第3章 新領地開拓編 五十五話 挨拶
翌日も実戦形式の魔装体験の授業は続き2日目ともなればさすがは王国最高峰である魔法学院のAクラス。個人差はあれど生徒は全員魔装を最低限扱える程度には慣れ始めていた。
そして放課後、今俺が何をしているかと言うと職員室の隣にある指導室でメルト先生監視の元アレクと2人で反省文を書かされていた。
「はぁ、なんで俺までこんな目に……元はと言えばあんな狭い場所で大技使ったアレクが悪いだろ」
「いいや、俺がやる前に既に演習場は至る所がボロボロだった。そしてその原因はお前の魔法だ、つまりはお前も悪い」
そうしてアレクとの口論が徐々にヒートアップしていく中対面する位置からメルト先生の鋭い視線が飛んでくる。
「お前らなぁ、今自分がどんな立場かわかってんのか? 反省文書かされてるの。分かったら大人しく書いてさっさと終わらせろ、俺の労働時間をこれ以上増やすな!」
「「す、すいません……」」
いつもやる気の無さそうな目をしているメルト先生の珍しく迫力のある視線に思わず俺とアレクの声が重なってしまう。
「そもそも、あそこまでの事しでかしたら普通これだけじゃ済まされないからな」
今回俺たちに下された罰は反省文3枚と1週間の食堂使用禁止と言う物だった。
先生の話によると反省文5枚に3日間の謹慎、その後1週間放課後に学校全体の廊下の掃除更には学食の使用禁止と2週間の実技授業禁止等が案に上がっていたらしい。
まさにアストレア学院に存在する処罰のオンパレードだ。
そこを俺が放課後に街の開拓の為に動いている事やアレクの家柄を知るメルト先生がここまで処罰を軽くしてくれたみたいだ。
ちなみに、何故そこまでの罰が下されるのかと言うとそれは今日の魔装体験授業まで遡る。
△▼△▼△▼△▼
さっきも話した通り前日の授業で他のペアもかなり魔装の使用感を掴んでおり、その影響か今日の対戦では制限時間の5分以内に決着の付くペアも多く現れていた。
その結果、俺とアレクの戦闘時間は少し増やしてもらえる事になったのだが前日と同じ結果にならない様にとお互い最初から全力で戦っていた。
そうして戦闘が白熱していくと若いという未熟さ故かどちらも周りが見えなくなってしまい簡単に言えば歯止めが聞かなくなったという事だ。
前置きが長くなってしまったがつまりどうなったかと言うとアレクが大技を使いそれに俺が対抗したら演習場の地面は抉れ、外壁やクラスメイトの座る位置とは反対側の客席はボロボロに崩壊しており演習場1つを大破させたという訳だ。
俺たち2人がそれに気づいた時にはもう遅く、演習場の方向から膨大な魔力を感じ取った先生方がちょうど到着したところだった。そうして現在に至る。
「でも、よく学院側もこの程度の罰で許してくれましたね。自分で言うのもなんだけどかなり酷い事をしたと思うんですが」
「そこは学院側も思ったんじゃないか、1年のツートップを謹慎にするのは不味いって。それにアレクに関しては公爵家の息子として少なからず仕事が、レオには1つの街の開拓っていう大きな仕事があるしな」
なるほど、まぁ確かに国の利益に関わることにむやみやらたに関わりたくないよな。
「そういう訳だから2人ともさっさと仕上げろ。あんまり時間もかけてらんないだろ」
そうして俺とアレクは3分の2程書き終えた反省文に再度意識を向けた。
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「はぁー、やっと終わったー」
「予想より早く終わったな。お前はこの後街に行くのか?」
「うん、その予定。まぁ今日は経過を少し見て帰ろうと思ってるけど」
明日は王城に行かないといけないし時間に遅れる訳にはいかないからな。
「だな、それがいいだろう。何やら明日用事もあるみたいだしな」
「そうそう用事があって……って、え?」
「気づかないとでも思ったのか。昨日のあの様子じゃあ何かを隠そうとしてるのがバレバレだ」
「ま、まじか……上手く誤魔化せたと思ったんだけどなぁ……」
「まぁ、ダリスは気づいてなかったみたいだがな。それで、一体何があるんだ?」
「うーん、バレてるならもう隠す必要も無いか。王城に行くんだ、アリシアのお母さんが育ててる野菜を見せてくれるらしくて」
「なるほど、まずはご両親に挨拶をして外堀を埋めると言う訳か。お前もなかなかやるな」
「そう言うことじゃないからな!?」
全く、だからこいつに話すのは嫌だったんだ!
