第1章 魔法学院入学編 五話 試験が始まりました


 ――入学試験当日、俺は部屋の窓から空を眺めていた。今日が入学試験本番だと思うと少し緊張してしまう。


「失礼します。レオ様おはようございます。準備はできましたか?」


 そう言ってカレンが迎えに来てくれた。


「あぁ、おはようカレン大丈夫だよ」

「皆様既に門の前にお揃いです。」

「分かったすぐ行こう。」


 そう返事をすると俺は部屋を出た。門の前に着くと既にみんな見送りの準備はできていて主役の俺がどうやら1番遅かったらしい。


「レオ、遂にこの時が来たな」

「うん、父さんここまで長かったよ」

「この程度で根を上げていたら身が持たんぞ本番はここからだからな。お前なら大丈夫だとは思うが気を抜かず全力で行ってこい」

「うん、全力を出してくるよまだスタートラインにも立ててないからね必ずと合格してくる」

「レオお前なら絶対合格できるさ!」

「そうよ!レオちゃんには凄い才能があるんだから!」

「ははっ、ありがとうアラン兄さん、母さん」

「今日は寮に入ってるロイスも帰ってくる予定だからな夜はパーティーを開こう」


 その時母さんの隣にいたカレンの後ろから声が聞こえてきた。


「レオお兄様!頑張ってください!」


 そう言って顔を出したのは俺の4つ下の妹であるマナだ。


「あぁ、マナ。ありがとう行ってくるよ」


 そうしてみんなに返事を返した俺はゼルさんの引く馬車に乗り込む。


「それじゃあ皆!行ってくる!」


 俺のその言葉と同時に馬車は走り出した。


 ――アストレア魔法学院。それが俺が試験を受ける魔法学院の名前だ。魔法学院はこの国にいくつかあるがその中でもこのアストレア魔法学院はこの国でトップの魔法学院だ。卒業生からは何人もの実力者を排出しており現役の軍で活躍している人の大半はここアストレア魔法学院出身だ。

