第5章 神竜国ドラグリア編 七十九話 神竜国への出立
「どういう事ですか、学長。シンの家名と同じ名前の国……それも、神竜国って言ったら歴史書でも稀に書かれる伝説の国じゃないですか」
ベルメール君の言う通りだ。書かれ方はいくつかあるが、俺も神竜国については絵本や歴史書で目にした事がある。確かそこでは竜と人が共存している神竜の国だったっけ……
「シルバ学長は神竜国について何か知っているんですか?」
ベルメール君の後に続き、俺は目の前に居るシルバ学長へ疑問を投げかける。
「いや、私も詳しい事は知らない。だが、シンが入学して来る時に名前を目にして昔読んだ文献にそんな国の名前があったと思い出してな。それで少し調べてみたんだ」
「それで、シンとの関係に着いて何か分かった事はあったんですか?」
「いや、結果的にシンと神竜国の繋がりは掴めなかった。それ以降、私もただの偶然と思い気にもしてなかったが、今回の襲撃がシンを狙っての物だとするならば何か関係はありそうだ」
「――なら、なんでサヤが攫われたんですか」
その時、学長の衝撃の告白から暫く、沈黙を貫いていたシンが声を出した。
「敵は、なんで俺じゃなくてサヤを、意識の無い俺なら捉えるのだって簡単なはすなのにっ……」
「それに関しては僕に心当たりがあります。と言っても、これは仮説に過ぎないですが……恐らく敵はシンを恐れたんじゃないですか?」
顎に手をやり少し考えたようにベルメール君が言った。
「恐れ、た……。瀕死の俺を?」
「はい、敵もダメージは少なく無かった。襲撃時と比べ帰還する時にはその半分以上の数を減らされています。残った人員も傷が深くまともに戦えるリーダーでさえもシンとの戦闘でかなり消耗している。そんな状態で、意識が無いとは言えシンを連れていけば道中目を覚ました場合やられる危険性もある。そう敵は考えたんじゃないですかね? それならば大人しく着いてくるサヤさんを連れ去ったのも納得できる」
つまり、サヤさんはシンをおびき寄せる為の囮として人質に取られたってわけか。
「――なんで、サヤは着いて言ったんだ」
「そりゃ、お前を心配したからに決まってんだろ。俺には難しい事は分からんが、あいつはお前の為なら自分を犠牲にしても構わないって言う人間だ。それはお前が1番よく知ってるんじゃないか?」
「ガゼルの言う通りです。これも想像でしかないですが敵に瀕死のシンにこれ以上手を出さないと言った条件を出されたんでしょう」
「じゃあ、全部俺のせいなのか……。サヤが連れ去られたのも学院の皆が怪我をしたのも全部……」
「それは違うぞ、シン」
それまで3人の会話にあえて口を挟んで来なかったが、自分を追い詰め、今この現状全てが自分の責任だと思い込み始めたシンへそう俺は声をかける。
「今回の襲撃はお前の責任なんかじゃない。悪いのは全部襲ってきたあいつらの方だ。その証拠に、お前が敵のリーダーを抑えてなければ被害はもっと出たはずだ」
俺も、つい最近似たような目にあっているからよく分かる。奴らの標的の中に俺も入っていてその性で少なく無い被害が出た。そして結果的に、俺はこの手で友人を手にかけている。その事に責任を感じなかった訳が無い。
けど、あそこで俺が迷っていたら、あれよりもっと着くのが遅ければ、被害はさらに酷く、友人だけでなく大切な人まで失っていたかもしれない。
「お前にとって、この結果は最悪の結果かもしれない。それでも、お前のおかげで助かった人たちも少なからず居るってことだけは忘れるな」
今のシンの状況はブリッツと戦う前の俺とよく似ている。大切な人の危機、それだけじゃなくこの時点で責任を感じていることを考えれば俺の時よりも酷いかもしれない。
「俺もつい最近似たことがあった。自分のせいで大切な人が危険な目にあっている。そんな状況ですぐにでも助けに行きたい気持ちはよく分かる。でも、俺の時と違って今のお前には少なからず時間がある。なら、その時間を有効的に使うべきだ」
「レオ……」
「彼の言う通りだ。なんで自分は負けたのか、それを理解した上で今回の敗北を次への糧としろ。そして、今よりさらに強くなれ、シン」
「学長……分かりました」
そうして一瞬の間シンは顔を俯かせた。その顔が再度上がった時、その目は同一人物とは思えない程に数秒前のシンとは打って変わっていた。
この調子ならもう大丈夫そうだな。
「それで学長、その国はどこに? 可能性としてはシンの生まれ故郷が高そうですが」
「いや、俺の故郷はありえないよ。ドラグリアって家名は家だけだし竜だって見たことが無い」
「それなんだが、私の調べによれば多くの文献に残されている場所と今の場所は違うみたいだ。なんでも、古の対戦後に竜の強大な力を恐れた我々人間を含まぬ他種族が手を組んで襲ったようでな。その戦闘で竜の国は滅び今は当時まだ幼かった竜王の子が何とか逃げ延び、辿り着いた先で再度国を起こしそこが神竜国となっている」
「なるほど、問題はそれがどこにあるかですね」
