第1章 幼少期編 三話 初めての友達


 父さんから披露宴に出るように言われてから3週間、今日は披露宴当日だ。


「レオ。準備はできたか?」

「はい、大丈夫です。いつでも行けるよ」

「よし、それじゃあ皆行ってくる。ゼル、留守は頼んだぞ」

「かしこまりました。御気をつけて行ってらっしゃいませ」

「と言っても王城に行ってくるだけだ夜には帰る」

「レオ様、お友達沢山できるといいですね!」


 そう言ったのはカレンだ。


「ははっ、頑張ってみるよ…」


 俺は王都にも片手で数えられる程度しか行ったことが無くしかも王城に行くという事もあり少し緊張していた。上手くやれると言いけど……


「そろそろ時間だな。それじゃあ出発してくれ」

「はい! かしこまりました」


 父さんが御者の人に出発するように言うと御者の人は馬を走らせた。


「それじゃあ、母さん、カレン、兄さん達行ってきます!」

「「「「行ってらっしゃい!」」」」


 そうして僕と父さんは今日の舞台である王城へと向かった。


 リヴァイス家の屋敷から王都まではそこまで遠くなく馬車で1時間程だ。俺は王都に着くまでの間父さんと今日の披露宴について軽く打ち合わせをした。

 王都に着き王城の前に着くと俺はその光景に驚きつい固まってしまった。


(うわぁー、今までは遠くからでしか見た事が無かったけど目の前まで来ると想像以上に大きいや。門だけでも家の門より一回り以上大きい……)


 その大きさはリヴァイス家の屋敷とは到底比べ物にならないような大きさで道中で少し和らいでいた緊張がさっきの数倍にまで跳ね上がったような気がした。


「そういえばレオは王城は初めてだったな」

「は、はい!」

「はっはっはっ! 俺も最初はかなり緊張したよそれこそ俺なんて平民だったからな。けど、何回も来てると案外慣れるもんだぞ?」


 父さんはそう言うが俺にはまだこの大きさに慣れることが想像出来ないでいた。

 そんな事を父さんと話していると馬車が止まる。どうやら入口に着いたらしい。


 俺と父さんは馬車から降りると中へと案内され入っていく。

 周りを見みると他にも貴族の人達が沢山来ており中には子供と一緒の人も当然いる。

 庭から場内に入ると披露宴が始まるまで控え室で待つように言われ控え室でこの後の予定についてある程度説明された後は少しの間休憩となった。


「披露宴まではあと1時間か、レオ30分後に広間に行くぞ」

「え、どうして? 1時間後ならもう少し余裕があるんじゃ……」

「家は子爵家だからな特にそう言った決まりがあるわけじゃないんだが家よりも高い爵位の人よりも早く行っていないと色々と面倒臭いことになるんだよ」


 父さんはそう言いながら苦笑していた。


「それに仲のいい家の方や家と同じ子息が参加してる方達にも挨拶をしておきたいからな」


 どうやら貴族が集まる場では階級の低い子爵と男爵は他の貴族の人達よりも先に並んで待っていないといけないらしい。


(なんだか面倒くさそうだな)


