第5章 神竜国ドラグリア編 八十五話 未知の敵との遭遇
修行の間の中へと入った俺は早速扉の隣に備え付けられていた魔力結晶を発見する。
「グレンさんが言ってたのはこれの事か。えーっと操作方法は……これでいいのか?」
魔力結晶には1日=1日と言う文字が映し出されていた。
恐らく左の数字が現実世界での時間の流れで右がそれに対するこの部屋の中の時間の流れを表しているのだろう。
(グレンさんは現実世界で一日経つ事にこの部屋では2年経つぐらいが最初はいいって言ってたしとりあえずそうするか)
「2年だから右の数字を730日にして……これでよし」
すると、俺が立つ周りの風景がたちまちと変わり始め数秒の内にその風景は少し大きめの木の小屋へと変化した。
「ここは、小屋か?」
(グレンさんは自然の溢れた空間に変わるって言ってたけどこの小屋の外がそうなのかな。だとしたら1度外に出てみるか)
「えっと、今目の前にあるのが俺が修行の間に入ってきた扉だから外の世界に繋がる扉でとなるとこの小屋から出る扉は後ろにある奴か」
そうして俺は自分の後方に存在する扉へと近づきゆっくりとドアノブを捻る。その先に見えたのは立ち並ぶ木々とその根元に咲く色とりどりな草花。果実を実らせた木にその果実を食べる動物まで見えた。そこには正しくグレンさんが言った通りの自然溢れる空間が存在していた。
「おぉ、これは凄いな」
(それに、グレンさんの説明を聞いている段階では幻術のような物を見せられているような感じだと思ってたけどこの空間に存在するものは木や食べ物、川や生物と言ったものまで全てが本物だ)
「この自然が無限に続くのか。確かに食料には困らなさそうだな」
その後、俺は小屋の周囲をしばらく見て回った。そこで分かったのは小屋を中心として半径30メートル程度の空間に結界が張られており、そこには動物も魔物も入ることができなくなっているようだ。
「決して広くは無いけど1人で生活するなら十分なスペースだな。とりあえず最初は食料集めだ」
早速俺は異空間収納から白夜を取り出し東の方向へと歩き始め………ようとしたが途中で辞めた。
「さっき小屋の周りを見て回っている時に西の方角から少し水の音がしたし、今日は東じゃなくて西行ってみるか」
何よりも優先するべきは水だからな。
そうと決めると俺は微かな水の音を頼りに西の方角へと歩き始める。
「にしても本当に色んな生き物がいるな……」
西の方角には森が広がっておりそこには多種多様な動物が数多く生活していた。中には見たことの無い生物もいる。
(とりあえず肉は牛や鹿が欲しいな。それがいなかったとしてもせめて兎とか猪がいてくれるとありがたいんだけど)
水の音が聞こえる方へとしばらく歩いていたが俺が探し求める動物達は一向に見つからない。
「やっぱり、そう簡単にはいかないか。こっちの方角にはリスとか猫みたいな小動物が多いのかな」
見かける動物と言えば木の上にいるリスや野鳥、草の影に犬や猫、ネズミ等と言った小さな生物しか見当たらない。
(とりあえず今日の夕飯は肉無しかな。水だけ取ってまた明日別の方角を探してみるか)
その時、レオの視界の端に一瞬だが見慣れた生物が映り込む。
「ん? 今いたのってもしかして……」
その姿を追い草むらへと入っていけば予想的中。そこにいたのは水色の体を自由自在に動かすスライムだった。
「ここに来てから初めての魔物はスライムか。敵意があるようには見えないし倒すのは可哀想だな」
(あ、そう言えば今このスライムを見て思い出したけどこの空間って使い魔は召喚出来るのか? その辺もグレンさんに詳しく聞いておいた方が良かったな)
「グレンさんでも何度も外と出入りするのは危険みたいだしニアも当然その対象に含まれるだろうから無闇矢鱈に呼んで何かあったら怖いしやめとくか」
最後にニアを呼べたのは合宿の少し前、つまりはあれから1週間以上も経っている。
「10年間も会えないのは寂しいけどあっちからしたらたった数日だもんな。俺が我慢さえすれば大丈夫か」
そうして俺は気を取り直して水の音がする方向へ進む。真っ直ぐに来た道とは逆の方向へとただひたすらに歩いた。途中使えそうな木の枝や蔦を回収するのも忘れずに歩くこと約数十分。
「はぁはぁ、やっと、見つけた……」
俺の眼前には透き通るほど透明な川とその先に轟音を響かせる滝が見えた。
「『
俺は詠唱をして創造魔法を使い大きな木の樽を3つ作り出す。
「これで当分の飲水は確保出来たかな」
ガサガサッ
「ん? 今あの草揺れなかったか?」
ガサガサッ
「やっぱり揺れてるよな、何かいるのか?」
レオは物音のした方向、今いる川辺の対面側へと目を向けるがそこは背の高い草むらが生い茂っており何がいるのかは検討も付かない。
(もしかしたら大型の魔物かもしれないな。一応何時でも戦えるようにしておくか)
樽を異空間収納へと仕舞い代わりに白夜を取り出し構えるレオ。数秒後、草むらから物音の主がついに姿を現す。
「ギギッ、ギ、ギギギッ」
現れたのは巨大な体躯に白と黒の体毛をなびかせ、黒光りする頭部の額と左右に長く立派な3本の角を生やし、しなやかな八本の足で地を這う八つ目の生物。
「も、もしかしてあれって、蜘蛛……なのか?」
そう、蜘蛛だ。
が、レオの眼前に姿を現した蜘蛛は明らかに他の蜘蛛とは違っている。その最たる例は頭部に生える3本の角だ。
(あんな角が生えた蜘蛛は見たことも聞いたことも無い。って言う事はこの環境に適応するように進化した新種の蜘蛛型魔物か!)
