第5章 神竜国ドラグリア編

第5章 神竜国ドラグリア編 七十五話 プロローグ


 ――後日、俺は何度目かの王城へとやって来ていた。今日来た目的はこの間の夏合宿襲撃の際に勲章を授与するに価する働きをした者への叙勲式に呼ばれたためだ。それも授与される側として。


 今はちょうどその叙勲式が終わり控え室で休んでいる所だった。どうやらこの後国王直々に公の場では無く感謝がしたいらしい。


 ちなみに今回呼ばれたのはAクラス第1班である俺達5人に加えブレン先輩とエリン先生の計7人。


 それぞれの功績としては上から順にこうだ。


 レオナルド・フォン・リヴァイス

 敵侵入後直ぐに行動に移り数名の敵を捕虜として捕獲。その他生徒の避難を援護、敵幹部と思われる2名に大きな損傷を負わせ撤退に追い込み撃退に大きく貢献した。よってここに勲章を授与する。


 アレックス・フォン・アルカード

 敵侵入直後生徒全体へ指示を出し統率。生徒の避難に尽力しさらに宿舎襲撃の際、敵幹部と思われる2名と数百匹の魔物を相手にし防衛。負傷者を出さずに敵を撤退へ追い込み撃退に大きく貢献した。よってここに勲章を授与する。


 ブレン・バスター

 上記の者と共に敵幹部と思われる2名と戦闘、魔物の過半数を掃討、敵幹部に大きな損傷を負わせ撤退に追い込み撃退に大きく貢献した。よってここに勲章を授与する。


 エリン・コール

 上記の者の戦闘中、単独で生徒全体へ指示を出し避難に尽力、戦闘中の生徒をサポートし撃退に大きく貢献した。よってここに勲章を授与する。


 他3名は代表として上記の者の指示に従い生徒の避難に尽力、その後避難した生徒の護衛を務めた。よってここに勲章を授与する。


 とまぁ、こんな感じだ。


 アリシア、サリー、ダリスの3人はAクラスの班の代表として呼ばれているためその叙勲はそれぞれが配置された班に対してと言う形になる。本来なら他にメルト先生と1班の代表としてルイが呼ばれていたのだがメルト先生は大事な場面でその場に居れず特に役に立ってはいないと言うことから辞退しルイも慣れない場で緊張して恥を晒すのも恥ずかしいからとこれを辞退。結果個人として叙勲されたのは俺達4人だけとなった。


「それにしても、先生どんだけ緊張してるんですか」

「し、仕方ないでしょう!? 平民の出の私からしたらこんな所に来たことすらなな、無いんだから!」


 以外にも今日1番緊張していたのはエリン先生だった。王城に入った時から終わるまでなんなら今でもガッチガチである。それに比べて……


「ブレン先輩はあんまり緊張とかしてないですね。こう言うのには慣れてるんですか?」

「いや、今回が初だ」

「へぇ、俺なんて初めて王城入った時めちゃくちゃ緊張したのに」

「自分の働きがこの国のトップに認められたんだ。緊張よりも達成感が勝るさ」


 なるほど、そう言うことなのか? まぁその辺は一人一人考え方が違うだろうし別に気にすることでもないか。


「そう言うお前はどうなんだ。あまり固くなっていなかった様だが」

「俺は何回か来たことあるんで。まぁ、それでも最近やっと慣れたんですけどね」


 全く俺も先生の事を言っていられないな。ましてや俺は貴族なのにだ。


「そうでなくては困るがな。未来さきの事を考えるのであればお前はいちいち緊張などしてられん」

「わ、分かってるよ」


 アレクのその発言に対してサリーはくすくすと笑い他のダリス、先生、先輩の3人はなんの事だ言う顔をしている。


 そう、遂数日前の朝、アリシアに気持ちを伝えた時に交わした誓い。「いつか必ず君を幸せにする」と言うこの誓いを守る為にも俺はこの後の試練を乗り越えなければいけない。そして、乗り越えた先にある未来の為にも王城に入る度にいちいち緊張なんてしていられないんだ。


