第5章 神竜国ドラグリア編 八十三話 竜王の知ること


「そう睨むな。この場では何だ、場所を移そう」


 そう言って玉座から立ち上がった竜王は俺の後ろ、部屋の出口へと歩いていきそれに続いて俺も部屋を後にする。


 竜王に連れられやってきたのは竜皇殿にある談話室のような部屋だった。

 奥にある椅子に座ると竜王はおもむろにさっきまでの会話の続きを話し始める。


「さてと、早速本題に入ろう」

「……お願いします」

「全てを話すならば、まず俺がどこまで知っているのかを説明せねばならんな。はっきり言ってしまえば、俺がお前について知っているのは別世界の人間と言うこととその世界での名前だけだ」

「それは、どうやって知ったんですか?」

「この目だ」


 そうして竜王は右目にかかった前髪を上げ青く鋭い瞳を見せた。竜王の左目は琥珀色、所謂オッドアイという物だ。


「見た目だけでも分かるとは思うが俺の右目は少々特殊でな。これの正体は『竜眼』というスキル何だが、お前の素性はこの竜眼の能力で知った」

「? ちょっと待ってください、この世界にスキルがあるなんて初耳なのですが」


 前世での記憶を思い出してからの10年間この世界で暮らしてきたがスキルなんて聞いたことも無い。てっきり前世で読んでいたスキルの存在するラノベの様な世界とは違う仕組みだと思っていた。


「いいや、お前の言う通りこの世界にスキル何てものは無い。ただ単に俺が竜眼の様な特殊な能力をわかりやすく解釈するためにスキルと呼んでいるだけだ」


(なるほど、スキルは存在している訳では無いのか)


「だが、スキルは無いが俺の竜眼のような特殊な能力を持つものも中には存在する。近場で上げるとすればグレンがそうだな」

「グレンさんが?」

「あいつの会話の中にどこか違和感を感じなかったか?」


(違和感……)


「あ、そう言えば……。グレンさんは俺達がまだ名乗っていないのに何故か名前を知っていた。もしかしてそれもスキル何ですか?」

「嗚呼、あいつのは先見眼と言ってな。幾つかある自分の少し先の未来の中からランダムに見ることが出来る。と言っても自分で好き勝手に使える訳ではなくふとした時に突然頭の中に流れてくるらしいがな」

「使い勝手の悪い未来予知みたいな物という事ですか」

「その解釈で問題ない。話を戻そう、この世界には俺やグレンの様な特殊なスキルを持つ存在が少なからずいるという事だ。先天的にしろ後天的にしろな」

「スキルについては分かりました。竜王が俺の前世を知っている理由も。それじゃあ、俺の事はどこまで知っているんですか?」


 俺が異世界人と言うことと前世での名前を知っているのはさっきの会話からも分かっている。後はそれ以外の事を知っているのかどうかだ。


「さっきも言った通り俺が知っているのはお前が異世界人と言うこととその世界での名前だけだ。だが、竜族や竜人族の会話方法の一つであるテレパシーを応用する事で相手の考えを一方的に読むことも可能だ。これを使えばお前の前世での知識や用語を知ることも出来る」

「なるほど、分かりました。最後に、さっき言っていた面倒な事情と言うのは何ですか」


 俺の事を知っている理由は竜王の能力か何かだろうと大方予想はできた。だから話を聞いて特に驚くことも無かったが、この面倒な事情と言うのには全く心当たりが無い。


「それについてだが、正直話すのが面倒だ」

「なっ! それはどういう事ですか」

「すまんすまん、面倒な事に変わりは無いがちゃんと話す。ついでに面倒な理由もな」

「ならいいですが……」

「まず最初に、お前は自分が4属性持ちと言うことに違和感を覚えたことはあるか?」

「い、いえ、特には……。珍しい事だとは自分でも思ったことがありますけどこれも異世界転生者だからじゃないんですか?」

「まぁ確かに、お前の前世の知識ではそう捉えてしまっても仕方がないだろう。だがそれは勘違いだ。お前が4属性持ちと言う希少な力を持って産まれたのは他に理由がある」


(と言うことは……)


