第5章 神竜国ドラグリア編 九十五話 勝つための行動


 少し前から鉄同士がぶつかる音や魔法の着弾音が聞こえ始めた。タイミング敵にも他の部隊の人達が上手く乗り込めたのだろう。

 アジトを半壊させてしまった時はやりすぎてしまったかとも思ったけどあちらが上手くやれているようでひとまず安心した。


「……来てるな」


 他人の心配をする前に今は後ろから追ってきている奴をどうにかしなければサヤの元まで辿り着くのが遅くなってしまう。


(追ってきている奴を捕まえて場所を聞くか? いや、そんなに上手くはいかないか。この魔力、恐らく追ってきているのは学院で戦った奴だ。だとすると場所を知っていても捕まえたからと言って素直に教えるとは思えない)


 アジトに乗り込んでからサヤの位置はだいたい把握できている。これも気を習得したことにより魔力操作のレベルが格段に上がったからだ。けど、それでも分かるのは大まかな位置だけで詳しい部屋の場所を特定するには至らない。


(奇襲の時と同じように壁を壊す方法もあるけど、万が一その攻撃がサヤに当たりでもしたらタダじゃ済まない。大技が使えないとなると地道に一部屋ずつ探していくしかないか)


「こんな時にレオが居てくれるとありがたいんだけどね」


 気をマスターし、魔力操作の練度が上がったことにより今まで以上に他人の魔力を正確に感じ取れるようになったからこそ、実感出来る。彼の魔力探知は次元が違うと。


「ん、さっきより近づいてきてるな」


 敵が迫っている事に気づき、シンは目の前の広い空間に入り足を止める。その数秒後、シンの入ってきた通路と同じ通路から武器を持ったゼニスが現れる。


「やっと追いついたぞ、勇者」

「やっぱりお前だったか。サヤはどこにいる」


 問いかけるシン。だが、ゼニスがその問いに答えるはずも無い。


「教えると思うか?」

「いいや、思わないさ。だから、お前を倒して聞き出すことにする」

「ふっ、いいだろう。以前のように返り討ちにしてやる」


 武器を手に持つゼニスに対し、シンも聖剣クラウソラスを顕現させる。


(学院で戦った時は長剣を使ってたけど、その時とは武器が違うな、三股の槍? ある程度の広さはあると言っても普通の部屋よりは狭いこの通路でどうして槍を?)


 そうして、しばらくの間見つめ合う両者。その沈黙を破ったのは槍を構えたゼニスだった。


「ふっ!」


 ガキィィン――

 

 突進した勢いのまま光速の突きを繰り出すゼニス。それをシンは真正面から受け止め、弾き返す。


「ほう、今のを止めるか。裏をかいたつもりだったんだがな」

「正直予想はしてなかったよ。普通なら長物の優位を生かして距離を取りつつ攻めるところだ。それを初撃から詰めてくるとはね」

「にしては、随分と余裕がありそうじゃないか?」

「そうだね。予想外なのは事実だけど、今の攻撃じゃあ遅すぎる」


 以前の俺なら、今の一撃でやられていた可能性だってある。けど、今は違う。


(今の攻撃より、グレンさんの剣の方が遥かに早い!)


「はっ!」


 目の前の敵目掛けて剣を振り下ろすシン。その攻撃をゼニスは後方へ距離をとる事で回避する。


(プリメラの状態で出せる力は全体の約二割程度、もう一段階上げれば四割まで出せるけど、それにはまだ体が温まってない。今はこの状態でできることをやるしかないか)


