第4章 夏合宿編 七十四話 エピローグ
――翌日、早朝――
昨日、あれから教師陣とアレク、ブレン先輩の間で会議が行われ急遽合宿中止を余儀なくされたらしい。
まぁでもあんな事があれば仕方ないか。怪我人だってそのダメージに差はあれど少なくないし死者だって3名も出ている。もちろんこんな事は前代未聞で中止にしない方がおかしいだろう。
らしいと言うのは前述した通り俺は会議には参加しておらずあとから聞いた話だからだ。
最初はもちろんアレクと一緒に参加しようとしたし、メルト先生からも今回の件で何かと俺に手伝って貰っていることから会議に参加するのは何の問題も無いと言われていたのだが、俺が魔力切れを起こしていたと知ったアリシアに「ダメです! レオ君は少し大人しく休んでいてください!」と強く言われてしまえば従うしかあるまい。
アリシアにはかなり心配かけたからな。
そうして半ば強引に自室のベッドへと寝かせられた俺はアリシアの監視付きでゆっくりと休むことになったんだけど大変なのはその後だった。
無駄に空気を読もうとしたサリーとダリスが俺達を2人っきりにしようとしたみたいなんだがメルト先生から「今のあいつらを2人っきりにするのはまずい。何かあってからじゃ遅いからな」と言われ結局俺達の監視を任されたらしい。
男女の階は1階と2階で別れており本来その行き来は教員しか認められていないが今回はアリシアが俺から離れようとしなかったため特例で許可が出たらしい。
いや、だとしてもよ。何かあったらって何だよ! 何もしないよ、と言うかできないよ! まだ付き合えてもいないんだぞ……
あの先生、俺を何だと思ってるんだ……?
その後は4人で雑談をしていたのだが夜もそれなりに遅く皆疲れていたのかアリシアが俺のベッドに上体を預け眠ったのをきっかけにダリスは自分のベッドでサリーはアレクのベッドを使い全員眠りについた。
皆が寝た後、アリシアが起きないように俺のベッドに移動させようとも考えたが朝起きて俺が椅子に寝てるのを見たら余計な気を使わせてしまいそうでその場は大人しく眠ることにした。
そうして現在に至るのだが、他の4人はまだ起きていない。当然だがあの後アレクも戻ってきたようでサリーが自分のベッドを使っているからか備え付けのソファに座り眠っている。
「それにしても、昨日撫でた時も思ったけど本当に綺麗な髪だよな……っ!」
俺は布団1枚挟んだ上に広がるアリシアの髪を見てつい昨日の安全地帯での事を思い出してしまう。
さすがに、昨日の様子を見ていれば気づかない方が難しいよな。
ずっと、アリシアは優しいから命を救ってくれた恩から俺に優しくしてくれるんだと思ってたけどあんな事をされたら否が応でも分かってしまう。
この気持ちは、片思いなんかじゃ無いって事か……
だとしても俺とアリシアの間にはいくつもの障害があって上手くいくにはそれこそ俺がもっと努力をしなければいけない。
高々伯爵家の息子、学院を卒業すれば男爵になることが決まっているとは言え男爵程度では一国の王女と付き合う事なんて、ましてや結婚なんて出来るわけが無いんだ。
自分の願いを叶えるためにも。アリシアの気持ちに答えるためにも俺はこの先もっと努力しなきゃな。
そんな事を考えていれば俺が起きている事に気づいたのかアリシアも目を覚ます。
「んっ……レオ、君?」
「おはよう、アリシア。よく眠れた?」
「……」
「……アリシア?」
寝起きだからかボーッとしているアリシアを眺めているとその腕が伸び、俺の首に巻きついて引き寄せられる。
え?
