第3章 新領地開拓編 五十四話 好敵手


「2人とも準備はいいな。それじゃあ制限時間5分、始め!」


 先生の合図でいよいよレオとアレクの戦闘が始まった。


「いくぞアレク」


「あぁ、俺も最初から全開でいくぞ」


 返事と同時にアレクは8枚のカードを構え魔力を流す。そうして打ち出された8属性の魔法はそれぞれ起動を変えてレオへと打ち出された。


 やっぱり、傍から見るのと実際に食らうのは全然違うな。見ただけじゃ分かりづらいけど速さや性質によって当たるタイミングと速度が調節されてる。これはめんどくさいな……


「けど、全部撃ち落とせば関係ないよな!」


 レオは赤黒く光る魔力を右手に集め横に薙ぎ払う。

 その直後、アレクの放った無数の魔法は次々と破裂し消し飛んでいった。


「やっとこの魔法にも慣れてきたんだ。少し試させてもらうぜ」


「破壊魔法か、やはりそう簡単には行かないな。だがそれでいい、でなければつまらないからな!」


 アレクはさらに12枚のカードを取り出し魔力を流す。

 対してレオは異空間収納から白夜を取りだしアレクが魔法を放つ前に攻撃を仕掛けようと地面を蹴る。


 俺とレオの距離からして魔法が発動するより僅かにレオが接近してくる方が早いか、なら……


「『氷魔の絶壁ヘル・ウォール』!」


 進行方向に突如として分厚い氷壁が現れたレオだが、それでも尚そのスピードが減速することは無い。

 レオの間合いへと入った氷壁は破壊魔法を付与された白夜によって紙切れの如く切り裂かれた。だが、アレクにはそれ自体も計算の内だ。


 レオが切り裂いた氷壁の間をくぐり抜けるとそこには10数枚のカードとそれと同じ数の火、水、氷、風、雷の無数の魔法が辺り一帯に浮かんでいた。


「食らえ」


「っ! くっ……」


「お前相手にあの程度の壁は何の足止めにもならない事はわかっていた。なら、突破された後の事を考えないわけがないだろう」


「なるほどね、あの氷壁は単なる壁じゃなくてこの魔法を発動させるための時間稼ぎと目くらましでもあったってわけか。中々手強いな」


「まさか、この程度で音を上げはしないだろう。ここからが本番だぞ?」


「はっ、わかってるよ!」


 制限時間、残り4分。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲


 とは言ったもののあのカードの手数をどうにかしなきゃ攻めようにも攻めきれないな。攻撃はカードで、防御は自身で、攻守一体の構えって訳か。

 こっちも防御は破壊魔法で何とかなるけど今みたいに壁に隠れて距離を取られたら攻めようにも攻めきれない。全く、本当にめんどくさいこんなのどうすりゃいいんだ?

 こうして考えてる間にも少ない時間は余計に減っていく、ならとりあえずは……


「ひたすらに攻めまくる『光刃破斬』!」


「クッ! 『氷壁の絶壁ヘル・ウォール』!」


「無駄だ!」


 レオの繰り出したあらゆる物を破壊する光速の斬撃がアレクを襲うがこの場は何とか防ぎったようだ。


 なるほど、光魔法と破壊魔法を合わせたことにより光速となった確殺の一撃か、これをやられては防御魔法は全て意味を成さないな。ならばこちらも一旦距離を取って攻めに出るしか無いな。仕方ない、想定より少し早いがを使うか……


「レオ、お前とは今まで一緒に戦ってきたが初めてこうして相対してみてよく分かった。正直、お前の成長速度は想像以上だ。だから、自分の想定より少し早いが仕方ないだろう。今から見せるのは奥の手、正真正銘の切り札だ。覚悟しろよ!」


 そう言い放ち、アレクは現在所持する120枚全てのカードを魔法で操作し自身の周辺に展開した。


 制限時間、残り2分。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲


 アレクは奥の手と言っていた。使うカードの枚数から見てもかなり強力な魔法なのは間違いないだろう。

 カードを全て使うって事はこれが最後の攻撃になる。ならその間に俺のすることはただ1つ、この一撃を耐えきり直後に反撃する準備をする!


