第3章 新領地開拓編 五十六話 貴重なお話
「家で育ててる葉物野菜はこの辺りね。種類は少ないけど一般的に出回ってる物しか育ててないからどれも見たことがあるでしょ?」
「はい。それに、どれも市場で売られている物と比べても遜色の無い物ばかりで正直驚いてます」
自分で育ててみてわかったのは野菜の生産は中々難しいという事だ。数が多くてもその全てが売りに出せる程の物では無いことばかりで一般家庭や初心者の人が作ったのならば半分あればいい方だろう。
それを考慮した上でここで育てられている野菜はかなり質がいい。育てている数も少ないながらこの中で低い物でも市場で問題なく売れそうだ。
ここまでいい品を作るにはやっぱり育てかたに何か秘密があるのか?
「この数で殆どの物が良質な物に見えるんですけど育てかたに何かこだわっていることがあるんですか?」
「いいえ、特にこだわったりはしていないけど肥料はなるべく良い物を使うようにしているわ。他にやっている事と言えばよく見ることかしら?」
肥料はわかるけどよく見るって言うのはどういうことだろう?
「野菜に限らず植物って環境とか温度に影響されやすいのよ。その日の温度とか天候、他にも虫や野鳥みたいな外敵からも守ってあげなきゃいけないわね」
なるほど、よく見るって言うのはそういうことか。
確かにただ事務的に水を上げているだけではダメだ。問題は他にも色々あるしよく目を向けていないといけないってことだな。
俺は聞いたことを忘れない様にと持ってきていたメモ帳へディーナさんの話を聞いたそばから書いていく。
「後は……そうね、これは参考になるか分からないけど水をあげる時とかそれ以外でもたまに話しかけるようにしてるわ。聞いた話でしかないし迷信かもしれないけど植物って話しかけてあげるとよく育つらしいのよ」
なるほど、それは初耳だな。
「レオ君は本は読んだりするかしら?」
「本ですか? 農業をするにあたってそれ関連の本を読んだり建築関係の資料を読んだりすることはありますけど……」
一体この質問が何に繋がるのだろうか?
「そう、それじゃああまり個人の書いた話は読んだこと無いのね。そう言った本の中にもたまにお花とかに話しかけてる場面があったりするのだけどそういうのを読むとやっぱり少しでも影響があるんじゃないか、って思っちゃうのよね」
「でも、確かに植物や野菜も生き物ですから話しかけることが少しでも成長に影響していると俺は思います」
それに、話しかけるだけなら何も難しいことは無いしただ話しかけてあげるだけで良い方に成長してくれるならばやって損は無いだろう。
「さすがはレオ君! いいこと言うわ〜。アリシアが気にかけるのも納得ね」
「お、お母様!? 余計な事は言わなくていいですから!」
そこで今までは俺とディーナさんのやり取りを静かに見ていたアリシアがたまらずにと言った様子でディーナさんにそれ以上のことを言われぬように反論した。
「あらやだ、アリシアも遂に反抗期かしら? って話が逸れちゃったわね。他に聞きたいことはある? 」
「いえ、十分参考になることをいくつも聞けたので大丈夫です」
今日聞いたことは早速今日の内か明日にでも街の屋敷に行って試してみよう。
それにしてもアリシアは大丈夫なんだろうか、さっきからムッとした表情でディーナさんの方を睨んでるみたいだけど。
まぁ可愛いしこんな顔してるところ滅多に見れないだろうからそっとしておこう。
「そう、役に立てたのなら良かったわ〜。レオ君の魔法を使えば環境とか天候はあまり関係ないかもしれないけど頑張ってね!」
「いえ、基本は俺以外の人が作るのであれだけのことを聞けて助かりました。ありがとうございます」
少なくとも俺が魔法を使って最初から最後まで育てるのは実験をする時だけだ。
それ以外では多少成長速度を早くしたりはするもののそれ以降は全て使用人の人達が育てているしこれまで結果が出てるのは皆の努力の成果だろう。
きっと今日聞いたことを話せば喜んでくれるはずだ。
「そうだ、レオ君はこの後時間ある? お菓子を焼いてあるから良ければ一緒にお話に付き合ってくれないかしら〜」
「お話ですか? はい、予定は何も無いので大丈夫ですよ」
まぁ予想以上に早く終わったし屋敷に行くのは明日でも大丈夫だから問題無いだろう。それに今日はお世話になったんだ、これぐらい付き合ってあげなければなんだか悪い気もするし。
そうして俺はディーナさん達と一緒に畑から少し離れた場所にあるテーブルと椅子の置かれたガゼボへ向かった。
△▼△▼△▼△▼
ディーナさんやアリシア達とのお茶会も終わり俺が王都の屋敷に帰りついたのは2時辺りだった。
本来の目的である野菜を見に行くと言うのも予想以上に早く終わってしまったため結果的にはその後に話していた時間の方が長くなってしまった。
「はぁー疲れたー。とりあえずまだ時間はあるから少し休んでから屋敷に行くか」
何故お茶を飲みお菓子を食べながら話していただけでここまで疲れているのかと言えばそれは主に話していた内容が原因だろう。
「話していたって言うよりは聞かれたかな。あの質問攻めは苦しかった……」
主に質問をされたのは学院での生活や学院でのアリシアのことについてだ。そうして話している内に話の話題は逸れていき何故か俺とアリシアの関係は実際のところどうなのかと言う内容になってしまった。
「使用人の人達も割とノリノリだったし。そりゃ小さい頃から世話してきた子が成長して男を連れてきたんだから気になるのも仕方ないとは思うけどさぁ」
別にアリシアとは何も無いわけだしそんな事を聞かれても何も答えられる訳が無い。まぁ、そういう関係になりたくないわけではないけれど……
「とりあえずこのまま屋敷に行く気力は無いし少し寝るかな。最悪遅くとも夕方までに行ければ時間はあるだろうし」
そうして俺は疲れた精神を休めるために数時間ぶりのベッドへと身を沈めた。
数時間後、自身の想像以上に心身が疲れていたのかレオが目を覚ました時には夕方はとっくに過ぎておりもうすぐ空も真っ暗になるという所だった。
窓の外を見たあと時計を見てその現実を理解したレオの間抜けな叫び声を部屋の外から聞いていたカレンが何事かと入るとそこにはただ一言「寝すぎた……」と頭と気分を下げながら呟くレオの姿があったと言う。
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