 学院の前に着き馬車から降りて少し歩くと見知った大きな背中が見えたので俺は声をかけることにした。


「おーい!ダリスー!」

「おぉ!レオ、来たか!」


 そう、返してきた巨漢の名はダリス・フォン・グランディオ。5歳の披露宴の時に出会い親同士も仲が良く同じ子爵家の息子ということもあり仲良くしていた幼馴染だ。


「久しぶりだな!半年ぶりか?お前また大きくなったんじゃないか?」

「もうそんなに経ったか、体は常に鍛えてるからな!」


 出会った時も俺よりデカかったこいつだがその後もぐんぐん身長も伸び今でも伸び続けているらしい。趣味が筋トレという事もありとにかく威圧感のある男だ。


「遂にこの時が来たなお互い頑張ろう!」

「おう!お前のことだ心配はしてないがお互い合格できるといいな!」


 そうして俺とダリスが話していると門の前に人だかりができざわつき始めていたどうやら誰か来たようだ。

 そうしてその人だかりから出てきたのは長い金髪に翡翠色の目が輝く美しい少々アリシアだった。

アリシアは俺を見つけると走ってこちらに近づいてきた。


「レオさん!おはようございます!」

「あぁ、おはようアリシア」

「この間は助けていただきありがとうございます!」

「その件に関してはその時も礼を言ってもらったしもういいよ。当然のことをしたまでだし。

それより今日はお互いに頑張ろう」

「はい!頑張りましょう!」


 俺とアリシアが話していると俺の後ろからダリスがその中に入ってきた。


「アリシア様。おはようございます!その、レオとはどんな関係で?とても親しいようですが…」

「ダリス様、おはようございます。レオさんにはこの間魔物の群れに襲われている所を助けていただいたんです!」

「なるほど!そうでしたか!やるな、レオ!入学前に魔物の群れを討伐するなんて、俺も負けてらんねぇな!」

「大した事ないよ相手はDランクのオークでしかも小型な上に護衛隊の人達が先に消耗させてくれてたから」

「それでも9体もいた群れを殆ど1人で倒されたレオさんは凄くかっこよかったですよ!」

「そう言われるとちょっと照れるな…」

「それじゃあ私はこの辺りで失礼します」

「うん、今度会う時は結果発表の時だね」


 そうして俺とダリスはアリシアと別れ試験会場に向かった。


 この試験は300人の受験者をA〜Jまでの10グループに分けるらしいその中から合格できるのは半分以下の140人だ。

 俺のグループはEグループでダリスはGだったので入口の前で別れた。試験会場に入ると中には既に何人か受験者が集まっていていた。時間まではまだ少し時間があるし端の方で休憩していよう。すると1人の男が話しかけてきた。


「これはこれは、レオナルド殿では無いか!まさか君のような底辺貴族とこの俺が同じグループだとは驚いたよ」


(誰だ?この人。こんな人知り合いにいたか?)


「すまない、どこかであったことがあったか?」

「何?私のことを知らないだと?はっ!これだから底辺貴族は嫌になる。いいか、よく聞け!俺の名はブリッツ・フォン・べリス!べリス公爵家の次男でこの学年でトップになる男だ!」


 べリス公爵?披露宴の時に父さんに絡んできた人が確かべリス伯爵と言っていた気がするがこの10年の間に昇格したのか。性格はあれだが意外と優秀な人なのか?

 それはともかくそのべリス公爵の息子か披露宴の時顔は合わせなかったが確かに帰り際に子供を連れていた気がする。あの時の息子が今俺の前に立っているブリッツという事か。


「そうか、よろしくなブリッツ」

「よろしく、だと?貴様この俺を舐めているのか!俺は公爵の息子だぞ!貴様とは格が違うんだ本来ならばこうして話すことさえありがたいことなんだぞ!」


 うむ、言いたいことは分かった。俺とブリッツでは格が違うと、けどこの国では身分差別は法で罰せられている。こんな大勢の前で堂々と罰せられないことを言うなんて何を考えているんだ?こいつも父親に似てどうやら選民意識が強い傾向にあるようだ。

 全く、あの親にしてこの子ありと言ったところかめんどくさい事になりそうだ。とりあえずこれ以上騒ぎが大きくならないように適当に謝ってこの場は流しておこう。


「そうか、それはすまなかった。今後は気をつけよう」

「貴様、どうやらまだ自分の立場がわかっていないようだな…まぁいい貴様と顔を合わせるのも今日で最後だろう貴様のような底辺貴族がこの試験に合格できるはずがないからな!」


 そうしてブリッツは部屋の反対側へ去っていた。

それから数分達どうやら試験が始まるようだ。

まずはこの先の部屋に進みそこにある魔力結晶で自身の魔力を測るらしい。

 試験管の指示に従い俺達受験者は奥の部屋へと進んだ。


「おぉ、これが魔力結晶か…」


 俺は初めて目にする魔力結晶の大きさに驚いていた。高さは3m、横の長さも1mはあるだろうかという大きな石が専用の台座の上に置かれていたのだ。


(なるほど、この魔力結晶に触れることで触れた人の魔力が数値として表示されるのか)


 そして1人目の受験者から順に魔力測定が開始された。俺は1番最後みたいだ。

 魔力測定が始まりちょうど半分の受験者の測定が終わった。ここまでである程度の魔力の平均値がわかってきた。平均値はだいたい2000ぐらいで稀に4000前後の人がいるようだ。そんな時魔力結晶の方からいくつか小さな声が上がった。


「おぉ、」

「凄いな」

「4720、今日で1番大きいんじゃないか?」

「あいつって平民だろ?平民であの魔力値はかなりの才能だぞ」


 どうやら今計測していた人の魔力値が本日最高をたたき出したようだ。


(へぇ、確かに平民で5000近い魔力値は貴族と比べても遜色ないな…)