 レオは異空間収納から黒影を取り出し左手に構える。そしてアレクの切り札に対抗するための詠唱を始めた。


「『鎧纏・アーマード・天使エンジェル』!」


 さらにさっきの容量で白夜と黒影に光魔法と破壊魔法を同時に付与!


「準備はいいか、行くぞレオ」


「おう、いつでも来い!」


 その直後展開された120枚のカード全てから火、熱、水、氷、風、雷、土、砂の属性の異なる8属性の剣が現れ上空を舞う。


「食らえ、『剣奏連撃・鎮魂歌レクイエム』」


「『輝光神剣・滅刃』」


 100を超える魔法の剣が曲を奏でるように次々と降り注ぐ。

 8属性の剣が、光速で繰り出される破壊の斬撃が、いくつも衝突しては消滅していく。


 だが、次第にレオの迎撃が追いつかなくなり、その剣戟を浴び始める。


 クッ……いくら鎧纏を使ってるとは言えさすがに100本以上の剣を切り落とすのは厳しいか。

 100を超える剣を同時に相殺する方法はある、けど本当に成功するのか? いや、けどさっきまでと同じようにやれば出来なくは無いはず……

 とにかく、考える時間が惜しい。やれるだけやってみるしかないか。


 次の瞬間、レオは左手に持った黒影を地面に突き刺し右手に持つ白夜を天に掲げた。


「これが成功しなきゃ俺の負けだ!」


 そう言うやいなや掲げた白夜に光属性の魔力が集まり光り輝く。

 その後横幅広い光の光線が白夜から伸び空に舞う無数の剣目掛けて横薙ぎに振り抜かれた。

 繰り出された光線は当たった傍から次々と空中の剣を破壊していき瞬く間にその数を減らしていく。


「何!?」


 自身の攻撃全てが破壊されたのを目の当たりにしたアレクは驚愕から一瞬の隙が生まれてしまう。

 そして、その一瞬の隙をレオが見逃すことは無かった。


「そこだ、『創造クリエイション』!」


「クッ……!」


 レオが詠唱を終えた直後、アレクの足元から伸びた3つの細い木が両腕、右足に絡みつき動きを封じる。

 そして、レオが黒影を引き抜き動けないアレクへ接近しようとしたその時……


「そこまで!」


「え?」


「は?」

 

 メルトにより制限時間終了を告げる言葉が伝えられる。


 制限時間終了、結果 引き分け。


 ▽▲▽▲▽▲▽▲


「クッソー、あと少しだったんだけどな」


「最後のあれは驚かされたぞ、まさかあの攻撃が全て落とされるとわな。あれは光魔法に破壊魔法を混ぜたのか?」


「あー、うん、そんな感じ。イメージとしてはあの光線の周りに破壊属性の魔力をコーティングする感じだったんだけど結果としてはその前と同じようになったんだよね」


 いやーでも、咄嗟の思いつきにしては成功して良かったな。この方法は他の魔法にも役立ちそうだ。


「なるほどな、明日俺も試してみるか。結果だけ見れば今日は引き分けだったしな。この続きは明日やるということにしよう」


「あっ、ずるいぞ! 今日のは殆ど俺の勝ちみたいなもんだろ!?」


「そう言われても結果には引き分けって出ているしなぁ」


「お前っ、だいたいなぁ!」


 そんな2人の言い争いを少し離れたところからメルトは見ていた。


「全く、とんでもない奴らだ。このレベルの戦闘、現役の軍人にもそうそういないだろうに。どちらにしろあの2人はこの国の未来を担う事になりそうだな。ほんと、良い好敵手ライバルだ」


 

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