第1章 魔法学院入学編 四話 驚愕


 ――とある森。その中を走り抜ける1つの影があった。


 大地を踏みしめ力強く走る彼の名はレオナルド。

 リヴァイス子爵家の三男であり今年魔法学院入学を控える若き青年だ。

 彼は今日課である魔法の特訓のためリヴァイス家の領地内にあるウィルダーナの森に来ていた。


「お、獲物発見。この距離ならあれでいいかな」


 そう言いながらレオは右手に光り輝く魔力を集め前方へ向けて放つ。その魔力弾は獲物へと真っ直ぐに飛んでいき前方にいた猪の息の根を止める。


「よし、今日はこの辺で戻ろうかな」


 そうしてレオは倒した猪をどこからともなく出現させた灰色の歪んだ穴の中にしまった……



 ◇◆◇◆◇◆



 ウィルダーナの森からリヴァイス家の屋敷まではそこまで遠くなく俺が走って30分ぐらいの距離だ。

 ただし、道中に小さい丘があるため登る際はかなり疲れる。とてもじゃないけど移動が辛くないとは言えない道程だ。

 俺が屋敷の前に着くと庭の掃除をしていたカレンが態々出迎えてくれる。


「お帰りないませ、レオ様」

「あぁ、ただいまカレン。今日もいっぱい食材が取れたよ」

「でしたらすぐに厨房の方に回さないとですね。あ、そういえば、お父様がお呼びでしたよ?」

「父さんが? 分かった、食材を置いたらすぐに行ってみるよ」


 どうやら父さんから話があるらしい。多分、あの事についてかな。

 そうして俺は厨房に行き使用人の人に捕まえた食材を渡し急いで父さんの書斎まで向かった。



 ◇◆◇◆◇◆



「失礼します。父さん、カレンから話があるって聞いて来たよ」

「あぁ、レオ帰ったか。そうなんだ実は1つ提案があってな」

「それって、入学に関係してること?」

「あぁ、そうだ。お前の受験する学院は王都のアストレア魔法学院だろう? ここから通うには少し距離があると思ってな。良かったらお前には王都にある小さい屋敷に住んで貰おうと思ったんだ。」


 この屋敷は王都からそこまで遠くない領地にあるけどそれでも王都まで行くとなったらそれなりに時間はかかってしまう。朝に登校するにはかなり大変だろうからその提案は嬉しいんだけど……


「その提案は助かるけど……俺ならあの魔法があるしここからでも無理なく通えるよ?」

「確かに、お前の魔法ならここからでも問題無いだろう。だがお前の魔法は人前で使うには目立つからな、魔法を使う度に騒ぎになっては面倒であろう?」

「そう言われると確かに面倒くさそうだ……分かった。有難く使わせてもらうよ」

「あぁ、でも、王都まで距離があると言っても1時間程だからな。休日には問題なく帰って来れる距離だし、母さん達もあんまり顔を見ないと寂しがるだろうから……」

「ははっ、大丈夫、わかってるよ。入学してすぐは厳しいかもしれないけど時間がある時は必ず帰るよ。あ、それと、1人じゃ生活するのに少し不安だから使用人の人を何人か一緒に行ってもらってもいいかな?」

「あぁ、元からそのつもりだ。王都の方には何人か連れていくといい。カレンも行きたがるだろうからな。

それと、アランの奴も一緒に行かせようと思ってる。あいつにも実際に家の経営をしてもらういい機会だからな」

「アラン兄さんが一緒に来てくれるなら安心できるよ」


 そうして俺の王都への移住が決まった。


「と言ってもまずは入学試験に合格しなければなんの意味も無い。お前なら大丈夫だと思うが、しっかりな。それと明日はちょうど休日だからアラン達と一緒に下見に行ってみるといい。アランには既に伝えてある」

