第5章 神竜国ドラグリア編 八十一話 衝撃発言


 ――セイクリッド学院襲撃から10日後――


 ここはウィルバート王国の南西に位置する小さな林。その奥には、劣化の激しく中には地下へと続くと思われる階段が1つあるだけの小屋がポツンと建てられていた。


 そして、セイクリッド学院から約2時間弱のこの場所に、たった今入り地下へと続く階段を降りる2つの影があった。


「こっちは順調みたいだね」

「これぐらいは当然だろう。なにせ指揮をしているのがこの私なのだから。それよりも、そっちは手酷くやられたみたいじゃないか、ノワール」

「返す言葉も無いよ。学院側の戦力を見誤っていた。まさか今代の学生があそこまで力をつけているとは」


 男の言葉にそう返すノワール。


「ふっ、単に貴様らの実力が足りていなかっただけだろう。普段から影で動くことしかしないからだ」

「若き『勇者』を打った人間の言葉はやはり重みが違うな、ゼニス。それより、目的地へはまだつかないのかい? 既に同じような部屋をいくつも入っているが」

「作りが同じなのだからそう見えるのも当然だろう」


 ゼニスと呼ばれた男はまるで「文句を言わずに着いてこい」と言いたげにその鋭い瞳を隣を歩くノワールへと向けそう答えた。


「ならいいんだけどね、僕の傷も軽症じゃない。あまり長い距離は歩きたくないんだ」


 ノワールは左手に持った杖で、今は失われた自身の左足に着く義足を叩く。


「お前と言いゲルトと言い学生程度に四肢を持っていかれるとは情けない。ほら、着いたぞ」

「やっとかい。それと、前の言葉はあえて聞かなかった事にするよ」

「好きにしろ」


 そう言って開かれた扉を潜るノワール、ゼニスもそれに続くようにこの先の部屋へと入る。


「へぇ、これはなかなかの数だね」


 ノワールが見つめる先、そこには100を超える革命軍リベリオンの構成員がリーダーの指示をまだかまだかと待機していた。


「けど、この数だと一度に行動するには目立ちすぎるね。いくつかの小隊に分けた方がいい、再襲撃はいつするんだ?」

「今すぐにでも行けるさ。十分な休暇はとった」

「なるほど、なら直ぐにでも作戦を決めよう。明日には――」


 作戦決行だ。そう言いかけた時だった。部屋全体を揺らすほどの轟音が地下室全体に響く。それと同時に、2人は未だかつて感じたことも無いほどの重圧を地下室の外から感じ取っていた。


「何だこのプレッシャーは……」

「一体外で何が起きている!」


 ゼニスがそう叫ぶと2人が入ってきた扉から1人の構成員が慌てて部屋へと飛び込んでくる。


「て、敵襲です! 数分前、このアジトの上空を飛ぶ敵を1人確認しました!」

「何んだと!」


 構成員の言葉に動揺するノワール。が、その隣のゼニスは至って冷静だった。


「何を慌てる必要がある。敵は1人、数の上では我々が圧倒的に有利だ」

「それならいいが、君も今のプレッシャーを感じただろう。油断は禁物だ。万が一に備えてお前は人質の所へ行け」

「……分かった。だが、何かあれば私が出よう」

「もちろんそうしてもらうさ。今の僕にまともな戦闘は出来ないからね」


 そうしてゼニスは地下室の奥、サヤの囚われている一室へと向かった。


 その直後、再度外から轟音が響き広い地下室の天井が音を立てて崩壊し始めた。


 ドドドドッ!!


