第4章 夏合宿編 六十二話 嵐の前の静けさ
「とりあえず、侵入者については見張りや警備を増やして様子を見ようもし万が一森での授業中に何かあればその時は中止もやむを得ない」
メルト先生が今後の行動を決めると2年の教師だと思われる先輩の後ろにいた男が静かに手を上げた。
「フィンゲート先生、1ついいだろうか?」
「ノワール先生、何か疑問に思う点でもありましたか?」
「いや、疑問などでは無いよ。ただ少し今後の対応について追加した方がいい事がある気がしてね」
「具体的には?」
「先程までの話では侵入者がいるかもしれないと言うだけでまだ確証を得られた訳では無かった。が、今の状況は侵入者がいるていで話が進んでいないかね?」
確かに、さっきまでは侵入者がいる可能性があるから警戒しようってことだったはずだ。
でも先生の考えた対応は侵入者がいると過程しているような口ぶりだったこのノワールと言う先生はそこに違和感を感じたのだろう。
でも、だからと言って先生の対応は間違ってないと思うけどな。ノワール先生の言い方からすると何か他にもやっておいた方がいい事があるみたいだけど……
「確かに、そうですね。ですがだからと言って警戒をする事に損は無いと思いますが?」
「私が言いたいのは考え方の問題だよ。例えば侵入者が侵入せずにこの敷地の外から我々を警戒させるためにわざと何らかの手段を使って魔物を倒していたとする。
それならば警備を強化する他に魔法で何らかの防御壁を張れば侵入も阻止しつつ守備も固くすることができるだろう?」
なるほど、最悪の場合ではなくこちら側にとって都合のいい捉え方をする事で最悪の場合よりも警備を強力にすることが出来るということか。
「確かに、わかりました。警備を強化しつつ魔法障壁と防護壁を張りましょう。
1年の生徒数人にも授業の安全性を上げるためと言って協力して貰えるよう頼んでみます」
「そうですね、それがいいでしょう。私も2年の生徒何人かに声をかけてみます」
そうして今後の方針も決まりその場にいた先生たちや宿舎の管理人さん達が行動し始めたのを見て俺達も一旦皆の所へ戻ることにした。
▽▲▽▲▽▲▽▲
「なぁ、アレク。今回の件お前はどうだと思う?」
「どうって言うのは侵入者がいるかどうかってところか?」
「うん、正直居るにしろ居ないにしろ危険なことに変わりはないと思うんだよな」
「まぁそうだろうな。正解がどっちかなんて事が起こってみないと分からないがどちらにしろ危険なのは確かだ。それに、何か嫌な予感もする」
「嫌な予感か、そんな事起こらないのが1番いいんだけどこのタイミングでこうも不審な事があると確かに何か起こりそうな気はするな」
小さいとは言え俺達が合宿に来る以前から
「とりあえず俺達は学院側の指示に従おう。お前達には対策班の方でも何か動きがあれば連絡する」
「嗚呼、頼む」
「任せておけ。それより今は合宿に集中するぞ、明日森を半日かけて下見すれば明後日にはもう実践形式の特訓が始まる。これが合宿の目的と言っても過言ではないからな」
「あの広い森の中がいくつかのエリアで別れてるんだよな? と言うことは1日で複数の地形での実践を経験できるって事か。なんか楽しそう」
エリアは確か森、崖、川、沼地、後は障害物の多い小さな遺跡跡地と逆に障害物が少ない平原の6エリアだったっけ。
「まぁ、これは実際に見た時も思った事だがあれは森と言うよりは小さな山って感じだけどな。高低差のある崖や川に繋がる滝を作った以上は高くなってしまうのも仕方が無いとは思うが」
確かに、俺もメルト先生から事前に馬車の中で名前と実物があってないことを聞いてなければあれは山だと思ってな。
「それに明日の下見の前にまずは今日の筆記授業だ。今日の授業で合宿中に行う戦闘形式についてやその作戦の組み立て方も教えてくれるみたいだしな」
「そうとなればすぐに戻らないと。皆待ってると思うし」