「それじゃあ、俺はこのまま街に向かうから。また来週な」
「あぁ、またな」
そうして俺は校門の前でアレクと別れヴォルアスの街へと向かった。
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翌日、俺はいつも通り王城へと向かう道を歩いていた。普段は城門の前でアリシアが来るのを待つだけだが今日はその門のさらに奥へと進む。
はぁ、我慢すると意気込んだもののやっぱりいざ入るってなると緊張するな。まぁ、緊張するだけなんだけど……
そんなこんなで歩くこと数分、王城の前に着くとそこには既に私服のアリシアが待っていた。
「おはようございます、レオ君」
「おはようアリシア。今日はよろしくね」
はぁー、前に呼び出された時に1度見たけどやっぱり私服のアリシアも可愛いなぁ。制服も良いけど私服も新鮮でこれを見れただけでも今日来たかいがあったな。
「お母様は少し遅れるみたいなので先に畑に行って待ってましょう」
「うん、わかった」
そうして俺はアリシアの案内のもと裏庭にあるらしい畑へと向かうためその門を跨ぐ。
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「着きました。小さいですがこれが家で育ててる野菜です!」
「うわっ、凄いなぁ。このトマト、家のと比べて立派に育ってる」
王家を一般家庭の部類に入れていいかは分からないけどそれでも趣味の範囲にしては良くできた野菜だ。
確かに普通の畑と比べてそこまで大きくはないけど野菜の質は遜色無いぞ。
それに、大きくは無いとは言ってもそれを仕事にしてる人と比べればって言うだけで家の2倍はありそうだ。
「そのトマトは自信作みたいです。それで、こっちが大根でその隣が今日の目的の葉物野菜です!」
「結構色んな種類の野菜を栽培してるんだね。これは参考になりそうだよ」
その後もアリシアと野菜を見て回っているとどうやら数名の使用人さんと共にアリシアのお母さんが来たようだ。
「あ、お母様!」
アリシアのお母さん、つまりはこの国の女王様って事だよな?
5歳の頃の披露宴でちらっと見た気はするけど10年ぐらい前の記憶だしあんまり覚えてないな……
「こんにちはレオナルドです。今日はよろし……うおっ!」
そんな事を考えながら頭を上げて挨拶をしようとした途端に女王様のいる方向から何かが凄まじいスピードで近づいてきて一瞬にして両肩を掴まれてしまった。
「あなたがレオ君ね! アリシアから話は聞いてるわぁ〜、私の名前はディーナよ。今日はよろしくね!」
「え、あ、どうも。よ、よろしくお願いします……」
こ、これが女王様か、よく覚えてないとは言っても披露宴ではこういう人じゃ無かった気がするんだけど……
「入学式前はアリシアが助けて貰ったみたいでありがとう。今日は確か葉物野菜を見たいのよね、ささっ、もう好きなだけ見てっていいわよ!」
「は、はい、それじゃあお言葉に甘えて……」
なんか、凄い距離感の近い人だな……まぁ何にせよ怖そうな人じゃなくて良かった。これなら緊張する必要なんて無さそうだ。
そうして女王様との挨拶を済ませさっきまでアリシアと見ていた野菜達を女王様や使用人の方達の説明付きで再度観察し始めた。
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