 俺はそう思うのと同時に将来この中で生きていかないといけないアラン兄さんに少し同情した。

 そうして話をしていると時間はあっという間に過ぎたようで……。


「そろそろいい時間だな。レオ行くぞ」


 そう言って父さんが立ち上がったので俺もそれに続き広間へ向かった。

 広間へ着くと既にいくつかの家の人が到着しており数人で談笑をしていた。


 そうして僕と父さんが歩いていると1組の親子が話しかけてくる。


「リヴァイス子爵! お久しぶりです!」

「おぉ、グランディオ子爵! お久しぶりです、半年ぶりですか?」


 どうやら父さんの知り合いの人らしい。かなり大きな人で父さんよりも一回りは大きいだろうか。


「そうですね、半年前の第1王女の誕生会以来なので半年ぶりですか! お元気そうで何よりです」

「そちらこそお元気そうで最近はどうですか?」

「はい、お陰様で細々とですが貴族として上手くやっていけてますよ!」

「それは良かった! これからも共に頑張っていきましょう!」


 そう言って父さんとグランディオ子爵は握手を交わしていた。


「ところで、そちらにいる子が前に言っていた……?」

「あぁ、紹介が遅れました。こいつが前に言っていた三男のレオです」

「レオナルド・フォン・リヴァイスです。よろしくお願いします」

「こちらこそ! よろしくね。うちの息子も君と同い年なんだ仲良くしてやってくれ」


 そう言ってグランディオ子爵の後ろから俺よりも少し背の大きな子が出てきた。


「ダリス・フォン・グランディオだ! よろしくな!」

「レオナルドだ、こちらこそよろしく。気軽にレオって呼んで」


 そうして俺はダリスと握手をする。初めての同世代の友達で少し嬉しくなりさっきまでの緊張が嘘かのように無くなっていた。


「お、早速仲良くなったようだなレオ。ところでそちらのダリス君の属性はどうでした?」

「それが家のダリスは火と土属性だったんですよ!」

「おぉ! 火も持っていましたか、グランディオ家は代々土属性だと聞いていましたがこれはめでたいですね! 将来はやはり魔法師団ですか?」

「はい、こいつも魔法師団には興味があるので15歳になったら魔法学院に入学させようと思ってるところです」


 どうやらダリスも魔法師団を目指しているらしい。


「うちのレオも魔法師団を目指していましてね」

「そうですか! それは良い、レオ君これからもうちのバカ息子と仲良くしてやってくれ!」

「はい、僕の方がお願いしたいぐらいです」

「そうかそうか! ところで、レオ君の属性はどうだったんだい?」

「僕は光と闇属性でした」

「「え?」」


 グランディオ子爵とダリスの声が見事に一致した。


「え、えっと今なんて?」

「光と闇属性です」

「親父、俺の聞き間違いじゃなきゃ光と闇って聞こえたぞ……」

「あ、あぁ、俺の耳にもそう聞こえたぞ息子よ……」

「えぇ、レオの属性は光と闇の2属性ですよ」

「「なっ、えぇ!?」」


 またもや2人の声がピタリと一致した。


「ひ、光と闇ってタダでさえ希少な属性を2つもですか!?」

「えぇ、これに関しては俺も同行していて驚きましたよ。はっはっはっ!」

「これは驚いた。レオ君、君には魔法の才能があるようだね」

「ありがとうございます。けど珍しいだけに分からないことも多いのでこれからできることを増やしていこうと思ってます」

「なるほど。これは将来が楽しみですな! リヴァイス子爵」

「はい、全くその通りですよ。それでは他の方にも挨拶に回らないといけないのでこの辺で失礼します」

「あぁ、長く引き止めてしまって申し訳ない、 また今度近いうちに酒でも飲みましょう。レオ君も改めて息子共々よろしくな」

「はい。よろしくお願いします」


 そう言って俺と父さんはグランディオ子爵達と別れる。その後も数件の子爵家へ挨拶に回り披露宴開始の時間になったので父さんと共に整列した。

 披露宴が始まると広間の扉が開き国王陛下と王家の人達が入ってくる。その中には俺と同い年ぐらいの子も見えた。


 あの子も同い年なのかな……


 ぼんやりとそんなことを思っていると国王が玉座に座りその後ろに王家の人たちが並ぶ。全員の準備ができたところで国王様が話し始めた。


「皆、今日はよく集まってくれた。このめでたき日に出席者が1人もかけることなく集まれたことを嬉しく思う。今年は例年よりも披露宴に参加する子息たちも多く、その多くの若き未来が希望に満ちることを願って披露宴を始めるとしよう。それでは乾杯!」