「相手は長物、中距離にも対応してくるならこっちはより遠く、遠距離で戦えばいい!」


 そう言って、シンはクラウソラスを上段に構えると一気に振り下ろし、斬撃を放つ。


「『飛来斬』」

「っ!」


 初めて目にする飛ぶ斬撃に、ゼニスは一瞬反応が遅れるもギリギリの所で躱し、致命傷を逃れる。


「飛ぶ斬撃か、面白いじゃないか」

「それは何より。けど、これで終わると思うなよ」

「……?」

「今のは準備運動、本番はここからだ!」


 すると、シンの姿がゼニスの視界から突然消える。だが、それでもゼニスは動じない。


「何か変わったかと思えば、数日前とやる事は同じか? 早く動き回るだけでは勝てないと何故わからん」

「わかっているさ。だから、これはお前を倒すための行動じゃない」

「なに?」

「これは、お前にの行動だ!」

「面白い、ならばそれすらも打ち砕き、完膚なきまでに叩きのめしてやろう!」


 次第に、二人の戦闘は加速していく。


 光の速度で動きながら繰り出される波状攻撃をゼニスは難なく躱し、防ぐ。それに対しさらにスピードを上げていくシン。最早二人の戦闘は、一般人では視認すらできない程の速度となっていた。


(前は高速移動から背後をとっての大技が奴の戦闘スタイルだったが魔法を使い細かい攻撃をしてくるあたり、確かに変わったようだな)


「だが、所詮は多いか少ないかの問題、その程度の攻撃が通用すると思うなよ!」


 ここまで防戦一方であったゼニスがシンの動きを捉え、攻撃に移る。


「突き破れ、魔槍グレイプニル『氷狼乱牙』!」


 ゼニスの魔装から繰り出された無数の氷柱はシン目掛けて真っ直ぐ進み赤い鮮血を散らせた。


「クッ!」

「結局、お前の力はその程度か。興醒めだな」


 ゼニスの攻撃をくらい、今にも膝を着きそうなシンに近づき、ゼニスはその槍を突きつける。


「これで終わりだ。大切な物も守れず、無様に散っていけ」


 魔装を振り上げ、氷塊を作り出すゼニス。だが、この状況の中シンの顔には笑みが浮かんでいた。


「そんな事言うなよ、やっとなんだ」

「ん?」

「やっと……温まってきたところなんだ!」


 直後、シンの体に異常が現れる。

 放つ圧力は数秒前よりさらに増し、体中の至る所から収まりきらない魔力が風となって吹きすさび、雷光のようにシンの体から光を放つ。


「いけない、段階を踏まずにそこまで解放すれば君の体が持ちませんよ、シン君」


 その状況をアジトの上空から見ていたグレンはシンの身を案じていた。


(何だ、この圧力と突き刺さるような魔力は……)

「貴様……、何をした!」


 ゼニスが問いただすもシンはその疑問に答えず、淡々と呟いた。


「竜気解放『テルセラ』」


 告げられた解放の言葉を合図とするかのように、シンの体中から漏れ出ていた魔力は瞬く間に辺り一帯へと広がっていく。


「一体何が……っ! これは、氷が崩れていく?」

「風化」

「っ!」

「知らないのかい、地面は風や太陽の光が当たることで次第に破壊されていく。今君の作り出した氷にはそれと同じ現象がおきている」

「何だとっ……」

「今、この空間には俺の魔力が充満している。俺の属性は光の他に風と雷。竜気を解放したことにより、収まりきらない魔力が溢れ出し、その光と風を浴びたお前の氷は崩れ、塵となった」


(けど、プリメラから一段階飛ばして解放したせいで体への負担が大きい。持っても5分ってところか)


「さぁ、ここからが本番だ」

「……っ!」


(確かに、こいつの魔力量は常人に比べ桁違いに多かった。だがそれでも、これほど大きくは無かった。さっきの圧力と言い……)


「貴様、この数日間で何を……!」

「数日間、か……確かにお前からしたらたった数日間かもしれない。けどね……」

「っ!」

「俺にとっては、ただ一つの目的のために、必死に努力した十年間だ!」


(なっ! これ、は……ドラ、ゴン……?)


 その瞬間、ゼニスはシンから発せられる圧力に耐えかね、一方後ずさる。まるで、竜に見つめられた獲物のように。


「覚悟しろ。ここでお前を倒して、サヤの居場所を教えてもらう!」


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