百三話 新学期


「長かった夏休みも終わり、今日から学院生活が再開する。そんな日に、皆の元気な顔が見れて私も嬉しく思うばかりだ。各々、この夏休みには良い思い出、悪い思い出とあったと思うが、それを乗り越え、今以上に成長していってほしい。あまり長く話しても退屈だろう、私からは以上とする。この後は新任教師の挨拶だ、入ってくれ」


 学院長の挨拶が終わり、新任教師が壇上に現れた。


「って、えぇ!?」

「ちょ、おい! 静かにしろレオ!」

「レオ君、シー!」


 そう、ダリスとサリーが小声で落ち着かせようとしてくるがこれは仕方が無いだろう。何せ、事前に何ものだから。


「では、紹介しよう。新任のグレン先生だ」

「皆さん、よろしくお願いします」

「「「キャーーー!」」」


 壇上に上がり、全校生徒へ挨拶したのは、俺もよく知るグレンさんだった。


(じょ、女子からの声援が凄い……)


 まぁ、あの人かなりの美形だからな。人前に立てばこうなるのも当然だろう。


「グレン先生には一年Aクラスの副担任をしてもらう」

「分からないことの多い身ですが、優しく教えていただけると嬉しいです。皆さん、これからよろしくお願いします」


 そう言って、グレンさんは人当たりのいい笑みを浮かべ、深く礼をした。


(このタイミングで俺達Aクラスの担任になったって事は何か裏がありそうだな。それに……)


「あの顔、絶対何か罠があるぞ」

「今回の場合、罠というよりはサプライズとかだろうな。どちらにしろろくでもない事には違いない。警戒を怠るなよ」

「嗚呼、分かってる」

「お前ら、少し疑いすぎじゃねぇか?」


 そんな事は無いぞダリス。あの人は何かとすぐに俺達をいじってくるような人だ、今回はどんな仕掛けがあるのか分からない。主に被害者は俺達とシンだったけどこの場にシンは居ないからな。自ずと的は俺達のどちらか、もしくは両方に絞られる。


「では、これにて学期初め開校式を終了とする。今後の予定についてはそれぞれの教室で連絡を聞いてくれ」


 学院長の言葉で開校式は終わり、生徒達はそれぞれの教室へと戻って行く。


 もちろん、俺とアレクは何かある前にとグレンさんとの接触を避けるように全速力で教室へと向かった。


 □


「はーい、それじゃまず紹介するぞ。知ってるやつも何人か居るだろうが今日からこのクラスの副担任をする事になったグレンさ……先生だ。皆仲良くするように」


 先生、今グレンさんって言いかけてなかったか? まぁ、さすがにそんな直ぐには慣れないか。


「学院長からも紹介をされましたが、改めまして。グレンと言います。家名は分け合ってありません。皆さんよろしくお願いします」


 分け合ってって、ただ普通に無いだけだろ、竜人だから。何でわざわざ含みのある言い方をするのか。


(と言うか、今挨拶の時チラッとこっち見たよな。あ、手振ってきた。やめろやめろ振らないで! あー、ほら、やっぱり全員こっち向くじゃん!)


 新任の美形教師が手を振ったとあればそれが誰なのか気になるのは当然の摂理。クラス中が俺やアリシア達の方へ目を向ける。


「え、今アリシア様に手振ってなかった?」

「いやいや、アリシア様は無いでしょ。だってレオ君がいるし。サリーさんじゃない?」

「サリーさんにしては少し右だった気がするけど、もしかして……レオ君だったり?」

「えぇ〜何それ、何か気になる! 二人ってどういう関係何だろう」

「学年首席と新任教師、これは面白くなりそう!」


 何か女子の間でグレンさんと俺のよからぬ関係がひそひそと話されているが、全部聞こえてるからな! まぁ、聞かなかった事にするけど。


「お前ら、質問とかは後でな。Aクラスはこの後も予定が詰まってんだ。それじゃあ次行くぞ」


 次? まだ何かあったのか。


「次は留学生二人の紹介だ。入ってくれ」


 あぁ、そう言えば朝サリーが言ってたな。うちのクラスに留学生が二人入るって。一体どんな……


「っ! おい、このパターンさっきも見たぞ……」


 さすがに二連続は声出ないからな。出せないほど驚いてるだけだけど!


