理由が何かあるんですか?」

「嗚呼、そして今出た結論でその脅威がさらに強まった」


 脅威?


「これが見つかったのは今朝の巡回の時だ。昨日到着後に巡回した時にはこの魔物の死体は見つからなかった。という事はこの魔物が倒されたのは昨日の夜から巡回までの間になる。そして今この合宿に来ている人間の中で光魔法が使えるのはお前を含め4人だ。その内2人はサポート寄りでこのレベルの攻撃魔法は使えないらしい」


 という事は……


「残るは俺ともう1人って事ですか?」

「そうだ、だがどちらにもこれをする事はできない。残るもう1人はブレンと同じ部屋の生徒だが昨日の夜は同じ部屋にいたらしいからな。お前についても見回りの時に俺が部屋で寝てるのを確認している。

 そうなるとこれができるのは消去法で外部の者って事になる」


 外部って言うことは、もしかして……!


「この予想が正しければ何者かが夜の内にこの敷地内に侵入したって事だ。それもかなりの光魔法の使い手って言うおまけ付きでな」

「その侵入者ってまさか……」

「嗚呼、侵入者がいた場合それは確実に奴らだ」

「っ、革命軍リベリオン……」

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