そう言って俺とアレクは足早に最初の授業が行われる部屋へと向かった。
▽▲▽▲▽▲▽▲
――翌日――
「いいか、お前ら。このや……森の中には危険が沢山だ。いくら多少戦闘や不安定な場所での動きに慣れていると言っても油断は禁物だ。今日は下見だけだがくれぐれも怪我をしないように気をつけろよ。今日怪我をしたら明日からの実技に参加できないと思え」
「「「「はい!」」」」
メルト先生の注意喚起に1学年全員が返事をするとされた先生は早朝にも関わらず生徒達の返事が予想以上に大きかった事に驚きつつもいつも通りの面倒くさそうな足取りで集団の先頭へと立つ。今日は合宿3日目にしてやっと森の中に足を踏み入れるのだ。
と言うか、あの人今完全に山って言いかけたよな。
学院から事前に資料は渡されてたみたいだけど実物を見ちゃうとやっぱりまだ信じられないのか……
「それにしても3日目にしてやっと森に入るのか。ここまで異常に長かった気がする分めちゃくちゃワクワクするな」
「事前にエリアの種類は聞いていますが実際にどんなところか楽しみですね」
「うん、そうだね。川とか綺麗なんだろうな〜」
アリシアと自然の中でデートって考えるとなんかドキドキしてくるなぁ。まぁ、欲を言えば2人っきりが良かったけどね……
ちなみに今回の合宿では基本班別行動だが初日と2日目はクラス行動、3日目の今日は学年別で行動をする。
今日の予定は半日をかけての森の下見だが午前と午後に学年を分けて行動をするにはその殆どを回るのに時間が足らないというため時間を分けるのではなく時間をずらして回る箇所が被らないようにしているらしい。
もしかしたら今日で自由時間以外もアリシアと一緒に入れるのは合宿中最後かもしれない。先生の言う通り気をつけながら楽しまなければ!
「アリシア、何か危険な事があれば直ぐに言っていいからね? 何なら何も無くても話しかけてくれて全然いいから!」
「ありがとうございます。でも、私だってこの合宿で自分の身は自分で守れるぐらいには強くなってみせますよ!」
「そ、そっか、俺も隣で応援してるよ。実技中に近くに居れるのは今日が最後かもしれないけど」
「……っ! あ、ありがとう、ございます……」
嗚呼、言ってしまった。ちゃっかり隣に居るって言ってしまった、まさか今ので俺の気持ちもバレてしまったのでは!?
そう思いアリシアの顔を見てみれば頬は若干赤く染まって見えるものの特に普段と変わった様子は無く、いつも通りの彼女と言った感じだった。
バレてないのは安心したけど少しぐらいは動揺して欲しかったな……
でも、アリシアもこの合宿で今よりもっと強くなろうとしてるんだから俺もそんな事ばかり考えて無いで集中しないと。
そうして決意を改めていると後ろからサリーが声をかけてくる。
「あのー2人とも、仲が良いのはいい事なんだけど今は全体での行動中だから少し抑えよ? ほら、見慣れてるAクラスの人達はともかく他のクラスの人からの視線が凄いから……」
サリーからそう言われ辺りを見回してみれば確かにAクラス以外の人達からチラホラと視線を向けられている。
「な、なんか、ごめん……」
「あ、す、すいません……」
うん、やっぱりまた今度2人でゆっくり出かけよう。合宿が終わったら絶対に誘う!
その為にも今回の合宿は何としても乗り越えなきゃな。じゃないと落ち着いて外出もできないだろうし。
そうして俺の合宿後の目標が決まると同時に合宿を何としても乗り越えると言う気持ちも固まった。
だが、この時既に邪悪な影は近づきつつあった。まさかこの夏合宿を皮切りにあんな事態に陥るなんて、この時の俺は想像もついていなかっただろう。
今思えば、あの事件はただの始まりに過ぎなかったのかもしれない。
そんな嵐の前の静けさの様な空気に気づくことも無く俺は今この瞬間を無邪気に楽しんでいた。
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