第3章 新領地開拓編 五十一話 実験


 週末、俺は今考えている事を父さんに報告しにヴォルアスの街にある屋敷へと来ていた。

 

「とりあえず、広げた土地には十分な数の住宅と子供を預けられる様な施設を何個か作ったらどうかと思うんだけど、どうかな?」

「あぁ、いいと思うぞ。レオの言う通り施設があれば大人達も多少は仕事に困ることは無くなるだろうしな。だが、それにも限界がある。全員を働かせることは厳しいと思うぞ」


 そう、いくつか施設を作ったところで働いてもらえる人にも限界がある。多くて10人〜15人と言ったところだろう。それだと働けない人も少なからず出てきてしまう。


「その辺についても少し考えてる事があるんだけど農業をやってもらうのはどうかな? 聞いた話によると大きさはそこまで広くないけど使われていない畑とかもあるみたいだしそこで農作物を作ってもらえば今後街にも利益を与えてくれるかもしれないし」

「そうだな、今この街で使われている物は基本他の街や王都から仕入れた物だ。自給自足するのもいい案だろう。だが、それには時間もかかるし必ず成功するとも限らないぞ?」


 父さんの言う通り農業には時間もかかるし初心者が作業をすればやり方を覚えたとしても効率もまともな物が収穫できる可能性も経験者と比べて格段に下がる。

 そうなったら時間と費用を無駄に消費するだけだ、今行うのは得策では無い。

 けど、それに関しては1つ試したいことがある。もしこれが成功すれば効率に関しては当分気にしなくてもいいだろう。


「それに関してだけど実は農業をするにあたって1つ試したい事があるんだよね」

「試したい事?」

「うん。父さんにも前に説明したと思うんだけど俺の時間魔法は対象の運動エネルギーや成長能力を加速減速させる魔法だ。だからこの魔法を使えば野菜もすぐに成長させられるんじゃないかと思って」

「そうだな、確かに理屈だけ考えればできるだろうが時間魔法はまだまだ未知の魔法だ。やってみないと分からないだろうしそこは試してみるといい」


 よし、父さんにも許可は貰ったしこの後思いっきり実験しよう。


「早速この後裏庭で試してみようと思うよ。それに、ある程度野菜について知ることが出来れば創造魔法でも作れるかもしれないしね」

「ふっ、期待しているぞ。とりあえず今考えてる事はこれだけか?」

「うん、後は協力してくれる人がどれだけいるかだけど……」

「それについては俺とアランに任せておけ」

「うん、お願い。それじゃあ俺はこれで」

「あぁ、また何か思いついたら伝えてくれ」

「わかった」


 そうして俺は父さんの書斎を後にした。



 ◇◆◇◆◇◆



 書斎から出た俺は途中ノアさんの所により必要な物を受け取った後直ぐに裏庭へと来ていた。


 実験するのは良いけどまずは何からやろうかな……


「うーん、考えてるだけじゃ日が暮れそうだし最初はその辺の物で試してみるか」


 俺は近くの雑草に手をかざし時間魔法を使用する。

 すると、雑草は徐々に高さを伸ばしていき靴よりも低かったその高さは1分もせずに俺の膝下まで伸びていた。


「とりあえず第1段階はクリアかな。後はこれが野菜にも使えるかどうかだ」


 俺はさっきノアさんから貰った野菜の種を取り出す。


「本で読んだ物によると野菜を作るのには土と水、それから太陽の光が大切なんだよな。光はこの天気ならどうにかなるとして水と土は……あ、そうだ!」


 そうして俺は魔力探知で目的の人物を探し転移門ゲートを開く。


 数分後、俺は目的の人物2人と1人を連れて裏庭まで戻って来た。


「ごめんねカレン、仕事中に呼び出しちゃって。ゼルさんもすいません」


 俺が呼びに言ったのは水属性を使えるカレンと土属性を使えるゼルさんだ。ちなみにもう1人はカレンと一緒にいたマナだ。俺が実験をすると言ったら興味があるらしく付いてきたのだ。


「いえ、街の発展の為でしたらいつでもお呼びいただいて構いませんよ」

「私も今はマナちゃんとお茶をしていたので大丈夫です。それで、何を手伝えばいいんですか?」

「うん、今から俺がこの野菜の種を植えるからカレンには植えた所に水をあげて欲しいんだ」

「わかりました。任せてください!」

「なるほど、私は種を植えられる土を用意すればいいですかな?」


 さすがはゼルさん。さっき連れてくる時にした説明と今のカレンへの指示だけで何をすればいいかわかったみたいだ。


「はい、お願いします」

「かしこまり。場所はこの穴でよろしいですか?」

「はい、高さは少し上に幅を開ける感じでお願いします」

「かしこまりました」


 そう言うとゼルさんは指定した穴に土を作り出し要望通りに敷き詰め始めた。見た感じは畑で使われている土と遜色ないし恐らく大丈夫だろう。


「レオ様、このぐらいで大丈夫ですかな?」

「はい、ありがとうございます。それじゃあ俺が種を植えるからそうしたらカレンもお願い」

「わかりました!」


 そうして俺は種を取り出し指の第1関節辺りの高さの小さな窪みを作り種を植えた。そこにカレンが魔法で作り出した水を少しずつ撒く。

 よし、準備はできた。後は植えた野菜の種に時間魔法をかけて成長するかだな……


「ありがとうカレン。それぐらいで大丈夫だよ」


 カレンにそう伝えると俺はカレンと入れ替わる様に種を植えた場所へ近づき、さっきと同じ容量で時間魔法を使用する。

 しかし、数秒魔法を使ってもその芽は出てこない。


 雑草は今頃はもう目に見えて成長してたんだけどな。野菜だとやっぱり同じようにはいかないか……


 そうして少し落胆しながら魔法を使い続けること数十秒、その異変は起きた。


「あ、お兄様! 何か出てきました!」

「え?」


 マナの言う通り数箇所に植えた種の1つが成長し土から芽を出したのだ。


「本当だ、雑草よりも時間がかかるだけで成長しないわけじゃ無いのか。けど、なんでこの1つだけ?」

「恐らく、光の当たり具合や水の量土の質等が関係しているのでしょう。他の種も成長が遅いだけでそこを改善さえすれば問題なく成長すると思われます」

「なるほど、農業って条件を揃えればいいだけじゃないんですね」

「私も実際に種を植えたことは殆どありませんが農家の方に聞いた話によるとそう言った条件が完璧にあってやっと結果が出るようです」


 へぇ、農業って奥が深いんだな。少し面白いかも


「まぁそれはさておき、実験は成功でよろしいのではないでしょうか?」

「えぇ、まだまだ改善は必要ですけど第2段階は問題なくクリアです」


 これで農業の問題に関しては解決へ向けて1つ進んだな。この調子でどんどん実験するぞ!


「レオ様、張り切っているところ申し訳ないのですが無理のしすぎもダメですよ。ちょうどいい時間ですしお茶を持ってくるので少し休憩しましょう」

「まぁ、そうだね。少し休憩しよっか。ゼルさんもどうですか?」

「えぇ、いただきましょう」

「じゃあすぐにみんなの分持ってきますね!」


 そう言ってカレンは急いで屋敷の中へと戻って行った。

 このメンバーでお茶をする機会も珍しいし良い息抜きになるかな。


 数分後カレンが持ってきたお茶とお菓子をゼルさんが用意したテーブルに起きしばらくの間4人でゆったりとした時間を過ごした。

 学院に入学してから色々な事があってゆっくりとお茶をする事なんて滅多に無かったし、たまにはこんな長閑な日常もいいだろう。

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