 魔力量は小さい頃に魔法を酷使すれば増えやすいが素の魔力量は生まれ持った才能に大きく左右される。

 だから一般的に貴族と平民では貴族の方が魔力量が多いが稀にこうして貴族と同等かそれ以上の魔力量を持つ者が平民でも産まれるようだ。

 その後も魔力測定は順調に進んでいきどうやら次はブリッツの番のようだそしてブリッツが魔力結晶の前に立ちその手で魔力結晶に触れると表示された数字は5170


 その瞬間さっきよりも大きな声が周りから聞こえてきた。


「5170ってさっきの奴よりも高いぞ!」

「さすがはべリス公爵の息子」

「魔力量も大きかったか…」


 なるほど自分より低い地位の者に強く当たるだけはあるということか。

 そんな事を考えているとブリッツがゆっくりとこちらへ近づいてきた。


「ふっ、どうだレオナルド私の魔力量は!この魔力量を見ては貴様もその舐めた態度をとれんだろう」

「うん、まぁ確かに凄いな」

「チッ…まぁいい、せいぜいそうして強がっているがいいその態度も試験の結果が発表されれば改めることになるだろうからな」


 そう言い残しブリッツは測定が終わった者の待機場所へと去っていった。

 そしてその後数人の測定が終わった後遂に俺の順番が回ってきた。


「それでは、魔力結晶に触れてください」


 試験官のその言葉を合図に俺は魔力結晶に触れた。

 表示された数値は…


『15700』


  その数値が表示された瞬間その場は一瞬静まりその後すぐに今日1番の歓声が上がった。


「1万超だと!?」

「凄いなんて物じゃないぞ!」

「あいつ何者だ!?」

「あの服装は貴族だよな?どこの家の子だ?」


 そう周りが騒ぐ中ただ1人ブリッツだけは震えながら下を向き何かを呟いていた。


「…えない、ありえるはずがない!なんだその数字はぁ!?」


 そう憤りながらブリッツがこちらへ近づいてきた。


「なんだって言われても、俺の魔力量だけど…」

「それをありえないと言っているんだ!聞いた話によれば貴様は光と闇属性を持っているそうじゃないか。それだけでも信じられないのにこんな魔力…何か不正をしたに違いない!」


 試験官の人が見てる前でそれもただ触れるだけの試験で不正なんてできっこないじゃないか。だがそんな事を言ってもこいつが信用するとは思えずどうしようかと考えていると試験官の人が声を出した。


「そこまで!確かにレオさんの魔力量は凄い数値ですが今は試験中です。この後もまだ試験は残っていますなのでこの場はどうかお静かに」

「チッ…俺は信じないからな」


 そう言ってブリッツは何とか冷静さを取り戻し元いた場所に戻って行った。ふぅ、何とか収まって良かった。そして俺も測定が終わった者の待機場所に行くと…


「お前やるなぁ!驚いたぜ!」


 そう声を掛けてきたのは先程4720乗り魔力値をたたき出した平民の男子だった。


「俺はバーン。バーン・ダイスだ!お前は?」

「俺の名前はレオナルド。レオナルド・フォン・リヴァイスだ。気軽にレオって呼んでくれ」

「レオか、これからよろしくな!それよりお前の魔力量すげぇな!生まれつきあんなに高いのか?」

「いや、俺の魔力量自体は生まれつき高いわけじゃないよ」

「それじゃあなんであんなに高いんだよ?」

「子供の頃は魔力量が増えやすいのは知ってるか?」

「あぁ、何となくだけどな」

「魔力量って人の体と同じで使えば使うほど成長していくんだ。さっきブリッツの話を聞いていたと思うけど俺の属性は光と闇で他の4属性よりも魔力の消費量が多かったんだよね。」