「それが面倒な事情と関係があるって事ですね」

「そうだ。古の時代、悪魔と天使の争いがあったのは知っているか?」

「はい、大まかにですが内容も少し……まさか、あの大戦も関係しているんですか!?」

「いや、今回の件に関してはあの大戦は関係無い。それよりもその話の中に出てくる天使と悪魔の方が重要だ」

「天使と悪魔?」

「今の時代ではその2つの種族は滅び、世間一般では御伽噺の中での、空想の存在でしかない。だがな、この2つの種族は確かに存在していた」

「それが今回の件と何の関係が?」

「今語り継がれている話の中で天使と悪魔と言えば実態を持ちその肉体と他種族よりも秀でた魔法の才能で魔法を繰り出し戦う種族だが、本来のこの2つの種族はどちらかと言えば精霊に近い」


(精霊……)


「と言っても近いと言うだけで実態は確かに持っていた。存在として精霊に近いと言うだけだ。そして、今回の件はその精霊が関係している」

「精霊が、ですか?」

「嗚呼、まぁ詳しい事は口止めされていてな。が言うには『いつかその時が来れば自分でちゃんと伝える』らしい」

「あいつって、一体誰なんですか。その時って言うのも具体的にいつなのか全然分からない」

「それについてもいづれ分かる。だが、俺も一目見て分かったことがある」

「分かったこと?」

「東霊司……いや、アレックス・フォン・アルカード。お前は、精霊に愛されている。それはともすればこの世界の全ての精霊が対象と言える程に。そこに例外はなく4属性を司る四大精霊でさえも……。俺から言えるのはこれだけだ」

「なるほど、正直最後の方は話のスケールが大きすぎて理解に頭が追いついてないですが……教えてくれてありがとうございます」

「気にするな。最初からこの件に関しては一対一で話さなければならないと思っていた。こちらこそ、あまり話の核たる部分を言えなくてすまないな」

「いえ、大丈夫です。それが俺が会うべき人との約束なんでしょう。これからは自分でも少し精霊について調べてみます。そうすれば、何か手がかりが掴めるかもしれない」


 精霊に愛されている……か。今は未だ何が何だか分からないが、それもいつか分かるということだろう。


「それが良いだろう。まぁ、あまり焦る必要は無いと思うぞ。これはただの勘だが、お前が自分の正しいと思う行動を続けていれば近い内に必ずあいつの元まで辿り着く。それに、あいつ自身もまだ気持ちの準備ができてないんだろう。それさえ済んでしまえばあちらから接触してくる可能性だって有り得る」

「分かりました、覚えておきます」

「よし、大事な話も終わった所でお前は変わらずこの国の敷地で修行をする事は出来ない訳だが……」


 そうだった、まだその面倒な事情の手がかりを見つけやすくなっただけで解決したわけじゃないんだ。俺がこの国で修行出来ないことには変わりない。


(だが、そうなると今日からどうするか……修行は数日間する予定だったが暇になってしまったな)


「そんな暇なお前に俺から提案がある」

「提案、ですか?」

「嗚呼、お前の武器は確かトランプと言ったか? 前世ではそのカードを使ってゲームをしていたんだろう。皆の修行が終わるまで俺にそのゲームを教えろ。グレンが付き添いで言ってしまったからな、正直俺も暇だったんだ」

「それも、俺の思考を読んだんですか?」

「そうだが、何か問題でもあったか?」


 竜王はそう言って挑発的な笑みを浮かべた。


「いいえ何も。10年ぶりにトランプが出来ると思うと楽しみです」

「そう言う事なら早速始めようではないか。ほら、早くルールを教えろ」

「はいはい、分かりました。そう焦らなくとも時間はたっぷりありますよ」


 そうして、俺は皆が戻ってくるまでの間竜王にルールを教えつつ懐かしい故郷のゲームを楽しんだ。

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