第5章 神竜国ドラグリア編 九十四話 戦闘開始
「なるほど、そのシン君の修行の成果が今の一撃と言うことか」
「はい。それでも、まだ全力では無いと思います」
「あれでまだ全力では無いのか。あんなのが敵にいたら生きた心地がしないが、今は頼もしい限りだ」
(まぁ、全力を出していないって言うよりは出せないって言う方が近い気がするけどな)
「ん……見えてきたな。総員、戦闘態勢!」
「「「了解!」」」
俺が今回の修行での事をダンさんに話していると、眼前に
「これは……」
「シンの奴、これじゃあ地下まで行く通路も何も残されてなさそうだ」
シンの開けた大穴のせいか、本来地下に繋がるであろう通路は消え去り、作戦では複数の通路を使い突入する方角を分けていたものの、今となっては出入口はただ1つ。この大穴だけとなっている。
「いや、だがこれはこれで好都合だ。土魔法を使える者は直ぐに道を作れ! ここから一気に突入するぞ!」
ダンさんの指示で部隊の中心に居た魔法部隊の中から数人が前へ出て、詠唱を始めた。
今回の作戦に編成された魔法部隊は全て魔法師団からの人員だ。となれば当然そのレベルも今まで見てきた学生のレベルとは段違いで、詠唱も短く、魔法発動までの時間も速い。
「全軍、突撃ィ!」
「「「おぉー!」」」
そうしてたった数秒で作られた幾つもの坂道を数人に別れ、同時に下る。
作戦ではこの後、俺たち第一部隊に続く形で第二部隊、第三部隊が突入する手筈だ。
「アレク、そっちはどうなってる」
『ちょうど今第一部隊の突入が見えたところだ。こちらも後に続く』
「了解」
アレクとの通信を切り、俺は坂を下るダンさんの元へ近寄る。
「第二部隊も直ぐに突入するみたいです」
「分かった、下にいる構成員は我々軍で取り押さえる。君は第二部隊が突入したら直ちにアレク君と合流し敵幹部を探してくれ」
「分かりました、それじゃあこっちは任せます」
「嗚呼、そっちも頼んだぞ」
「はい!」
今このアジトにある大きな魔力反応は五つ、その内二つはアレクとシンだろう。
(こっちに近づいてきてるのが多分アレクだな、奥の方へどんどん進んでるのはシンか。となると……)
「シンを追ってるのが今回の襲撃の主犯でこのフロアにいる二人が残りの幹部って所かな」
最も注目すべきはその魔力だ。片方は初めて見るが、フロアの端でじっと動かない方には見覚えがある。夏合宿襲撃者の中の一人だ。
(俺が見たことある反応って事はノワールかゲルトって言う奴だ。どちらにしても傷は相当深いはずだけど、俺が修行に行ってる間にここまで来れる程回復したってことか)
「とりあえず、先に向かうならこいつの方だな。どっちが居たとしても手の内が知れてる分対応もしやすい」
そうして行く先を考えていると後ろから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。どうやらアレクも降りてきたみたいだ。
「レオ!」
「アレク」
「悪い、遅れた。それで、敵は見つけたのか?」
「嗚呼、ここに居るのは三人だ。まずアジトの奥に進んでる奴が一人、こいつは多分セイクリッド学院を襲撃してきた奴らのリーダーだ」
「シンが負けたって言うやつか」
「うん、とりあえずこいつはシンを追ってるみたいだから俺達が相手する必要はないと思う」
「だとすれば、俺達の相手は残りの二人か」
「その事なんだけど……」
俺は先程まで考えていた事をアレクに伝える。
「なるほどな。確かに、どっちが来ていたとしても最悪お前一人で相手ができる。その場合俺がもう一人の方へ向かえば被害をより防げるな」
「そういう事」
「だが、大丈夫なのか? どちらも手足を失う程の重症を負っているにも関わらずここに居るということは何か仕掛けがあるはずだ。何をしてくるか分からないぞ」
アレクの言うことは正しい。実際に、俺もアレクに話している時に何かあるんじゃないかと考えていた。けど……
「大丈夫だよ。俺だって、あの森の中で10年間何もしてこなかった訳じゃないからな」
「そうか、なら心配は要らなそうだな。こっちの敵には俺が向かう。位置情報をくれ」
「分かった」
敵の数は二人、それぞれこのフロアの端で一人は微動だにせず、一人はのらりくらりと場所を移動している。その二人の位置は真逆だ。
俺はアレクへと敵の位置を伝え、背を向けた。
「ここからはまた別行動だ」
「暴れすぎて味方にまで被害を出すなよ、お前の魔法は規模がデカいんだから」
「それぐらいは調節するさ。そっちも、うっかりやりすぎるなよ」
「安心しろ、俺には秘策がある」
「どちらにせよ、お前には待ってる人が居るんだ。こんな所で怪我なんてすれば、またアリシア様に心配をかける」
「うっ……それだけは避けられるように努力するよ……」
「嗚呼、精々頑張れ」
「おう」
互いに別れの言葉を告げた俺とアレクはそれぞれ反対方向へと走り始め、標的の元へと急いだ。
(こっちは何とかする。だからシン、必ずサヤちゃんを助けろよ……)
そう、この先を進んでいるであろう友を信じて。
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