 その時、この場にいないもう1人の叙勲者であるアリシアが扉を叩き入ってくる。どうやら国王の準備が出来たみたいだ。


「失礼します。皆さんお待たせしてしまいすいません」

「いやぁ、待たせてすまない。この歳だからか着替えに時間がかかってしまってな」


 そう言ったアリシアの後ろには先程叙勲の時に見た姿よりも少しラフになったような姿の国王がすまなそうに頭をかいて部屋へと入ってきていた。

 その瞬間、俺達貴族組とブレン先輩は席から立ち上がり姿勢を正して浅く頭を下げ、少し遅れて先生も慌てて頭を深々と下げる。


「そう固くならずともよい。堅苦しい式典の後ぐらい少し楽にしてもいいだろう」


 国王のその言葉を聞き、俺達は同時にさっきまでのように楽な姿勢で席に着く。


「陛下におかれましてはお元気そうで何よりです」

「君の噂も聞いているよ。最近は特に活躍しているみたいじゃないか。私も、昔から知っている分鼻が高い」

「お褒めに預かり光栄です」


 アレクの返答を聞くと国王は満足したのか優しい笑みを浮かべて頷き本題に入る。


「それでは本題だが、今回はよくやってくれた。私からはこれぐらいしか言える言葉は無いが国を収めるものとして本当に感謝している。ありがとう。多くの未来ある生徒たちがこれからも生きていられるのは君たちのおかげだ」


 国王はそう言ってくれるが俺の中ではやはり救えなかった命が頭をよぎる。そうしてあの時の事を思い出せば自然と顔が少俯いてしまう。


「長らく待たせた割には少ない言葉ですまないが私もこの後予定があってな。この場は以上だ。報酬と言う訳では無いが夜には今回の礼を込めて関係者数名だけを呼んで食事を振る舞いたい。是非来てくれ」


 そうして国王からの感謝の言葉も終わり先生、先輩、ダリスと順番に部屋を出ていき残ったのは

 

「では、聞こうではないか。話とはなんだ?」


 サリーとアレク、そして俺の隣に座るアリシアと俺達の対面に座る国王だった。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲


『いいか、お前は学院を卒業すれば直ぐに男爵になる。だが本来であれば王女を、言わば国の宝を命の危機から救ったんだ男爵位程度で収まっていいものでは無い。それこそ普通の貴族であれば男爵から公爵にすらなっても可笑しくない程にな。それが、今回の事件で2回目だ。ここまで説明すれば俺の言いたい事が分かるな?』

『嗚呼、俺が学院を卒業して男爵になれば、すぐにでも公爵に上がれる……』

『そう言う事だ。1回の報酬を先延ばしにしたんだ今回の件も恐らく同じ処理がされるだろう。だからお前が爵位で心配する理由はない。他に何かあるとすればやはり周りの目と1番大事な両親への報告だな』

『つまりは……』

『そう、陛下へのご挨拶だ』


 あの朝、アレクに言われてから何度か頭の中でシミュレーションはしてきたがやっぱり本番となれば緊張しない訳がない。そして何より……


「それで、話とは何だね?」

「……単刀直入に言わせていただきます。娘さんと……アリシアと、結婚を前提にお付き合いをさせていただきたく今日はその許可を貰いに来ました」


 俺は真っ直ぐに国王の目を見てそう伝える。


「どうか、お願いします!」

「お、お願いします!」


 そう言って俺が頭を下げると隣にいたアリシアも同時に頭を下げてくれる。そうして頭を下げて待つこと数秒。いや、俺の体感時間で数秒なだけで実際はそんなに時間はかかっていないのだが、国王は……


「あぁ、構わんぞ」


 そう、即答した。その反応は予想していた物の斜め上を行く反応で思わず頭を下げた俺が困惑してしまう。


 え?


「あ、あの……本当に?」

「嗚呼、構わん。普段の娘を見ていればこうなるのも時間の問題だと思っていたからな。それに、君なら安心して娘を任せられる」


 その言葉を聞いて、俺は何とも言い難い喜びに体中が満たされていくのを感じる。だが、今はそれよりも伝えなければならない事があるだろう。


「あ、ありがとうございま……」

「ただし、いくつかこちらから条件を出させてもらう」

「えっ……」


 じょ、条件?


「まず1つ、これは大前提の話だが、必ず娘を幸せにすること。本命はここからだ」


 俺は頷き国王の言葉を待つ。


「2つ目、君には今直ぐに貴族になってもらう」


 ん? それってどういう……


 そして、3つ目の条件で俺とこの場にいる3人はさらに驚かされる事になる。


「3つ目、これは2つ目と違って今すぐにという訳じゃないが君には家に嫁いで貰う」


 エ……?


「ちょっ、ちょっと待ってください! そ、それってつまりはどういう事ですか?」

「簡単な話だ。家には男の子供は産まれなかったからな。俺の跡を継ぐ者がいない。だが、君が婿に来てくれると言うなら話は別だ」

「つまりはレオを婿に迎え入れ国王の座を継がせる。という事ですか?」

「嗚呼、その通りだ」


 ちょっ、ちょっと待て。なんで付き合う許可を貰いに来た筈がいつの間にか俺が国王になる話になってるんだ? と言うか、その前の今すぐ貴族になってもらうって言うのもよく分からないし!