「なるほど、けどよ!それでもあんなに大きくなるか?」

「それを詳しく話すには今じゃ少し時間が足りないかな。お互い試験に合格すれば同じ魔法学院生だゆっくり話せる時間もできると思うよ」

「まぁそうだな!合格すれば今後話す時間なんていくらでもあるんだますますやる気が出てきたぜ!この後も頑張ろうな!」

「あぁ、お互いに頑張ろう」


 そして俺達は試験官の人の指示のもと次の試験場所である魔法演習場に向かった。

 魔法演習場はさっきの部屋の2倍は広さがあり遠くの方に人型の的が5体並べられていた。


「第二試験はあの的に向かって5人ずつ魔法を使ってもらいいます。採点方法は威力、速度、精度、魔法発動までの速さの4つの項目を各25点の合計100点で採点します。条件ですが使える魔法は1つの属性のみそれと数回的に攻撃が当たる魔法も使用禁止です。では、最初の5人は前へ」


 試験官の人のその合図で第二試験がスタートした。

だが、第二試験が始まり俺はすぐに思った。


(なんか…詠唱長くない?)


 そう最初の5人の詠唱は無駄に長かったのである。

魔法とは詠唱をするのとしないのとでは威力が段違いに変わってくる。だから威力を出すために詠唱をするのは間違ってはいない。

 だがそれは長ければいいと言う物でも無いのだ。確かに詠唱は短くすればするほど難易度も上がるがその分威力や精密さも段違いだ。

 今回の試験には威力と魔法発動までの速度が採点内容に入ってきている。無駄に詠唱を長ったらしくするのは得策ではない。それなのにこの5人は全員揃って


「燃え盛れ、紅蓮の炎よ!その激しい業火で全てを焼き尽くせ!火弾フレイム・バレット!」


「荒れ狂う水流よ、その力で全てを飲み込め!水弾ウォーター・バレット!」


「その絶対零度の冷たさで森羅万象を凍らせろ!氷弾アイス・バレット!」


「吹き荒れろ疾風、なぎ倒せ暴風!その恐ろしき力で敵を吹きとばせ!風弾ウィンド・バレット!」


「大地よ、我にその絶大なる力を与えよ!土弾ロック・バレット!」


 などとなんの意味があるのかも分からない長ったらしい詠唱をしている。全く目も当てられないな。

そして2組目へと順番が変わった他の受験者もこんな感じなのかと思いきや1人だけ違っていた。


「弾けろぉ!!火弾フレイム・バレット!!!」


 その詠唱とは呼べないような詠唱で魔法を使ったのはバーンだ。

確かに詠唱としては成り立っている短くも威力も充分に出ている。だがこんな詠唱を見たのは始めてて遂笑ってしまった。

そして2組目3組目もバーン以外は1組目と似たように長い詠唱で終わり4組目遂に俺の番だ。


(仕方ない、少しお手本を見せるか)


 そう意気込み俺は他の4人と共に前へ出る。そして試験官の人の合図で試験が始まる。


「それでは、始めてください」


(それでは見せてあげよう。本来詠唱とはこれでいいのだ)


光槍ホーリー・ランス


 そうして放った俺の魔法は圧倒的な速さで的を貫くどころか跡形もなく消し去りそれでも勢いは止まらず演習場の壁に衝突しやっと消滅したのだった。それを見た周りの反応はと言うと…


「な、詠唱簡略化だと…」

「しかもあの速さと威力」

「桁違いだ、、」

「ば、化物…」


 おいおい、化物は酷くないか?ここまでの威力は出ないと言えど練習さえすれば一応誰にでもできることなんだけどなぁ…


 そして俺が待機場所へと戻ると1番後ろの5人組の中に下を向いて何事かを呟いているブリッツを見つけた。また面倒な事にならなきゃいいけど…

 だが俺のそんな心配は杞憂に終わりその後も第二試験は順調に進み無事終了した。

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