「何っ!」


 天井が崩落し、そこには地上へと繋がる大穴が出来上がる。そして、ノワールは空いた大穴に目を向けその上空に浮かぶ1人の影に気づく。


「あれは……っ!」


 そこには、純白に青のラインが入った制服をたなびかせ、上空に浮く勇者の姿があった。


 場面は変わり遠く西の国、神竜国ドラグリア


 その国でも最も大きい建物の中、玉座に座る人物とその傍らに佇む1人の男が遠くを眺めるように話していた。


「彼らは大丈夫でしょうか」

「心配は要らんだろう。我々と違って人間の寿命は短い。その分、少ない年月でもあいつらにとっては貴重な時間になったはずだ」

「なら、我々はここで吉報を待ちましょう」

「あぁ、あと俺達にできることはそれぐらいだ」


 そう呟くと、当代のは手元にあるお茶をひと口飲み、息を吐いた。


 再度場面は戻り、革命軍アジト。開けられた大穴の上を浮かぶ少年は眼下を見下ろしながら周囲一帯の気を探り目的の人物が囚われているであろう部屋を探す。


「……もう少し待っててくれサヤ。今助ける」

「まさか1人で乗り込んでくるとは思いませんでしたよ。シン・ドラグリア!」


 アジトを襲撃した人物を知りより一層警戒を強めるノワール。

 そんな事にも気づかずに、若き勇者はその他大勢の構成員を眺め左腰に指した聖剣を抜き、振りかざす。


「さぁ、作戦開始だ」



 ▽▲▽▲▽▲▽▲


 シンが1人で先行してから数分後、目的地である革命軍のアジトの方向から轟音が響いてきた。


「シンの奴、もう始めたのか」

「俺たちも急ぐぞレオ」


 アレクの言葉に頷き、俺は後ろにいる軍の小隊の人達共に先へと急ぐ。


 今回の作戦は俺とアレクとシンの配置された小隊を本隊とし、四方から敵のアジトを囲み同時に突入する物だ。

 しかし地上に敵が見られないことから全員アジト内部に居ると予想し作戦を1部変更、敵アジトに大穴を開け、そこから合流した全部隊で一気に攻め込み制圧する手筈となった。


 現状はその為に先行したシンが大穴を開けるどころか1人で戦闘を始めかねないため、俺たちもすぐに現場へ向かおうと言う状況だ。


 その道中俺達の小隊を率いるダンさんが走りながらここまで来るまでにも抱いていたであろう疑問を聞いてくる。


「それにしても、君達この短期間でどんな修行をしてきたらここまで大幅に強くなれるんだ」

「それを話すとなると少し時間が欲しいんでこの場ではざっくりとした物になりますけどそれでもいいですか?」

「嗚呼、構わん。聞かせてくれ」


 そうして俺はこの数日間の間に起こったことをざっくりとダンさんに話し始めた。



 ▽▲▽▲▽▲▽▲


 今から遡ること5日前。西の大森林を抜け上空にドラゴンを見た俺たちは、それを追うようにしてその先へと進んだ。

 結果的にはその先に神竜国は存在していたのだが、文献で乗っている情報や予想していたものと比べてその大きさは遥かに小さく、ルステリア王国と比較してもその国面積は半分程度しか存在しなかった。


