第5章 神竜国ドラグリア編 八十話 西の大森林攻略戦


 セイクリッド学院を出発してから2日地図の西端の平地を俺達は馬車で進んでいた。


「お前ら、見えてきたぞ」


 馬車の窓から外を眺めていたメルト先生の声に反応して俺達も窓から外に目をやる。


「おぉ、あれが……」


 その先に見えたのは遠くからでも視界全体に広がるほど巨大な森。通称、西の大森林だ。


「大きいのは地図を見れば分かるけど、実際に目にするとテンション上がるな」

「あまりはしゃぎ過ぎるなよレオ。今市場に出回っている世界地図はここで途切れている。と言うことはだ、この先は正真正銘の未知の世界。人の手が加えられているかも分からないんだぞ。その危険性はこれまでよりも遥かに高い」

「それは何度も聞いたから分かってるって」


 ここまで来る間にアレクには何度も同じことを言われている。さすがの俺もそこまで注意喚起されて意識しないなんてことは無い。


「おい、シン。そろそろ着くみたいだぞ」

「……っ、あぁ、わかった」


 道中気づいてはいたけどシンのテンションは目に見えて低いな。今までシンと話してきた感じだとこう言うのは好きなイメージだけどそれだけサヤさんの事が気になるんだろう。


(まぁ、こればっかりは仕方ないか)


 その後移動すること数分、馬車は緩やかにスピードを落としつつその動きを止めた。


「よし、ここで降りるぞ。この先は馬車では進めないからな」


 俺達は先生の指示に従い荷物をまとめて馬車を降りる。西の大森林はもう目の前だ。


「さてと、本番はここからだな。俺が軍の部隊で入ったのはもう4年近く前だが、その時も入ってから抜け出すのにまるまる4日かかったからな」

「その時中はどんな状態だったんですか?」

「文字通り未開の地だよ。基本生息してるのが中型以上の魔物や生物が多いから人が通る分には問題なかったがおよそ人の手が加えられてるとは思えなかったな」

「なるほど、となると中はかなり入り組んでいそうですね。やはりプランBが良さそうだ」

「だな、それが1番手っ取り早い。レオ、頼んだぞ」

「はい」


 そうして俺達は眼前に迫る魔の大森林へと歩を進めた。西の大森林攻略戦の開始スタートだ!


 ▽▲▽▲▽▲▽▲


 俺達が今回の大森林突破の為に考えた作戦は2つ。


 1つは森の構造が複雑ではないことを想定したひたすら歩き地道に抜ける道を探すプランA

 そして今回使うプランBは森の構造が複雑な事を想定した俺の空間魔法をフルで使って無理やり抜けるゴリ押し戦法。

 今回採用されたのはプランBのゴリ押し戦法、名付けて「西の大森林攻略戦」だ。ちなみにこの名前はプランAの場合でも変わらないらしい。


 ようやく森へと到着した俺達は直ぐに作戦には移らずその場でしばらく待機している。その理由というのも俺が森全体の大きさをある程度把握するためだ。


「それじゃあ少し見てきます」


 そう言って空へ飛んだ俺は遥か上空からその下に広がる大森林を見下ろす。


(この高さから見下ろしても全体を見れないって事は広さは少なくとも王国と同じか少し大きいぐらいか。なかなかキツイな)


「よっと」

「どうだった、レオ」

「広さは少なくとも王国と同じぐらいですね。この大きさとなるとかなり魔力を使うと思うけど何とかいけそうです」

「それならまずは一安心だな。ここに時間をかけるのもなるべく避けたい。それじゃあこの場は任せるぞ、魔力が足りないようならポーションを出すから言ってくれ」

「わかりました」

 

 そして俺達5人は大森林の中へと入り、その先頭で俺は白夜に魔力を貯める。


(普段は範囲を限定してるけどこの広さならその必要も無さそうだな)


 白夜に十分な魔力が溜まったことを確認し、俺は全力全開、最大火力の魔法を放つ。

 

「『次元斬り』」


 俺が正面に向けて白夜を振り切ると視界の端にそびえ立つ木々が次々と薙ぎ払われていく。数分も経てば辺り一面の見通しが良くなり視界は開ける。


「これで約数十キロは開けたか」

「はぁ、はぁ、キロって言うのはわかんないけど、学院から王都の門ぐらいの距離は開けたと思うよ」


 けど、それでもまだ足りない。この森を抜けるには最低でもこれを後10回以上のはやらなくてはいけない。


「レオ、今のは後何発いける」

「今と同じクオリティの物となると後5、6発ですかね

。少し狭くなってもいいのなら9発ぐらいは」

「分かった、今この場にあるポーション全て使う勢いで構わない。どんどん行こう」


(うへぇ、これ結構神経使うんだけどな。この調子だと休む暇は無さそうだ……)


「万が一足りそうにないなら王都まで戻って持ってくればいい。それよりも問題は切り倒した後の木だが……それは後で考えればいいな」

「はぁ、了解です」


 本当にこの方法が最適解なのだろうか。いや、ここでそれを考えるのはやめよう。今は目の前の事に集中だ。


 その後約1時間に渡りそびえ立つ木々を切り続けた俺は、持ち合わせの最後の魔力ポーションを飲んだところでその役目を終えた。


「や、やっと、終わった……」

「ご苦労だったなレオ」

「しかし、間近で見ると飛んでもねぇな。アストレアの生徒は毎日こんなのを見てるのか?」

「毎日と言うわけでは無いが実技の時はなんだかんだ毎回見ているな」

「マジかよ……」


 疲労困憊の俺を他所にアレクとガゼル君が話しているとそこにメルト先生が割って入る。


「お前達、ゆっくりしてる暇はないぞ。まだこの先に国があるとも限らないんだ」


 いいや、国は必ずある。と言うかそう願っていないとこの1時間の俺の苦労は何だったのかって感じだし。


「皆、行こう」


 そう言ったのはここまで極力言葉を発して来なかったシンだ。


 そして、シンに続き森の出口まで向かおうとしていた時だった。俺達の立つ場所が突如影に覆われる。


「何だ? いきなり暗くなったぞ」

「これは一体……」


 アレクとメルト先生が呟く中、空を見上げる俺の目には驚くべき光景が映り込んでいた。


「お、おいアレク。あれ見ろよ……」

「空? 空に一体何が……っ!」


 俺とアレクのやり取りに気づいたのか他の3人も同時に上空へと顔を上げ目を見開く。俺達の視線の先に映ったのは正しく希望の象徴だった。


「あれって、まさか…………ドラゴン!?」


 そう、俺たちの視界に映ったのは真紅の翼を翻し、よくいる同種とは隔絶した体躯で大空を突き進む竜の姿だった。

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