「ギ、ギギッ、ギシャーッ!」
「うおっ!」
(あいつ、いきなり糸吐いてきやがった! 普通の蜘蛛は口から糸なんて吐かないぞ! いや、その考え自体がダメなんだ。こいつは新種、行動自体が未知数。今までの蜘蛛の概念は全て捨てた方がいい!)
「ギシャーッ!」
ジュッ
「なっ!」
(何だあの糸! 木を溶かしたのか? どちらにせよ直撃は避けないと)
「ギギ、シャーッ!」
「フッ、ハァッ!」
ガギンッ!
木や草むらを使い身を隠しながら接近したレオは攻撃を受けながらも何とかその糸を掻い潜り白夜での一撃を与える。だが、その苦労も虚しくレオの攻撃でこの蜘蛛に傷をつけることは無かった。
「クソっ、体毛が硬すぎて皮膚まで攻撃が届かない!」
地面に着地し何とか体制を立て直そうとするレオだがその一瞬の隙を蜘蛛は見逃さない。
「ギッ、ギシャーッ!」
「っ! 『
一瞬の隙を付かれたレオではあったが咄嗟に魔法を発動しその攻撃を回避する。
(普通の攻撃じゃあ本体に届きさえしない。となると空間魔法か破壊魔法を使うしかないか!)
「なら最初はこれだ!」
そう叫ぶとレオは右手に持つ白夜へ魔力を流す。すると、白夜の刀身は灰色の鈍い光を放ち始める。
その集束する魔力に気づいたのか蜘蛛は今までその場から動いていなかった体を動かしレオへと決死の突進を繰り出した。
「早っ! グッ……!」
蜘蛛の巨体と想像以上のスピードから繰り出された突進を真正面から直撃したレオはそのまま勢いよく後方へ吹き飛ばされ後ろにあった木に直撃する。
「グハッ!」
「ギシャーッ!」
蜘蛛の決死の攻撃に一瞬動きを止めたレオ。トドメと言わんばかりに蜘蛛は今までで1番範囲の大きい糸を噴出する。
(クソっ、魔力は溜まった、
「クッ、考えてる暇なんて無いか……」
そう言うとレオは激突した木を蹴り迫り来る死の糸へと自ら突撃していく。
「……ここだっ! 『
糸と直撃するギリギリの所で転移門を発動したレオは蜘蛛の頭上へと移動する。そのレオの行動に当の蜘蛛は気づいていない。
(貰った!)
「ハァッ! 『次元斬り』!」
「ギッ! ギギシャーッ!」
次はレオの攻撃をモロに食らう蜘蛛。その万物を列弾する一撃は以下に強固な蜘蛛の防御力を持ってしても耐えることは出来ず雲を斬るかの如く容易く斬り裂いた。
「はぁはぁ、何とか、倒した、のか……」
しばらくすると呼吸を止めた蜘蛛の残骸は塵となり後には3本の角と赤黒い魔石だけが残されていた。
「はぁはぁ、か、勝った〜」
見たことも無い未知の敵との戦闘に想像以上に体力を使ったレオはその場に背中から倒れる。
「とりあえず、今日は小屋に戻って休もう。本格的な修行は明日からだ」
(もし今倒した蜘蛛がこの空間でも相当上位の強さの魔物なら少しは楽でいいんだけど……多分違うよな、なんたって蜘蛛だし)
「はぁ、後10年か。先は長いな……」
その後、レオはしばらくの間川の傍で休憩したあと転移門で小屋へと戻り、修行初日を終えた。
そうして、レオの過酷な修行はここから幕を開けることになる。
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