第2章 四大魔法学院対抗戦 後編 二十四話 手強い相手に遭遇しました。


 各学院の学院長や代表クラスの担任はヴォーレオスの森の隣にある野外演習場の一室に控え室を用意されそこから1戦目の状況を見守っていた。


 ここはバリアス帝国ブランハーツ魔法学院控え室。そこには2人の人影があった。


「まさか、レーゼとラットに続き次席のゼノンまで序盤でやられるとは思いませんでした……」


「それも、1人の相手にだ。神童の名は伊達じゃないと言ったところか」


「それに3人組の方にも厄介な闇属性の使い手がいます」


「いや、恐らくそれだけでは無いだろう」


「それは、どういう事ですか?学院長」


 学院長と呼ばれた男はお茶を一口飲み淡々と話し始めた。


「アストレアの新入生首席は誰だと思う?」


「やはり、神童ではないですか?」


 そう言ってまだ若そうな女は学院長の質問に答えた。


「それがどうやら違うらしい。なんでも今年のアストレアの首席は光と闇属性の使い手と聞く」


「光と闇!?そんなの4属性持ちよりも珍しいんじゃ……」


 女は学院長の発した言葉に驚きを隠せない様子だ。


「あぁ、そして先程この生徒が使った魔法は闇属性だ。そして勝敗を分けたあの一撃」


「もしや、光属性の他にも何か隠していると?」


「恐らく、あの神童を超えるほどの何かがあるはずだ」


「なるほど、今年の対抗戦は厳しくなりそうですね……」


 そうして、ブランハーツ魔法学院の学院長と担任教師は会話を終わらせ魔力結晶から映し出される映像に再度目を向けた。



 4回目の放送直後レオ達は目標のいる場所まで到着していた。


「おやおや、これは誰かと思えばアストレアの皆さんやないの……3人も揃ってどぉしたん?」


 そこには狐目にニコニコとした笑顔の赤い着物を着た女子生徒がいた。その腰にはレオの剣と同じかそれ以上の細い剣が指されている


「放送で分かってはいたがその見た目と武器、ヤマト王国のソルヴァレス学院か」


「正解。うちはソルヴァレス学院第三席、サクラ・ミヤシロ言います。よろしゅうな?」


 サクラと名乗った少女は軽く会釈をした。


「3対1だが、随分と余裕そうだな?」


 俺は率直に思ったことを聞く。


「そんなことあらへんよぉ?今だってどう逃げるか考えてるんやから」


 レオの問にそう答えるサクラ。


「へぇ、それで逃げる策は思いついたのか?」


「ちょうど今な、逃げたいなら追われなければええ。追われたくないなら追わせなければええ。つまり、追ってこさせない様にすればええってことやろ?」


 そう言ってサクラは腰に差した剣を抜く。その剣は俺達がよく見る剣より薄く細い、そして大きな違いは刀身が反っていて両刃ではなく片刃と言うことである。


「あれがヤマトの鍛冶師にしか打てないと言われる刀と言う武器でしょうか」


「多分そうだろうな、軽そうな分一撃の重さは少ないって聞くけど速さと斬る事だけなら随一の武器だ」


 あの刀の間合いに入るのは得策じゃない。となると今回はダリスが前に出ることもできないか。


「それじゃあ、行かせてもらうで!」


 サクラはその場を力強く踏みしめ俺達のいる場所まで一気に距離を詰めてきた。


「『業火の太刀・焔』」


 サクラの持つ刀は炎を纏いダリスに襲いかかる。


「クッ!」


「あら?今のは仕留めた、思ったんやけどなぁ。あぁ、なるほど。あんたの仕業なん?イケメン君」


 サクラはそのヤマト王国民特有の黒い目でレオを見る。


「イケメン君って俺の事?そりゃ嬉しいね」


「ふーん、あくまでしらを切るつもりなん。ま、その方がうちとしても面白いからいいんやけど、ね!」


 そうしてサクラは再度距離を詰めた。どうやら次の標的はレオのようだ。迫るサクラに対しレオは右腰に指した剣を抜き迎え撃つ。


 2人の攻防は数合続き。両者の実力は拮抗している様に見える。その状況を崩したのは……サクラだ。


「ふっ!」


 サクラは鍔迫り合いの状態からレオの剣を後ろに流し体制の崩れたところを狙った。


「『業火の太刀・烈火』」


 その刀は上段に構えられ吸い込まれる様にレオ目掛けて振り下ろされた。


 取った!


 サクラは勝ちを確信する。だが……


 ガキィィンッ!


 サクラの刀はレオを斬る前に何かに当たり跳ね返される。


 な、今の音は……斬撃? でも、どこから!


