第2章 四大魔法学院対抗戦 後編 三十一話 鬼才
身を潜めていた茂みから出た3人はそのまま相手の前に姿を現した。
「レオ君準備はできた?」
「あぁ、マーキングはもう出来た。いつでもいいぞ」
レオがそう返すとサリーは1歩前に出て魔法を発動する。
「それじゃあレオ君が
「レオ君も頑張ってください!」
「うん。頼んだよ2人とも」
そう言ってレオは右手を前に出し魔法を詠唱する。
「『
レオが詠唱を終えると前に出した手の前に
そう、レオの考えた作戦とはダリスとゼノンを
「アレク達は、あそこか」
レオが魔力探知を使うと魔力結晶に魔法の余波が飛んでこない辺りでアレク達が戦闘をしているのがわかった。レオは2人に通信を繋げる。
「2人とも、聞こえるか?」
『レオか? 悪いが今手が離せなくてな。話なら後にしてくれ』
「いや、すぐに終わるからそのまま聞いていてくれ」
そしてレオは自分の立てた作戦を手短に伝えた。
『なるほどな、俺はレオのところまでゼノンって奴を連れて行けばいいんだな?』
「あぁ、もう少し近くまで来てくれれば俺も手伝う。その後はアレク、頼んだぞ」
『任せておけ。1対1なら必ず勝ってみせよう』
「それじゃあダリス、俺はいつでも大丈夫だからそっちのタイミングで作戦を始めてくれ」
『了解!』
そこで2人との通信は切れる。
通信が切れた数秒後、レオの視界にもダリスと相手の次席であるゼノンの姿が視認できた。
さすがはダリスだ。上手く誘導できたみたいだな。
「ダリス! こっちだ!」
レオは声をはりあげダリスに位置を教える。
「おう! 後は任せたぞ!」
そう言うとダリスはゼノンの足元から土魔法を発動しレオの方へと吹き飛ばす。だが、相手もブランハーツ学院の次席。そう簡単に作戦通りとはいかなかった。
「クッ!」
ゼノンは自身の進む方向に土魔法で壁を作り、何とか体勢を立て直して着地した。
「なるほど、挟み撃ちとは。上手く誘導させられたか」
ゼノンは2対1のこの状況でも冷静な思考を失ってはいなかった。
「これは、何とか耐えるしかないようだな」
そして、ゼノンは砂魔法を自分の周囲に展開し、攻めの体制に入った。レオはダリスと合流する。
「気をつけろよ。あの砂魔法、捕まったらかなり厄介だ」
「みたいだな、あの量をあそこまで自在に操るのはなかなかの熟練度だ」
「話は終わったか? それなら、こちらから行かせてもらうぞ!」
ゼノンが詠唱をすると周囲の砂がその形を無数の鋭利な刃へと変えた。
「切り裂け『
ゼノンの魔法は2人に急速に接近してくる。だが、その刃はダリスの作り出した土壁によって防がれる。
「ごめん、ダリス。助かった」
「これぐらい気にすんな、お前の魔力は温存しとかなきゃいけねぇからな」
「あいつの隙を付ければ俺が引っ張ってそのまま
「隙を作れればいいんだな? 任せろ! レオは後ろからサポートしてくれ」
ダリスの申し出にレオは頷くことで返した。
2人は土壁から出ると全速力でゼノンまでの距離を詰め、ダリスはその両手に土魔法で作り出した岩の籠手を装着する。ダリスの十八番近接戦闘だ。
「ハッ!」
ゼノンの繰り出す魔法をレオが撃ち落としゼノンを射程圏内に捉えたダリスはそのまま右の拳で攻撃した。
「クッ!」
ゼノンは何とか攻撃を避けるがダリスの猛攻は終わらない。
「ウォォォーッ!」
最初の数発は何とか交わしたゼノンだが接近戦は苦手らしく、徐々にダリスの攻撃がかすり始める。その時、ゼノンが魔法を詠唱する。
「チッ、『
