神竜国ドラグリア編 九十九話 制圧
何をするにしても、先ずは倒れてる人達への被害を抑えなきゃいけない。なら――
「空中戦しかないよな! 『
レオが詠唱をすると、大広間の壁にいくつもの広い足場が創られていく。
「な、何だこれ!? 急に足場が出てきた!」
「おいおい、余所見だなんてずいぶんと余裕だな!」
「っ! グフッ!」
創造と同時に柱を盾にして接近したレオは相手の懐へと潜り込み、蹴りあげる。
(今の創造魔法でかなりの魔力を持っていかれた。トドメの一撃を取っておくとするとここからは光か闇魔法しか使えないな)
だが、この二属性には直接的ダメージを与える魔法は少なく、そう考えたレオは瞬時に接近戦での体術へと作戦を切りかえたのだ。
(俺の予想だと、こいつは戦闘経験が浅いどころか戦闘の知識すらも無い。確かに魔法は強力だけど、近づけば少しは優位になれるはずだ)
「いきなり蹴るなんて、酷いなぁ!」
(大振りな攻撃、近づかれたくないって意思が伝わってくる)
「ほら、もう一発いくぞ!」
「クッ……なっ!?」
右拳で殴りあげると見せかけて、相手の視界をさえぎり、その隙に左手で襟首を掴んで上空の足場へと投げ飛ばす。レオはこの戦闘の主導権を握っていた。
(今までの相手なら、こんな引っ掛け通用しなかった。けど、こいつになら通用する。それなら、
「ふっ!」
レオが地面を強く蹴ると、身体強化と光魔法により強化されたその体は、一瞬で敵が飛ばされる進行方向へと移動していた。
「い、いつのまにっ!」
「歯ァ食いしばれよ、よいしょっと!」
「ぶっ!」
レオの強化された肉体の筋力は普段の数倍。その力に加え高速移動による速度に遠心力も加われば投げ飛ばされた際の勢いは計り知れない。
ドガァンッ!
「ゴハッ!」
レオに投げ飛ばされた相手は轟音と共に壁へと激突し、蜘蛛の巣状のヒビを作って足場へと落ちる。
「ぶへっ!」
「そう言えば、お前の名前を聞いてなかったな」
「
激突の衝撃をモロに食らったのか、歯も数本折れ、頭からは血を流している。恐らく内蔵もいくつかやられているだろう。
(やっぱりな、戦ってる感じ身体強化もかけてないみたいだったし、恐らく受身も取れてないだろう。戦闘で何をすればいいかが分かっていないんだ)
「これ以上続けても辛いだけだろ。すぐに終わらせてやる」
「ぐ、ぐるなっ!」
「……」
「なっ、や、やべろ。ぐるなぁッ!」
だが、どれだけ懇願されようともレオの足が止まることは無い。そうして、ついに敵の眼前へと迫ったレオは詠唱をして、魔法を放つ。
「
「っ! え、え? 何で……っ!」
「気づいたか。動けないだろ?」
「……っ……っ」
「あぁ、悪いな。その状態じゃ喋ることも出来ないか。今、お前の体は俺の時間魔法で限りなく行動速度が遅くなってる。お前の感覚としては金縛りにでもあった様な気分だろ」
(今までの相手は魔法に対してある程度の耐性があった。時間魔法の行動停止能力は強力な分少しでも耐性があると跳ね返されてしまったが、こいつの魔法耐性が低くて良かった)
「いいか、お前には二つの選択肢がある。その前に、今のままじゃ答えることも出来ないな。『
詠唱をし、創造魔法を使ったレオの手には大小複数の鎖が現れていた。レオはその鎖で相手の手足を拘束し、更には腕と体を巻き付け動きを封じた。
(さてと、これで時間魔法は解いてもいいだろ。こう言うやり方は嫌いなんだけど、捕まえるためには仕方ないよな……)
「一つ、このまま体を動かせないまま俺に切られる」
「クッ……」
そう言って、レオは白夜を鞘から抜き、足場へと刺す。
「二つ、魔法を解き俺に捕まる。俺としてはこちらをオススメするね。これは俺の予想だけど、お前まだ俺と同年代だろ。なら、何か情報を吐けば死刑になることは無いはずだ。幸い、この場にいる誰一人として傷付いてないからな。その辺も考慮されるだろう。さぁ、どうする?」
「……分かった、従えばいいんだろ。僕はまだ死にたくないからな」
「嗚呼、そう言って貰えると俺としても助かる。そうだ、さっきの質問答えてくれるか?」
「質問だって?」
「名前だよ、名前」
「あぁ、それか。仕方ない、よく聞けよ。僕の名前はウィルだ」
「ウィルか、分かった。ありがとな」
そうして、二人の戦闘が一段落着くと、下から徐々に声が聞こえ始める。
「おっと、そろそろ起きる人も出てくるか」
(起きてすぐは混乱して戦闘にはならないだろうけど、状況を理解し始めたら寝込みを襲う奴が出てくるかもしれないからな)
「とりあえずは全員制圧だ」
そう言うと、ウィルを抱えてレオは足場から飛び降り、
数分後、レオが全ての構成員を眠らせた頃には軍の人達が半分以上起き始める。
「レオ」
「お、アレク。やっと起きたのか?」
「嗚呼、何とかな。……! そいつは」
「そう、お前……と言うかこの場の全員を眠らせた張本人だよ」
「ふっ、いい夢は見れたかい?」
自身の存在に気づいたアレクに対して、ウィルは皮肉交じりに煽っていくが、その言葉を何とも綺麗にアレクは聞き入れない。
「何とか捕らえられたんだな。結局、お前の世話になってしまったか。悪いな」
「別に気にすんなよ、俺もまたノワールを取り逃しちゃったからな」
「そうか……まぁ、反省は後だ。今の状況はどうなってる?」
「とりあえず敵側の人間は全員破壊魔法で眠らせたよ。後は拘束するだけだ」
「了解した。それぐらいは俺と軍部の人間でやろう。連戦でお前も相当消耗してるだろ、少し休め」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
そう言って、俺はウィルをアレクへ預け、近くにある柱へと寄りかかり座った。
(これで、後はシンの方だけか。今回の俺達の目的はサヤちゃん休出だからな。何としても助け出せよ、シン)
その時、奥の通路から轟音が響き、一瞬大広間が揺れる。
「今のは……」
「十中八九、シン君でしょうね」
「っ! グレンさん! 何でここに、外で待機してたんじゃ?」
「えぇ、なので今の今まで手出しはせず待機していましたよ。ですがどうやら大方の戦闘は終わったみたいなので様子見がてら降りてきちゃいました」
「そう、ですか……それより、やっぱりグレンさんから見ても今の揺れの原因はシンだと思いますか?」
「はい、あの揺れの前にシン君の魔力反応を感じました。君も魔力探知で見れば分かると思いますよ」
グレンに言われ、レオが魔力探知を使うと確かにシンの魔力が今までとは比較できないほどに膨れ上がっていた。
「シンの方はあんまり気にかけて見てなかったけど、確かに。突入前よりも明らかに増えてますね」
「恐らく竜気を二段階目を飛ばして三段階目まで解放したんでしょう。外から注視していましたが、一段階上げただけでは説明できないほどの魔力の増幅が見られたのでもしやと思ったのですが。全く、あれほど一気に上げるなと言ったのに……」
「多分、それだけ急いでたんだと思いますよ。でも、そう言うことならそろそろですね」
「そうですね。恐らく、そう時間の経たないうちに決着が着きます」
そうして、その時はやって来る――
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