「す、すいません。一旦整理させてください。まず2つ目の条件の貴族になってもらうって言うのは……」

「あぁそれか、言葉通りの意味だ。君には直ぐに貴族になってもらう」

「で、ですが、貴族になるには成人している必要があるんじゃ……」

「条件なんてそんな物この際どうでもいい。俺がなんと言おうと反論できる奴は居ないだろう」


 た、確かに、国王に逆らえる人なんて居ないだろうけど……


「ですが、レオが貴族になれば黙っていない奴も多いと思いますが?」

「そ、そうですよ! 一部の人は学生が貴族になるなんてー、とか思う人も出てくるんじゃ無いですか?」

「まぁそうだな。そう言う奴は少なからず居るだろう。だがそれがどうした。卒業後は貴族になる事が決まっているんだ、それが少し早くなっただけの事。それに文句を言う奴がいるなら全員俺が黙らせる」


 お、おぉ、さすがと言うべきか国王必ず言うと言葉の説得力が違うな……


「それに、貴族にしておけば今後また何か功績を上げた時にその処理が簡単だからな。毎回毎回先延ばしにするのは意外と面倒なんだ」

「陛下、それが本音なんじゃないですか?」

「ふっ、気づいたか?」


 なんかアレクと国王が面白そうに笑ってるけど、全然笑い事じゃないからね!?


「と、とりあえず2つ目の条件は分かりました。けど3つ目の条件はさすがに……」

「それだって可笑しな事は無いだろう。今の王家には王子が存在せず王の座を継ぐ者が居ない、そうなってしまえばこの国は終わりだ。だから第3王女の旦那を婿に迎え入れ王子にした。ほらな、完璧だ」


 マ、マジか……


「レオ、ここは大人しく諦めろ」

「そう言われてもな、突然王様なんて……」

「何、王になるのはまだまだ先だ。それこそ何十年もな。それまでは普通通り貴族の公爵として働いてくれれば良い」

「……はぁ、そう言う事なら分かりました。その条件、受け入れます」

「うむ、そう言ってくれると思っていたぞ」

「そうと決まれば今週末にでも緊急招集をかけて貴族全体に知らせた方がいいですね。こう言うのは早いに越したこたはない」

「そうだな、リヴァイス伯爵には俺からも手紙を出しておこう」

「はい、お願いします」

「それ以外の手続きもこちらで直ぐにやっておこう。2日後には晴れて君も貴族の仲間入りだ」

「なんかもう、いろんなことが突然すぎて今なら何を言われてもな驚かない気がしますよ」


 と言っても実際は驚くんだろうけど、さっき以上の驚愕は無いはずだ。


「あーあと、1つ聞き忘れていた。式を挙げるのは学院を卒業してからでいいかな?」

「はい、それに関しては俺もするなら卒業後がいいと思っていたので。問題ありません」

「そうか、分かった。それでは、この後はゆっくりしていてくれ。さっき言った通り数時間後にはご馳走が待っているからな。それまでにはディーナも帰ってくるだろう」

「はい、ディーナさんにも帰ってきたら挨拶に行きます」

「嗚呼、そうしてくれ。……アリシア、良かったな」

「……っ、はい!」


 娘に祝福の言葉をかけて国王は部屋から退室した。

 そして扉が閉まると、俺は一気に力が抜けていき脱力する。


「はぁ、疲れた」

「お疲れ様です。かっこよかったですよ」

「そう? 最後の方俺驚いてただけな気がするんだけど……」

「仕方ないよ、いきなり王様になってって言われたら誰だって驚くに決まってるし」


 そう言ったのはアレクと2人で成り行きを見守ってくれていたサリーだ。アレクの奴は途中ちょいちょい、口を挟んでたけど。


「とりあえず、大きな試練は乗り越えたかな」

「大変なのはこの後だぞ、成人前に貴族となったとあれば国王が黙らせたとしてもやはりそう言った視線を向けてくる奴はいる。国王の見えないところで何か言われるという事もあるだろう。お前はそれに耐え抜かなければならない」

「嗚呼、分かってる。その上で受け入れた条件だからな」

「その様子なら大丈夫そうだな。後は……あんまりハメを外しすぎるなよ?」

「は? お前何言って……」


 アレクの言葉に理解が追いついておらずそれを察したアレクが2人に聞こえないよう耳打ちしてくる。


「付き合えたからと言って舞い上がるなと言うことだ。学院在学中で、しかも結婚前に子供ができるなんて事があったら一大事だからな。それが王女と時期国王の子供とあれば尚更だ」

「なっ! バカッ、お前何言って!」

「レオ君? どうしたんですか?」

「えっ、あ、いや……大丈夫、何でもないから……」


 全く。こんな事、アリシアに言えるわけ無いだろ……!

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