「分かった準備しておくよ。それじゃあ、そろそろ戻るね」

「あぁ、わかった……そういえば、今日は何を採ってきたんだ?」


 そう言って父さんはニヤリと笑う。


「今日は猪が1匹と兎が2匹。鹿も見つけはしたんだけど子供だったからさすがに可哀想だと思ってやめたよ」

「そうか、家の使用人の作る鹿肉の料理はいい酒のツマミになるから楽しみだったんだがな。子鹿では仕方がない。また今度楽しみにしてるぞ」

「うん、それじゃあ」


 そうして俺は書斎を後にし部屋へと戻った。



 ◇◆◇◆◇◆



 翌日、俺はアラン兄さんとカレンの3人で王都の屋敷を下見に行くため庭に止めてある馬車に乗っていた。


「それじゃあ父さん、母さん行ってくるよ」

「気をつけてね。って言っても今日は下見だけで夕飯までには帰ってこれるんだったわね」

「あぁ、何も無ければ夕方にでも帰れると思うよ。母さん」


 アラン兄さんが母さんにそう伝える。


「ゼル、道中何かあったら頼んだぞ。まぁ、お前が出る前に大抵の事はレオが何とかしそうだが……」

「ははっ、そうですな。どちらにしろ何も無いことが1番良いですがお任せ下さい」


 そうしてゼルさんは父さんに一礼した。今日の御者はゼルさんだ。


「それじゃあ行こうか。ゼルさんお願いします」


 アラン兄さんのその言葉で馬車は走り始める。


 王都か、最後に行ったのは3年前に母さん達のおつかいに付き合った時だっけ? 王都の屋敷ってどんなところなんだろう


 そうして俺は少しワクワクしながら兄さん達と今日の予定について話をしながら道中を楽しんだ。



 ◇◆◇◆◇◆



 王都まであと20分ぐらいの所まで来ると御者台の方からゼルさんが顔を出した。何かあったのかな?


「アラン様、前方に魔物の群れに襲われている1団がいますがどうなさいますか?」

「なんだって!? 魔物の種類と状況は?」

「魔物はオークが9体見えます。応戦しているようですが、魔物の数が多く防戦一方と言ったところでしょうか」

「それは大変だ、レオ頼めるか?」

「うん、わかった。行ってくるよ」


 ここから襲われている所まではそこまで距離は無い。この距離ならギリギリ間に合うか、とにかく急がないと!