 そして、何よりも目に付いたのはその国のあるだった。


 俺達が森を抜けるとそこは断崖絶壁の崖の上、神竜国はその下にまるで森の一部をくり貫いたかのように繁栄していた。


「そりゃあ見つからない訳だ。空を飛べる魔法でも使えない限り地上から見てもまさか自分達より下に国があるとは思いもしないからな」


 これはメルト先生の言葉だ。


「どうやらさっきのドラゴンはあの1番大きな建物に降りたみたいですね」

「あそこが恐らくこの国の長がいる場所だろう。俺達も早速中に入るぞ」


 先生の指示の元俺たちは崖を降り国の門の前まで向かう。すると、俺達が門の前に到着すると同時にその門は大きな音を立てて開かれた。


「これは……」

「入れ、という事だろうか」

「罠の可能性もあるんじゃないか?」

「……行こう」


 俺とアレク、ガゼル君が話していると意外にも残された1人、シンが声を出した。


「あっ、おいシン! ちょっと待てよ!」


 先頭を歩くシンの足取りは速く、初めて来たはずのこの国を勝手知ったるような速さで進んでいく。


「シンはここに来たことがあるのか?」


 俺がそう問いかければシンはそれを否定する。


「いや、無いよ。……けど、何でだろう。不思議と懐かしい感じがするんだ」

「正体不明の懐かしさか、これは何か繋がりがありそうだな」

「アレクの言う通りだな。シン君、何か気になる事があれば直ぐに言ってくれ。その情報が何かの役に立つかもしれない」

「分かりました」


 そのまま俺達はシンの後に続き1番大きな建物、竜皇殿へとやってきた。


「止まれ! 見慣れない服装だな。貴様ら人間か? ここへ何をしに来た」


 俺達に槍を向けそう問いかけるのは眼孔が鋭くダリス並の体躯をした2人の男だ。


「我々は西の国ウィルバート王国から来た者です。神竜国には修行をしに来ました。願わくばこの国の長に国の1部と知恵を貸していただきたい」

「ほう、何故貴様らは力を求める」

「話せば長いのですが、先日ウィルバート王国にある魔法学院が近頃増え始めている逆賊に襲撃されました。何とか追い返したのは言いものの学院側は甚大なるダメージを負い1人の生徒が連れ去られると言う結果になり生徒を奪還するにも力をつけなければいけないと思ったからです」

「修行をするならば自らの国ですればいいだろう。何故この国を頼る」

「それは……」


 ここまで何とか相手を説得しようと話していた先生の口が止まる。


 さすがにここまで問い詰められたら通して貰うのは厳しいか……


 アレクとガゼル君を見ても俺と同じ考えに至ったのか苦しい表情をしていた。だが、ただ一人、シンだけは先程から表情を変えず、何も心配する必要はないと言った目でひたすらに門番のいる先、竜皇殿を見ていた。


 その時だ、シンの見つめる竜皇殿の扉が開き、中から長身の男が出てくる。そして、男を視界に捉えた瞬間に門番の二人は跪く。数秒後、遅れて俺達も同じように地面に片膝を付き頭を下げていた。


 何だ、このプレッシャー。肌にビリビリ突き刺さるような今までに感じたことの無い圧倒的な威圧感……


 近くで見ると男と言うよりも青年の方が正しいだろうか、門番の二人ほどの体躯は持たないものの身長は高くその若々しい見た目からは想像も出来ないほどの重圧を目の前に立つ赤髪の青年は放っていた。


 彼はそのまま俺達の方へと近づくと、はっきりとした声で門番へと告げる。


「二人とも、彼らを通して構いませんよ」

「ははっ! ですがグレン様、こやつらは人族です。何をしかけてくるか分かりません。本当によろしいのですか?」


 グレンと呼ばれた青年は門番の言葉に頷き、再度話し始める。


「問題ありません。彼らはそんな事をする様な人達では無い。それに、万が一何かあったとしても、今の彼らでは私にすら勝つことは不可能です」


 その発言と同時に彼は1秒にも満たない僅かな時間の間、俺達5人へと殺気を飛ばした。その殺気を当てられた俺達は瞬時に目の前の男には束でかかっても勝てないということを理解させられる。


 レベルが違いすぎる、この人と俺達との間には隔絶された圧倒的な実力の差がある!


「と、まぁ冗談と脅しはこの辺りにして。皆さん顔を上げてください。この国の長、竜王がお待ちです」


 俺達は未だ震えそうになる体を抑えつつ。グレンさんの言葉に従い頭を上げ、立ち上がる。先の一瞬とは違いグレンさんの言葉には重圧や殺気という物は込められておらず心から俺達を歓迎しているのがその表情や態度から見て取れた。


「それと、君には色々と話も聞きたいですからね」


 そう言ったグレンさんが見たのは俺の後ろに立つシンだった。


 やっぱりシンには神竜国と何か関係があるのか?


「あなたは、俺の事を何か知っているんですか?」

「いえ、私はあなたの事に関しては一切知っていることはありません。ただし、竜王はあなたに関係する事を知っているとだけ言っておきましょう。王子」

「っ!」

「何!?」


 シ、シンが……王子ィィィッ!?


「お、俺が王子? 何かの間違いじゃ……」

「あ〜、やっぱり衝撃が強すぎたかな? それについても詳しくは中で話しますから、さぁ行きましょう」


 そう言うとグレンさんは最後に大きな爆弾を投下しつつ扉の方へと歩き始めてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る