第5章 神竜国ドラグリア編 七十七話 悲惨な状況


「状況は把握した。大至急軍部にもこの件を伝えろ。今は負傷者の対応が優先される時だ、こちらからも応援を出すぞ」

「陛下、我々も同行します。拐われた者がいるならば索敵ができる者がいた方がいいでしょう。俺とレオならそれができます」

「そうだな。メルト!」

「はい」

「話は聞いていたな。学院側からも何人か人員を貸してほしい。特に回復魔法の使える者と力のある奴だ。それ以外の人員と人数はお前と学長に任せる」


 国王の言葉に先生は頷く。


 ここから学院まではそれなりに時間がかかる、こんな所で時間を浪費する訳にはいかないか。


「先生、学院まで転移門ゲートを開きます」

「そうして貰えると助かる。アレク、俺と一緒に来い。お前の意見も参考にしたい」

「わかりました」


 そうしてアレクと先生は転移門を潜り姿を消した。


「国王、軍本部にも繋ぎますか?」

「いや、こちらは既に早馬を出した。ここから軍部まではそう遠くない。すぐに連絡が来るはずだ。それより今は必要な物を持ってくる。レオ、数が多いから手を貸してくれ」

「はい!」


 ▽▲▽▲▽▲▽▲


 十数分後、俺は国王と使用人の人達と共に王城内の広い一室へ荷物を運び込んでいた。


「これで一通り運びましたかね」

「嗚呼、これだけあれば十分だろう。皆を呼んできてくれ」


 そう国王に指示された使用人さんが部屋から出ていこうとするとそれより早く部屋の扉を叩く音が聞こえてくる。


「陛下、ただいま戻りました」

「メルトか、入ってくれ」

「失礼します」

「それで、学院側からは何人出せそうだ?」

「はい、休日という事もあり今すぐ動けるのは寮に入っている者の中から回復役が7人、それ以外が12人です」

「分かった、そこにレオ達5人も居れば十分だ。そろそろ軍からの連絡も来るだろう。準備が出来次第出発するぞ」


 その後、軍から連絡があり1部隊25人編成の部隊を2つ既に王城の庭で待機させているらしく学院からの助っ人も到着しすぐに出発となった。


「ですが国王、すぐに出発したとしてもここからウィルバート王国までは馬車で数日掛かります。その間捕まった生徒が無事とは限らないのでは?」


 その質問をしたのはダンと言う軍の部隊の隊長さんだ。


「安心しろ、時間はかからん。レオ、お前の転移門は繋ぐ先がはっきりと頭の中にイメージ出来れば繋がるんだったな」

「はい、さっき見せてもらったウィルバート王国王都の映像で十分です。王都の半径1キロ内であればどこでも繋げられます」

「と言う訳だ、そこまで転移すればウィルバート王国までは数分で到着する。メルトとレオ、ダンの3人は先に現地へ向かい事情を説明してくれ」

「それじゃあ転移門を開きます」


 そうして開いた転移門で俺とメルト先生、ダンさんはウィルバート王国王都へと移動した。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲


「おぉ、本当に一瞬で移動してしまうとは」

「ダン、驚いている暇はないぞ。門は……あそこか」


 メルト先生とダンさんはどうやら軍事代に同期だったらしい。


「よし、行くぞ」


 俺達3人は視界の先に見える王都の門へと向かう。

 遠目から俺達が突然現れたのに気づいていたのか進む俺達を見て門番兵が突然武器を構える。


「貴様ら何者だ。目的を言え!」

「セイクリッド学院が革命軍リベリオンに襲撃されたと聞いてルステリア学院から応援に来ました。学院の現状を知っているのであればすぐにでもここを通してもらいたい」


 そう言いながらメルト先生は教員証を見せダンさんは軍と軍での役職を示すバッジを見せた。


「これは……っ! 大変失礼しました、すぐにお通りください! 学院はこの大通りを右に真っ直ぐ行った先にあります」

「嗚呼、ありがとう」


 先頭を歩くダンさんに続き、俺たちは門番兵さんに教えて貰った道を走り抜ける。

 数分もその道を走れば眼前に大きな建物が見えてくる。恐らくあれがセイクリッド学院だろう。


「あそこか。ダン、レオ、急ぐぞ」

「おう!」

「はい!」


 離れた所から見ただけでは分かりづらいが距離が近づけば近づくほどその悲惨な光景が目に入る。

 門は無理やりこじ開けられたのか変形しており白い壁には所々黒く焦げた後が見えた。破壊された箇所も多く崩れた瓦礫が辺りに散乱している。

 その状況を見るに生徒が下敷きになっているところもあったのだろう不自然に退かされた瓦礫も。


 そして、1番目に着くのは戦闘の舞台となったのか数箇所に大きな窪みと斬撃の後が残されたグラウンドだ。更にその窪みの形から攻撃された方向を見てみればそこには2階の一部に大穴の空いた校舎があった。


 この剣で切り裂いたような無数の斬撃の後、それとあの大穴。こんな事ができるのはシンしかいない。けど、逆に考えればシンとここまでの戦闘を繰り広げる奴が少なからず1人は来てたってことか。それにしても――


「酷いな……」

「嗚呼、想像以上だ。この被害だと俺達の所を襲った奴らより遥かに人数も多かったんだろう。とりあえず学長の所に行くぞ」


 先生の言葉で脱線しかけた思考を切り替え俺は自分がここへ来た目的を再確認する。


 俺の目的はあっちに残る皆と物資を運び敵を追うこと。今はその為の行動をしないと。


 校舎に入るとその損傷は外ほどでも無く幾つか斬撃痕や魔法の痕が残っているだけで崩れている箇所は外と繋がる場所以外見当たらなかった。


 良かった、この調子なら校舎内に居た人の怪我は比較的軽そうだ。


 俺達は校舎内に入った後に見つけた教員に学長の居場所を教えてもらい校舎の奥に隣接される1番大きな演習場へとやってきたのだが、そこで俺達は目を見開くほどの光景を目にする。


「おいおい、嘘だろ……」

「まさかこれだけ被害が出てるとは」


 2人が驚くのも無理はない。演習場に入った俺達の視線の先、そこはこの空間の半分を占めるほどの怪我人で埋め尽くされていたのだ。その数は軽傷者から重傷者まで軽く見積っても100人以上。


 その時、俺は数分前までの自分の安易な考えが、一瞬で覆されていくのを実感していた。

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