 そうして俺は止まった馬車から外へ降り、魔法を使って襲われている馬車の元へ

 俺がつく頃にはギリギリの状況で何人かの護衛の人は負傷して下がっていた。

 俺は闇弾ダーク・バレットを1体のオーク目掛けて放ち一見何も無い様に見える空中から1本の剣を

 突然死角からの攻撃を受けたオークは何が起きたのか戸惑っている様でその隙に俺はオークの首を素早く切り落とす。


「大丈夫ですか!」


 俺が護衛の人に声をかけると隊長らしき人が答える。


「その肩の家紋はリヴァイス子爵の? だがなぜ……」

「魔物に襲われているのを見かけたので、助太刀します!」

「それは助かる、 1人でも戦える者の手が借りたかったところなんだ。だが、見るからにまだ子供に見えるが大丈夫なのか?」


 俺はその問いに頷いて答える。

 その後、闇弾ダーク・バレットを2体のオークの頭部に当て視界が混乱してる間に切り倒し、光弾ライト・バレットを連射して3体のオークの息の根を止めた。

 俺が順調にオークを倒していると護衛の人達も体制を建て直したのか1体のオークを討ち取っている。


 これで残りは2体かそれなら……


 俺は空中に10本の光の矢を作り出し、2体のオーク目掛けて放った。その矢は5本ずつ敵のオークに命中し一瞬の間に葬り去る。


「ふぅ、とりあえずこれで終わりかな」

「すまない、助かった。その家紋に光魔法と闇魔法を使うという事はもしや君が噂のレオナルド君かい?」

「噂になってるかは知らないですけど……光と闇魔法を使うレオナルドなら確実に俺ですね……」


 多分と言うか確実に俺だ。まず光と闇魔法どちらも使えるのはこの国の歴史上でも1人もいないしそれで同名なら疑うまでも無いだろう。


「本当にありがとう! 君が助けに来ていなければ我々がやられるのも時間の問題だった。それにしても、どうしてこんな所に?」

「魔法学院に入学するにあたって王都の屋敷に移ることになりまして、今日はその下見です」


 そうして俺が護衛隊長と話していると少し遅れてアラン兄さん達が到着した。


「大丈夫ですか?」

「これは、同行されていたのはアラン殿でしたか! 危ない所でレオナルド君に助けていたいたので全員何とか無事です」

「皆さんに大きな怪我がなくて良かったです」

「ありがとうございます。幸い負傷した護衛も傷は浅く後ろで治療してるのですぐに良くなるとはずです」

「それは良かった。そうだ! 馬車に乗ってる人は大丈夫でしたか?」


 そう言って俺とアラン兄さんが馬車の方に目を向けるとそこには見覚えのある紋章がついていた。


 あれ、まさか……この紋章ってもしかして……


 その時、馬車から1人の少女が降りてくる。その少女は俺と兄さんどころかカレンやゼルさん達も見覚えのある人物であり俺と兄さんは隣でお互いの目を見て驚いていた。


「先程は助けていただきありがとうございました。襲われた時はどうなることかと……」

「こ、これは、アリシア様! どうしてこんな所に!?」


 そう、馬車から出てきたのはこの国の第2王女、アリシア様だったのだ。


「私も今年で15歳になるので、休日には近くの村に挨拶回りに行っているんです」


 この国では18才から成人だが王家の人は15歳の頃から近隣の村や町に挨拶回りをすると昔父さんに聞いたことがある


「それに私は今年から魔法学院に通うので挨拶回りをする機会も減りますし、時間のある時はなるべくこうして近隣の町に赴いていて……」

「なるほど、そうでしたか。本当に無事で何よりです」

「はい、誰も酷い怪我もせず死者も出なくて一安心です」


 2人の会話を聞いた俺はアリシア様の様子が少しおかしいことに気がついた。魔物に襲われたから気分が悪いのかな?


「アリシア様、少し失礼します」

「え、? 何を……キャッ!」


 そうして俺はアリシア様の手を持ち暖かい光で包み込むようなイメージで光魔法を使った。

 最初はアリシア様も不安の眼差しで俺を見ていたが自分の体調が良くなるにつれどうやら不安は無くなっていったらしい。


「体調が優れないようだったので。回復魔法程ではないですが光魔法でも気分を良くする事ぐらいはできるんですよ」

「あ、ありがとうございます……えっと、その、レオ様……ですよね? 先程の戦いぶり見させていただきました。とてもお強いんですね」

「いえ、そんなことないですよアリシア様も噂ではかなりの実力と聞きます」

「私なんてレオ様程では……あ、あの! よろしければレオさんと呼んでもいいですか?」


 王族の人が子爵の息子なんかの俺をさん呼びでいいのだろうか? と少し疑問に思ったがその呼び方に何か問題がある訳でもないので了承をした。


「はい、大丈夫ですよ」

「あ、ありがとうございます!そういえばレオさんも今年魔法学院に入学すると聞きましたが……」

「はい。確か……アリシア様もですよね?」

「そうなんです! お互い頑張りましょう!」

「はい、お互い入学出来たその時はよろしくお願いします」

「こ、こちらこそ! よろしくお願いします!」


 そう言ってアリシア様は深くお辞儀をした。

 

「あ、あの、助けて貰ったのにこんな事言うのも申し訳無いのですが……1つお願い事を聞いてもらってもいいですか?」

「はい、俺にできることであればなんでも言ってください」

「あ、ありがとうございます。その、レオさんさえ良ければなんですけど……様を付けずに、アリシアと呼んで欲しいんです! それと、敬語も使わずもっと気軽に接してほしいなって……」

「そ、それは……国の王女様を呼び捨てなんてできませんよ!」

「いいんです! 私がそう呼んで欲しいんです!」

「そ、それなら……わかりました。これからはアリシアって呼ばせてもらいます」

「敬語も無しです!」

「わ、わかっ、た……」


 俺の返事に満足したのかアリシアは満面の笑顔で笑っている。

 そうしてアリシアと話していると護衛隊長さんが声をかけてきた。


「アリシア様、馬車の準備が出来ました。そろそろ出発しましょう」

「わかりました。それじゃあレオさんまた学院で」

「うん、俺達も王都に向かう予定だったから途中までは一緒に行くよ。また魔物に襲われないとも限らないし」

「本当ですか! ありがとうございます」


 そう言って俺達はそれぞれの馬車に乗り王都を目指した。

 馬車の中では兄さんとカレンにアリシアと何を話していたのかと問い質された。

 カレンに至っては何故か少し涙目になりながら「レオ様に女の子のお友達が……」と譫言の様に呟いていた。

 俺、そんなに友達いないように見えたかな……ダリスの事はカレンにも話していたと思うんだけど……

 そんな事を思いながらアリシアとの事は適当にはぐらかし王都へと向かった。


 王都に着くとそこでアリシア達の馬車とは別れリヴァイス家の所有する屋敷に向かった。

 王都の屋敷は領地の屋敷よりも小さいけれどそれでも俺達だけで住むにしては十分すぎる広さであり立派な屋敷だった。

 今日はそれぞれの部屋を確かめ屋敷を見て周り帰ることになる。

 1ヶ月後にはここから魔法学院に通うと思うと今から楽しみでしょうがない。

 1時間後、そうして下見を終えた俺達3人はゼルさんの引く馬車に乗り領地の屋敷へと帰っていった。

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