シンの故郷が違うとなると手がかりが無い。いくら時間があると言っても場所の分からない国を1から見つけている暇はないぞ。
「学長は何か知らないんですか?」
「場所については心配するな、心当たりが無いわけじゃない」
そう前置くと学長は淡々とその場所を話し始めた。
「ここから西へ馬車で5日ほど進んだ所に大森林がある。そこに住む魔物は強力な個体ばかりで普段は近づくものは居ないが、その上空を飛ぶ竜の影を見たという目撃情報がギルドへ入っている。大森林を超えた先は未知の世界だ、可能性があるとすれば恐らくそこだけだろう」
大森林の先の未知の世界、そんな所があるのか。
「ちなみにその森の広さはどれぐらいなんですか? 場合によっては森を抜けるのにもかなり時間がかかりそうですけど」
「そうだな、私も話の中でしか聞いたことが無い故あてになるかは分からないが、一説には1つの国と対して変わらないと聞いたことがある。森に生える木の高さも人の3倍程度はあるらしい」
「それは、正しく大森林ですね。ですが、そうなると森を超えるのにも数日はかかりそうだ」
「となると、やっぱり神竜国に修行に行くのはキツいんじゃねぇか? 往復で10日、それに森を抜ける時間と修行の時間も合わせるとなるとさすがに敵も待ってはくれねぇだろ」
確かに、常人ならばここから神竜国までの往復だけで10日以上はかかる。森だって入り組んだ構造をしていればそれこそ戻るのも困難だ。
けど、その辺は俺の魔法を使えば何とかなるかもしれない。シルバ学長に声をかけた時に一緒に来るか誘われたのはこうなることを見越しての事だったのか。
「移動時間の事なら心配ないよ。俺の魔法で何とか出来ると思うから」
「と言う訳だ。移動についてはレオナルド君の力を貸してもらおう」
「なるほど、そういう事でしたらお言葉に甘えましょう。それで学長、メンバーはどうしますか?」
「そうだな、ここの守りを手薄にする訳にもいかんだろう。いきなり大人数で押しかけて気を悪くさせてしまうのも悪い。それを踏まえると人数は少数としてそのメンバーだが……さてどうしたものか」
少数であれば多くとも5人程度。その内シンと移動手段の俺は確定として残りの枠はどうするかって感じだな。
「あの、シルバ学長。1つお願いしたいことがあるのですが……」
「嗚呼、なんでも言ってくれ。レオナルド君にはこれから世話になるんだ私にできることならできる限り何でもしよう」
「神竜国での修行にアレクも連れていきたいんです。俺達は今回の追跡班で追跡兼戦闘員として部隊に入っていた。作戦が多少変わったとしても部隊の構成自体が変わらないのなら俺たち2人はそのまま部隊に入ることになります。少しでも強くなれるならなっておきたいんです。と言っても、アレクの返事次第ですが」
「分かった。それならば引率としてメルト先生にも同行してもらおう。もしかしたら彼なら軍事代に西の大森林に行ったことがあるかもしれない」
そんなこんなで神竜国へ向かうメンバーは決まり結果、セイクリッドからはシンとガゼル君、アストレアからは俺とアレクと引率としてメルト先生が同行する事になった。
▽▲▽▲▽▲▽▲
数時間後、俺達は最低限必要な物と数日分の食料を持ちセイクリッド学院の門の前へと集まっていた。
「それじゃあメルト先生、2人をお願いします」
「はい、と言っても彼らのレベルなら西の大森林であれば何とか生き延びれると思いますよ。暫く見ないうちに対抗戦の時よりも遥かに強くなっているみたいだ」
「それでも、今回の襲撃でシンは敗北した。と言うことは何か足りない部分があったんだろう。今回の修行でそれを見つけられることをここから願っているよ。それに……」
「まだ、受け入れてもらえるかも分からないですしね。最悪の場合竜の目撃情報があったと言うだけで大森林の先に国なんて無いかもしれない」
「嗚呼、だがこればかりは少ない可能性にかけるしかない」
「そうですね……それじゃあ、そろそろ出発します」
「分かった、後のことは任せてくれ。何かあったとしても学院の中にいる限りそちらの生徒さんは何としてでも守ってみせる」
「お願いします。お前ら、出発するぞ!」
シルバ学長との話が終わったのかメルト先生が馬車の方に集まっている俺達に声を掛ける。
「それじゃあアリシア、行ってくる」
「はい、お気を付けて。怪我をして帰ってきたら許しませんからね!」
「ははっ、善処するよ……」
「もう、すぐそうやってはぐらかして……頑張って来てくださいね」
「うん、ありがとう」
俺はアリシアにしばしの別れを告げ、皆の乗る馬車へと乗り込む。
メルト先生によればここから大森林まで急げば4日程度で着いてしまうらしい。予想よりも早く着くのは有難いことだ。
それに俺の魔法も合わせればその半分程度の時間で恐らく着いてしまうだろう。
神竜の国、か……一体どんな所何だろう。
そんな期待を秘めつつ、目的地に竜の国があることを願って俺達の乗る馬車は遥か西へと走り始めた。
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