ゼノンの繰り出した魔法はダリスの足元に展開され砂の渦が足場を悪くし、ダリスは一瞬バランスを崩すがすかさずレオが闇魔法を発動する。
「『
レオが詠唱をすると砂の渦に1本の黒い柱が現れゼノンの魔法を跡形もなく消滅させた。
「今だ、ダリス!」
「ウォォッ!『
ダリスの拳は自身の魔法が打ち消され、動揺するゼノンの胴体に綺麗に決まった。
「グァッ!」
攻撃を食らったゼノンは後方に倒れそのまま気を失った。
「ん? 隙を作るつもりが倒しちまったな」
「まぁ、倒すにこしたことはないだろ。とりあえずこいつも運んで向こうに移動しよう」
そしてレオとダリスはゼノンを抱えて
(あとは任せたぞ、アレク)
レオ達がゼノンと戦っている頃、アレクの戦闘も激しさを増していた。
「『
「クッ!『
淡々と詠唱をし強力な火魔法を複数同時に発動する男の名はベリアル・フォン・ゼクバス。ブランハーツ魔法学院首席にしてゼクバス帝国の王太子だ。
ここまで、退路を塞ぎ妨害と攻撃を同時に仕掛けてくるベリアルに対しアレクはかなり苦戦させられていた。
「さすがは神童、この程度では通用しないか」
「いや、正直かなりキツイですよ。ここまで苦戦させられるのは初めてだ。『鬼才』の名は伊達ではないようだ」
「そう畏まるな、他国の王太子と言えど今はただの学生同士だ。それに、お前はまだ全力の半分も出していないだろう?」
「それを言うのであればお互い様だろう? そちらも奥の手は見せていないと言ったところか」
「さすがの観察眼だ。いいだろう、ここからは全力で行くぞ!」
そう言ってベリアルは詠唱を始める。それを見たアレクは少し驚いた。それも仕方がない何故なら、今までレオ同様最短詠唱だったベリアルが未だ短いとは言え今までよりも長く詠唱をしているのである。
「燃え盛れ、地獄の炎。『
ベリアルの出現させた火は赤黒く、その異様さは見ただけでも危険なものだと断言出来る。
(とんでもない魔法だ、当たれば骨も残らないかもな。これを相殺するにはあれしかないか……)
ベリアルの魔法に対抗するようにアレクも体に魔力を貯め、解放する。そこにはこれまでの大技以上の魔力が集まっていた。
「『
アレクが詠唱するとその全身に雷魔法の鎧が纏われ、背後に6つの雷の球体が浮かび上がる。
「ほう、とてつもない魔力量だ。面白い!」
ベリアルは魔力をさらに解放し魔法の圧力を上げる。それに対抗する様にアレクは背後の球体全てを両手に集めその上魔力を貯め圧縮する。
「食らえ、『
アレクは圧縮した魔力を迫り来るベリアルの魔法目掛けて前方に打ち出す。
2人の全力の魔法が衝突した時、その衝撃波で2人を中心に半径50mの木が全てなぎ倒された。
均衡していた2人の魔法だが徐々にアレクの魔法が押し始める。
「ハァァァァァッ!」
「ウオォォォォォォッ!」
ドゴォォォォンッ!
2人の雄叫びが響く中、遂に激しい魔法同士のぶつかり合いに膜が降りる。最後に勝ったのは……アレクだ。
「はぁはぁはぁ、俺の……勝ちだ」
「グッ! はぁはぁ、完敗だ。ルステリア王国の神童の実力がこれ程とは、俺もまだまだだな」
「かなりギリギリだったがな。あと、その呼ばれ方は好きじゃないと呼ばれる度に言っているんだが……まぁ、いい」
「次こそは、絶対に俺が勝つ。それまで、負けることは許さん」
「ふっ、他国とは言えど王太子殿にそう言われてしまっては聞くしかないな」
そうしてアレクは倒れたベリアルを起こしそのまま握手を交わした、次の再戦を約束して。
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