「「「「「「「乾杯!」」」」」」」


 国王様の合図と共に広間に並んでいた参列者がいっせいに乾杯の声を上げた。

 その後の流れは公爵家から順に国王と今年5歳になる第2王女様への謁見の時間となった。俺と父さんは子爵位なので順番はまだまだ後だ。それまでは自由に食事をしたり談笑をしていていいらしい。

 俺たちはまたグランディオ子爵達と一緒に談笑しながら食事を取っていた。

 謁見が始まってからしばらくすると俺たちの元へ中年ぐらいの1人の男が近づいてきた。


「これはこれは、『元平民』のリヴァイス子爵では無いか! 調子はどうかなぁ?」

「これは、ベリス伯爵。ご挨拶が遅れ申し訳ありません」


 どうやらこの貴族の名前はベリス伯爵と言うらしい。この人がアラン兄さんの言っていた一部の選民意識の強い上位階級の人か。


「ほんとだよ。まさかこの俺に挨拶をさせに来るなんていつから君はそんなに偉くなったんだい?」

「全く返す言葉もありませんな」


 父さんは苦笑混じりに返答する。


「何をヘラヘラとしている! これだから『元平民』は礼儀がなっていないと言われるんだ! 自分の立場を弁えるがいい!」

「これは、申し訳ない事をしてしまった。申し訳ない」


 そう言って父さんは頭を下げた。


「全く、君の爵位はなんだ? 子爵だろう!? 子爵が伯爵である俺に不遜な態度をとればどうなるか、わかっているんだろうな!」


 ベリス伯爵は尚もまくし立てる。


「ましてや君は『元平民』で本来ここにいてはいけない人間なんだ! それがこの場にいるだけでも腹立たしいと言うのにっ……」

 

 最後の方の言葉は小さくなってよく聞こえなかったがあの父さんがここまで言われて俺はとてもじゃないが我慢出来なかった。だがそこで前にアラン兄さんが言っていた事を思い出す。


 父さんがあの場で何も言わなかったのは自分が言われるだけなら耐えられるからだ。あそこで俺が何かを言って俺まで罵倒されたらそれこそ父さんは我慢ができないだろう。そしたら最悪の場合俺達家族の暮らしが危なくなるかもしれない。

 そうして俺が何も言えずにいるとベリス伯爵の口撃はより激しさを増していく。そんな時だった。


「そこで何をしている」


 横からその言う声が聞こえてきたのだ。


「こ、これは! アルカード公爵!」

「次の謁見はベリス伯爵、あなたの番だぞ。陛下を待たせる気か?」


 アルカード公爵と呼ばれたは男は透き通るような綺麗な銀髪を揺らし俺たちのいる場へゆっくりと歩いてくる。


「い、いえ! 陛下を待たせるなどそのようなことは決してありません!」

「ならいつまでそうしている。すぐに陛下の元へ迎え!」

「は、はい! 今すぐに!」


 そうしてベリス伯爵は直ぐに国王の元へ向かおうとするがアルカード公爵が声をかけた事によりその足を止める。


「ところでベリス伯爵。先程の会話が少し聞こえてきたのだが、『元平民』とはどういうことだ? この国では身分差別は法で罰せられているはずただが、まさか、誇り高きルステリア王国の貴族が法を破るような事は無いだろうな?」

「い、いえ! とんでもありません、そのような事は決して……」

「ならばいい、今回は見逃してやる。だが、次はないぞ?」

「は、はい……」

「わかったなら良い、引き止めて悪かったな。陛下を待たせてはいけない、すぐにこの場から立ち去れ」

「か、かしこまりました……」


 そう言ってベリス伯爵は足早に国王の元へと去っていった。


「いやはや助かりましたアルカード公爵。ありがとうございます」

「何、これぐらい貴族として当然のことだ。ベリス伯爵の選民意識は前々から気にはなっていたからな。リヴァイス子爵に何事もなくて良かった。ところでそちらの子はリヴァイス子爵の息子さんかな?」