 何しろ、彼らからも何も話は聞いていなかったのだ。それは隣に座るアリシアも同じらしく、留学生の一人を見て口を抑えるほど驚いている。

 この反応から分かってもらえると思うが、今教室へと入ってきた留学生二人も俺達の知る人物だ。そして、先生に促され留学生が挨拶をする。


「初めまして……じゃない人もいるかな。セイクリッド学院から来ました、シン・ドラグリアです。皆さんよろしくお願いします」


 そう言うと、勇者は爽やかな笑顔で自己紹介を終え――


「サヤ・フィルトです。よろしく」


 もはや俺の中で付き人と言うイメージの強い彼女は相変わらず人前ではクールで、淡々と自己紹介を終わらせた。これが気心知れた仲の人物といる時はあんなに笑顔になるのだから不思議なものだ。


「と言うことで、隣国のウィルバート王国にあるセイクリッド学院から来てくれたシン君とサヤさんだ。お前ら仲良くしろよー。はい、これにて朝礼終わり。質問ある奴はこの後に聞けー」


 何か、先生の対応が雑じゃないか? 心做しか目の下のクマも普段より濃い気がするし……いや、絶対それが原因だろ!


「先生、また徹夜したのかな?」

「多分そうじゃないか? クマも濃いし、また学院長辺りから面倒なこと押し付けられたんだろ」

「この時期はただでさえ忙しいですからね。体調崩さないと良いんですけど」


 アリシア、多分その心配はしなくて大丈夫だ。何故ならあの人は日頃から体調悪いからね。手遅れって言った方が正しい。


「そこの三人、うるせぇぞ。小声で喋ってるつもりだろうが全部聞こえてるからな」


 体調は悪そうなのに何で五感は鋭いんだよ!


「す、すいませんでした……」

「反省してるならいい。本来は俺の仕事だったが、特別にお前らにはこの二人に学院内を案内する権利をやろう。それで今の件は許してやる」


(特別って、それ自分でやりたくないだけだろ!?)


「その言い方だと罰ゲームに聞こえるんですが?」

「まぁ、そうとも言うな」


(認めちゃったよ!)


「先生! それは教師としてどうかと思います! 断固として反対します!」

「お前、人の話聞いてたか? うるさいって言ったの、ただでさえ頭痛ぇんだからあんまりでかい声出すな。あと出させるな」

「もう最低だよあんた!」


 これは何がなんでも抗議が必要だ、すぐ学院長に報告してやる!


「ははっ、レオは相変わらずみたいだね」

「はぁ、アリシアが大変そう」

「あーそうだ、この機会に席替えするから。お前ら楽しみにしとけー」

「「「はぁ!?」」」


 学生にとって重大な報告を突然聞き、クラス全体の声が一致する。


(待て待て、今の席は割と良席なんだぞ! アリシアの隣から離れるなんて嫌だからな!?)


「ど、どうするアリシア? い、い、今からでも先生を脅迫に!」

「そんな事しちゃダメですよ。それにきっとまた近くになれますから。そう信じましょう」

「そ、そうだよね。ははっ、俺ってばちょっと焦っちゃって、ははっ」

「レオ君、笑い方もだけど、何かキャラが変だよ? 暑さと色んな衝撃が重なっておかしくなってない?」

「そ、そんな事ないゾ。そ、それにサリーだって、何時もより言葉に無意識の棘が多いんじゃないか?」

「うっ、何かそう言われたらそんな気がしてきたかも……気をつけないと」


 すると、サリーは突然小声で詠唱をし、膝の上に使い魔であるスライムを召喚した。


「あー、ひんやりしてて冷たい。これで頭も冷えそー」

「あ、それいいな。俺にも貸してくれよ」

「ダメだよー、スーちゃんは私の使い魔何だから。レオ君はニアを召喚すればいいでしょー」

「サリー、よく考えるんだ。今この状況であいつを呼び出したら俺は溶けるぞ?」

「それなら、私のルカちゃんを呼びましょうか?」

「それはダメだよアリシア。ルカちゃんじゃあ大きすぎるし、すぐバレちゃう」

「あ、そ、そっか……」


 大丈夫、その気持ちだけで嬉しいよ、アリシア!


 そんなやり取りをしている内に、どうやら朝礼も終わったらしく、席替えのくじを残してメルト先生は教室を去っていった。どうやら今日の日程はこれにて終了みたいだ。


 さてと、それじゃあ早速行くか。これからの学院生活を決める戦地、教壇の上に置かれたくじの元へと!

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