「『時空切り』時間魔法を付与エンチャントした剣で空間を切り切った場所に斬撃を留める。時間と空間魔法の合わせ技だ」


「斬撃を留める……!そんなん聞いた事もあらへんわぁ」


「仕方ないさ、時間と空間魔法自体があまり知られてないしな」


 レオは持っていた剣を左手に持ち替え左腰に指した剣も抜く。


「次はこっちから行かせてもらうぞ」


「これは、少し分が悪いなぁ」


 そうしてレオは右手に持った剣を構える。


「『次元切り』!」


 サクラはレオの攻撃を刀で受けようとするが咄嗟にそれを辞め横に避ける。


「これは、一撃たりとも食らう訳にはいかへんな……」


 サクラの見る先には大きく裂けた地面があった。


「まだまだ行くぞ」


 レオはサクラとの距離を詰め剣を振り下ろす。それをサクラが刀で受け止め再度鍔迫り合いの状態となった。


「ふっ!」


 さっきと違い今度はレオがその状況を崩す。レオは右手に持つ剣でサクラを押し飛ばした。


 後ろに飛ばされたサクラは体制を立て直そうとするが突然背中を斬られる。先程の打ち合いでレオが仕込んでおいた「時空切り」だ。


「クッ!」


 いくら痛みが無いとはいえ攻撃を食らった時の衝撃はそのまま受ける。サクラはその衝撃に耐え何とか着地するが体制を崩してしまう。


「はぁはぁ、全く、女の子に対しても容赦ないんやね」

 

 そう言ってサクラは息を切らしながら刀を支えに立ち上がった。


「俺は男女差別をしないからな。それに、君の場合手を抜くとこっちが1本取られそうだ」


「ふふっ、面白いこと言うなぁ。君、それでもまだ本気やないやろ?」


「さぁ?想像にお任せするよ」


 レオはサクラの問に答えずはぐらかした。


「まぁええ、今回はウチの負けやわ。君名前は?」


「レオナルド・フォン・リヴァイス」


「レオ君か、覚えておくわ」


 サクラがそう言って木に横たわった直後、あのハイテンションな放送が流れた。


『決まったァ!またもやポイントを取ったのはアストレア学院!既にこれで50ポイントだぁ!』


「ふぅ、今回はさすがに疲れたな」


「レオ君!大丈夫ですか!」


 その声に気づきレオが振り向くと後ろで見守っていたアリシアとダリスがこちらに駆け寄ってきていた。


「あぁ、何ともないよ。少し魔力を使いすぎたけどこれぐらいなら問題ない」


「それなら良かったです」


 そう言ってアリシアはホッとしたような顔をする。


「それよりアリシア、俺が戦ってる間に2人から何か連絡あったか?」


「あ、はい。サリーから戦闘が始まったって連絡があっただけです」


 サリーか、残ってる生徒はかなり強い人達ばかりだろうし少し心配だな。


「そうだ、サクラ君が倒した2人ってどこの学院の生徒だったんだ?」


 レオは木の前で休むサクラにそう問いかけた。


「ウチが倒したんはウィルバートのとこの生徒2人やね。不意打ちだったとはいえ少し手応えが無かった気ぃするけど」


 と言うことは残りはウィルバートが2人、ブランハーツが2人、ソルヴァレスが4人か。


「俺達が倒したウィルバートの生徒も確かに厄介だったけどそこまで強い印象は無かったしそうなると残りは各校の上位陣だけか」


「ウチの子達はみーんな強いでぇ?」


 サクラは楽しそうに笑い言った。


「確かに、三席のサクラでこの強さだからなさらに上に2人がいるなんて考えたくもない」


 そう言ってレオもどこか楽しそうに笑った。


「とりあえず今はサリーと合流しよう」


「それがいいと思います」


「だな、他の学院もそろそろ合流し始めてるだろうしな」


「サリー聞こえるか?今どこにいるかわかるか?」


 だが、サリーからの返答は無い。


「サリー?大丈夫?」


『ごめん!ちょっと今手が離せそうにないや』


 その通信からはサリーの声以外に魔法がぶつかる音が聞こえる。


「そうか……そうだ!アレク、聞こえるか?」


 俺は1つ策を思いつきアレクに通信を繋げた。


『どうした、何かあったか?』


「今、空飛べるか?」


『あぁ、飛んでる最中だが、それがどうした?』


「よし、そのまま飛んでてくれ。サリーなんでもいい、今空に魔法打てるか?」


『やってみる!』


「アレク、聞いてたか?」


『あぁ、だいたい理解した。それを見て場所を伝えればいいんだな?』


「そういう事だ!」


 そしてサリーから通信が入る。


『撃ったよ』


「アレク、見えたか?」


『バッチリな、お前たちの位置からだと北に真っ直ぐだ!』


「了解!」


 そうしてレオ達3人はサリーの元へ向かった。





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