「はい、家の三男のレオです。確かアルカード公爵のご子息も今年で5歳でしたかな?」

「あぁ、そうだ。レオくんと言ったか、グランディオ子爵のご子息同様家の息子とも仲良くしてやってくれ」

「は、はい! こちらこそよろしくお願いします」


 俺はアルカード公爵のその雰囲気に圧倒されガチガチに緊張していた。


「うむ、うちの息子も紹介したかったのだが先日から体調が優れなくてな今日も出席はしたのだが今はトイレに篭っている」

「そうだったんですか、道理で息子さんの姿が見えないと思ったら……」

「あぁ、だが家の息子も魔法学院に入学したいらしくてな。いつかはレオ君とも顔を合わせることになるだろう。それよりもグランディオ子爵から聞いているぞなんでも光と闇の2属性持ちなんだろう?」

「ははっ、お耳が早いですな。ご存知の通り家の息子は光と闇の2属性だったんですよ」

「それは凄い才能だ。だが、家の息子も才能だけなら負けてはいないぞ?」

「ほほぅ、それは気になりますな? アルカード公爵のご子息はもしや3属性持ちですか?」

「いや、4属性だ!」

「なっ! よ、4属性!? そ、それは確かに凄い才能ですね……これは将来が楽しみだ!」

「あぁ、この子達の世代は中々に才能豊かな者が多くなりそうだぞ。先程聞いた話によるとシルフィード辺境伯のご息女も2属性持ちらしいからな」

「グランディオ子爵の子のダイス君もいますしこれは凄いことになりそうですな……」

「あぁ、全くその通りだ。おっと次は子爵の番のようだなではまた今度改めてゆっくりと話そう」

「えぇ、こちらこそ。では失礼します」


 そう言ってアルカード公爵は去っていき俺達も国王謁見の列へと並んだ。アルカード公爵かぁ、なんか凄い人だったな。


 謁見の列に並んで数分後遂に俺と父さんの番が回ってきた。


「陛下! 本日は息子共々ご招待頂きありがとうございます」


 そう言って父さんが頭を下げるので俺もそれに習い頭を下げる。


「頭を上げよ。最近の調子はどうだ?」

「はい、お陰様で何とか与えられた領土は管理できています」

「うむ、リヴァイス子爵の評判は度々耳にしているぞ。領民からの信頼も厚いようで何よりだ。隣にいるのがリヴァイス子爵の息子さんかな?」

「はい! 息子のレオです」

「レオナルド・フォン・リヴァイスです。よろしくお願いします」

「あぁ、よろしく頼む。ちょうど今隣にいるのが娘のアリシアだ。この子も今年で5歳になる、仲良くしてやってくれ」

「アリシア・フォン・ルステリアです。よろしくお願いします」


 そう言ってアリシア王女は綺麗な動作でお辞儀をした。


「アルカード公爵の息子もそうだが今年は才能豊かな者が多いと聞く。何人かは既に魔法学院入学も決めているようだがアリシアもその内の1人でな」

「そうでしたか! 先程アルカード公爵とも話しましたが本当にこの子達の世代は凄い子達が揃っていますね」

「うむ、今から国の未来が楽しみだ」

「全くもって同感です。それでは私たちはこの辺で失礼します」

「あぁ、これからも国のためによろしく頼むぞ」

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします」


 そう言って俺と父さんは玉座の前から広間の方へ向かった。


 その後、披露宴は無事終わり迎え国王と王家の人達が退出したあとそれぞれ解散となり、俺は1日の疲れが押し寄せて来たのか帰りの馬車ではぐっすりと眠っていた。

 家に帰るとすぐにカレンが出迎えてくれた。

 だが、もちろん出迎えだけで終わる訳もなく友達はできたのかとか、虐められなかったかとか一気に聞かれる事になる。

 その場は疲れていたので明日話すと言って何とか逃げ出すことができたがこれは明日起きたら大変そうだな……

 そんなことを思いながら部屋に戻り明日からまた魔法の練習を再開するために今日は早めに寝ることにした。


 ――そして、時は進み10年後――

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