神竜国ドラグリア編 九十八話 吸収


「はぁ、はぁ、はぁ、っ! これは一体……」


 レオが半壊した大広間へ戻るとそこには異常な光景が広がっていた。


「全員、眠ってるのか?」


 多くの戦闘が行われていたその場所は、今や誰一人として戦っているものは無く、敵味方共に全員が床に倒れていた。ただ一人を覗いては――


「あれ? 何だ、まだ意識のある奴が居たのか。はぁ、面倒だな」

「これは、お前がやったのか?」

「全く、当たり前の事をいちいち聞くなよ。説明が面倒だろ。逆に聞くけどさ、この状況で僕以外に誰がいるんだい? 僕以外の人は全て意識が無く、僕一人だけがこの場に立っていた。それで大体分かると思うけどね」

「嗚呼、確かにそうだ、なっ!」


 相手の答えに対し返答しつつ、床を力強く蹴ったレオは勢いを全て乗せて上段から切りかかる。


「うおっ、話してる間にいきなり攻撃してくるなんて物騒だな。もしこれで僕が見方だったらどうするんだ」

「それならたった今安心したよ。その発言でお前が味方っていう線はなくなったらな!」


 ここに戻る前、ありったけのポーションを飲んでおいて正解だった。ノワールとの戦いで尽きかけていた魔力も3分の2程度は回復している。

 

(多分、床に倒れてる人達は全員眠っているだけだ。魔力探知で反応が無かったのは魔力が空になってるからだろう。これなら時間が経てば目を覚ますはず。それにしてもこいつ、どうやってアレクを倒したんだ? この場にいる全員の魔力が無くなっているのも気になる)


 レオ達と同士に乗り込んでいたのは軍の部隊。後方支援として魔法師団からも数人が派遣されていたが人が多くなると予想したことからその主力は騎士団だったはずだ。そうなれば戦闘で魔法を使う人は殆ど居ないため全員が魔力切れで意識を失うなど到底ありえない。

 その結論に至ったレオは何か裏があると考え、相手の出方を伺いつつ、距離を取って攻撃を仕掛けていたのだが……


(こいつ、手応えが無さすぎる。殆ど素人の動きだ。見た限り身体強化もかけてないし、これじゃあ魔法に対する耐性も0に近い。少しでも俺の攻撃が当たれば致命傷だぞ?)


「一つ聞きたい。お前、ここで誰かと戦ったか?」

「あー、うん。戦ったよ。一人だけね君と同じ制服を来ていたからお友達かな?」


 敵の言葉を鵜呑みにするのは危険だが、恐らく今の発言に関しては嘘は着いていないだろう。

 つまり俺と別れた後、アレクはこいつと戦闘になったって事は確定だ。

 なら、尚更こいつがどうやってアレクを倒したのかが気になる。今戦ってみてもこいつにアレクを倒せるほどの実力があるとは思えない。


(それに、こいつの容姿。多分俺達と同年代か少し上ぐらいじゃないか? 何で革命軍リベリオン何かに……)


「お前、そいつをどうやって倒した?」

「倒してないよ。彼が勝手に眠っただけだ。他の人もそうだよ、僕が行動をしなくても勝手に眠った。ただそれだけだ。君だって今僕と戦ってて気づいてるだろ? 僕にはあの子どころか、他の騎士たちを倒せる実力すら無いって」

「嗚呼、だから聞いたんだ。どうやって倒したかをな!」

「なら残念だったね。答えは今言った通りさ」


(こいつの言っている事は嘘なのか本当なのかはっきりしない。さっきの様に現実味のあることを言ったと思えば今みたいに嘘のような事も言う。まともに聞き入れるだけ無駄だ)


 とは言え、情報が無いことには対処のしようが無い。ましてやこの異常事態を作り上げた人間だ、レオは迂闊に手を出すことできない状況へと追い込まれていた。


(どうする、いっその事動けなくして捉えるか? いや、ダメだ。何がトリガーでこの状況を作った攻撃をしてくるか分からない。ここで俺まで眠らされたらお終いだ)


「あぁ、そうだ。一つだけ教えてあげるよ」

「?」

「さっき僕は何も行動をしてなくても勝手に眠ったって言ったけど、これじゃあ説明が不十分だ。正確には、行動していない、だね」

「何……?」

「ほら、そろそろ違和感に気づいてくる頃じゃないかな」

「違和感……っ! これは……」



(魔法を使っている訳じゃないのに、微量ながら徐々に魔力が無くなっていく!?)


「そう、これが君の求めていた答えにして、僕だけの魔法。吸収アプソルプシオンだ」

「なるほど、それでこの場にいた人達全員を、戦闘不能にできたわけか……」

「そう言うこと。まぁ、デメリットがあるとすれば吸収した魔力は自分で使える訳じゃなくて消えちゃうところかな」


(正真正銘、相手を無力化するだけの力ってことか。確かに厄介だが、攻撃力が無いなら戦い用はあるはず)


「諦めなよ。そう時間もかからない内に、君の魔力も尽きるさ」

「悪いな、そう簡単に諦める訳にはいかないんだ。俺がここで諦めたら、後ろで戦ってる友達に合わせる顔が無いんでね」


(シンが何も考えずに戦えてるのは俺達がここを制圧してくれるって信じてるからだ。ただでさえノワールを捕まえ損ねて失敗続き、ここでその期待に添えなきゃどうする)


「さて、この状況どうする」


(長引けば長引くほどこっちが不利になる、長期戦は危険だ。だからと言って大技を連発する事もできない。倒れている人達への被害を最小限に抑えつつ、ここぞと言う時まで大技を使わずに短期で決着をつける。そう考えると、かなり難易度は高そうだ)


「それでも、やるしかないんだ」

「覚悟は決まったかい。散々待ってやったんだからそれなりに手加減してくれよ。僕は君ほど強くは無いんだ」

「あいにく、そんな余裕は無いね!」


(ノワールを捕え損ねた分、何としても、こいつはここで捕らえる!)

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