突然の事で何が起きたのか一瞬理解が遅れた俺だが似た様な事を前日にもされているため今自分がどんな状況か理解するのにそう時間はかからなかった。
俺は今、寝起きのアリシアに抱き寄せられている。つまりこの柔らかいのは、あれということで……
その瞬間、俺の顔は火を吹きそうなほど熱が集まり熱くなる。
「ア、アリシア? 一体、何して……」
「良かった」
「え……」
「夢じゃ、無かった。起きて、もしレオ君がいなかったらどうしようかと……」
アリシア……
アリシアの気持ちに内心では嬉しく思いつつも、このままではその柔らかい物の幸せな圧迫感で息が出来ないため背中を優しく叩き離してくれるように促す。
「ふぅ、やっと離してくれた」
「……ごめん、なさい」
「謝らなくていいよ、嫌じゃないし。それにしてもアリシアは本当に心配症だな」
「……」
俯くアリシアを見て俺は布団から出てベッドに腰をかけて隣に座るようベッドを叩く。それを見たアリシアは俺が伝えたい事を察したのか少し頬を赤らめながらも隣に座ってくれる。
「なぁアリシア、アリシアは俺の事心配か?」
「……はい」
「そっか……。心配してくれるのは正直凄い嬉しい。でも、少しは俺を信じて欲しいんだ」
「信、じる?」
「うん、俺は何があってもアリシアの傍を離れない。そりゃ、何かやらなきゃいけないことがあって物理的な距離が離れることはあるだろうけどそれでも、心はずっと傍に居る。だから安心して欲しい」
「レオ君……」
「俺だってアリシアとはずっと傍に居たい。これから先もずっとだ」
そうして俺は今思っている事を全てアリシアに伝えた。じゃないと、俺が絶対に離れないと証明できないと思ったから。
「君と隣で話すのも君の笑ってる顔を隣で見るのも願わくば俺がいいと思ってる。泣く顔も、怒った顔も、全部俺だけに見せて欲しい。そうしてこれから先もずっと隣で並んで生きていきたい。そう思ってる」
「……っ!」
それは、アリシアからしてみれば突然の告白だったかもしれない。でも俺からしてみれば突然なんかじゃなくて、ずっと抱えてた思いだ。
「だから、俺が自分からアリシアの元を離れるなんて事は絶対に無い。それだけは信じて欲しい」
「……はいっ」
こんな時に言うのは卑怯かもしれない。それに、言ったからって今すぐ何か変えられる訳でもない。さっきも言った通り俺達の間には障害が多いから。それでも、伝えられずにはいられなかった。
「アリシア、俺は君が好きだ。今すぐに何か変えられる訳じゃ無いけど、それでも、いつか必ず君を幸せにする。だから、それまで信じて待っていて欲しい」
「……っ! ……はいっ」
いつの間にか、アリシアはその目から涙を流していた。それは見てる側からしても分かるほど、同じ喜びの涙でも不安から開放された昨日の涙と違い心から嬉しいと思う、そんな涙だった。
「アリシア、好きだ」
「私、も……大好きですっ」
そうして、アリシアは昨日と同じように俺に抱き着いてくる。それを俺は、今度こそしっかりと抱きしめ返す事ができた。
「アリシア……」
「レオ君……」
次第に近づく距離、あと少しでお互いの唇が触れ合う。その少しの距離を俺とアリシアは詰めて……
「あのー、そこから先は私達の居ないところでやってもらえると助かるんだけど……」
「えっ! あ、サ、サリー! 起きてたの!?」
「うん、少し前から……」
「うぅ……」
あと少し、あと少しで触れ合うというところでそれを止められ今までの一部始終を見られたアリシアは首まで真っ赤にして俺の布団を被り隠れてしまう。
「いやぁ、かっこよかったぞレオ〜」
「なっ! アレク!」
その声に振り返って見ればそこにはソファに寄りかかりニヤニヤと笑うアレクが居た。
「遂に言ったなレオ、必ず君を幸せにする。いい台詞じゃないかぁ〜」
こ、こいつ……クッソうぜぇ! 俺の勇気を振り絞った一世一代の大告白を盗み見して楽しんでやがる!
待てよ、この流れで言うとダリスも……いや、こいつは普通に寝てたわ。というか、寝相良すぎだろこいつ。似合わねぇ……
「良かったねぇアリシア、やっと気持ちが通じて」
「……うん」
そんな事を思っている隣ではサリーがアリシアに祝福の言葉をかけている。そんなに待たせちゃってたのか……
「まぁ何にせよ、見てる側としてはやっと言ったかと言う気持ちだが、現実はそう甘くはないぞ?」
「……やっぱりそうだよな。王族と結婚できるのも伯爵以上の爵位を持つ当主だけって聞くし」
「いや、そこは対して問題じゃない」
……え?
「厳密には伯爵以上じゃないと王族と結婚できないと言う法は無いしな。ただそれぐらいじゃないと釣り合わないだろと言う周囲の目に耐えられないだけだ。それにもしそうだったとしてもお前がその心配をする必要は無いだろう」
ど、どういう事だ?
「学院を卒業すれば、お前は男爵になるはずだったが男爵ではなく公爵になる」
は、
「はァァァァっ!?」
なんか、卒業後の件が知らぬ間に男爵じゃなくて公爵になってたんだが……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます