第2章 四大魔法学院対抗戦 後編 三十四話 ソルヴァレスVSセイクリッド①


 ――セイクリッド学院陣地――


「それじゃあみんな、行ってくる。守備の方は任せたよ」


 シンは守備の3人に声をかける。


「はい、2人もなるべく早く相手の魔力結晶を壊してくださいね」


 シンの言葉にベルメールが答える。


「あぁ、頑張ってみるよ」


「あんまりサヤちゃんに迷惑かけるなよ」


 そう言ったのは青髪のガタイのいい青年だ。


「ガゼル、それは手遅れ。既に迷惑しかかけられてないから」


「あっはは、あんまり迷惑かけてるつもりは無いんだけどな……」


「シン、そろそろ行こう」


「そうだね。それじゃあみんな、改めて行ってくる」


 そしてシンとサヤは自陣地から真っ直ぐに森を進んで行った。



 □■□■□■



 試合開始から数分が経ち、サクラは木の上からセイクリッド側の陣地を視界に捉えていた。


「はぁはぁ、やっと追いついた……」


 少し遅れて、息を切らしたシロウもサクラの登る木の下に到着する。


「随分と遅かったなぁ、シロウ。相手陣地はすぐそこに見えてるよ」


「サクラさんが早過ぎるんですよ……守りは何人ですか?」


「うーん、見た感じだと3人みたいやね」


 サクラは物足りないと言ったように気分を落とし木から降りてくる。


「相手が3人ならカエデさん達が来る前に無力化は出来そうですね」


「そうやね。魔力結晶も壊してしまいたいけど、1戦目の硬さを見ると2人じゃ厳しいやろし……どうしよか?」


「はぁ、そんな事だろうとは思ってましたよ。とりあえずいつも通り俺がサポートするのでサクラさんは攻めてください」


 シロウが素早く簡単な作戦を立てる。これがソルヴァレスの基本スタイルのようだ。


「ま、普段となんも変わらずにってことやね〜それじゃあ早速行くで」


 そうしてサクラは走り出し森の茂みから抜けベルメール達の前に姿を表す。


「来ましたね」


「作戦通りやるぞ!」


「「はい!」」


 ガゼルの言葉に他の2人が返事をする。


 一方のサクラは減速することなく刀を抜き刀身に魔力を込めた。


「行くでぇ、『業火の太刀・紅』!」


 サクラの握る刀は刀身に真紅の炎を纏い、1番近くにいたガゼルを目にも止まらぬ速さで切りつける。


「『氷壁アイス・ウォール』!」


 咄嗟にガゼルは簡単な魔法で壁を作りサクラの攻撃を一瞬止めた間に後ろへ下がった。


「へぇ、見かけによらず俊敏で賢いんやね」


「全く、いきなりそんな怖いもん持って切りつけてくるなんてな。とんだお転婆お嬢ちゃんだ」


「あら、嫌やわぁ〜お嬢ちゃんだなんて。そんな褒めても何も出んよぉ〜」


「けっ、褒めちゃいねぇんだけどな!」


 皮肉めいた言葉をあっさり躱されたガゼルは氷の槍を作り出しサクラ目掛けて放つ。だが……


「『雲雀流剣術・攻式二の型 月影』!」


 ガゼルのその攻撃はサクラの後方から出てきたシロウの魔法により全て


「な! 闇魔法か……」


 シロウの使った闇魔法にガゼルは少し動揺するがすぐに気持ちを立て直す。だが、その一瞬の隙すらもサクラには決定的な攻撃のチャンスである。


「でかしたでシロウ、今度お姉さんがジュース1本奢ったる!」


 そんな事を言いながらサクラはガゼルに接近し、攻撃を繰り出す。


「『業火の太刀・紅蓮』!」


 燃え盛る炎刀が下からガゼルに襲いかかる。


(これは……まずい、やられる!)


 ガゼルは何とか防ごうとするがやはり間に合わない。絶対絶命、そう思った時だった。


「『氷壁アイス・ウォール』!」


「『水流防壁アクア・ウォール』!」


 ガゼルの後ろに居たベルメールともう1人の生徒、ザパンが直撃寸前で壁を作り出していた。


「間一髪でしたね、ガゼル」


「あぁ、終わったかと思ったぜ……」


 ガゼルは額を流れる冷や汗を拭い体制を立て直した。


「後ろの2人がいると面倒やねぇ、シロウ」


「はぁ、わかりましたよ……後ろの2人は俺が相手します」


「さっすがシロウ、ありがとなぁ〜」


 サクラはご機嫌な様子で前へ出る。


「それじゃあ、再開しよかっ!」


 サクラは地を蹴り前へ進む。

 急接近するサクラに対してベルメールとザパンが魔法で迎え撃つがシロウがそれを食い止める。


「『雲雀流剣術・攻式三の型 夜桜』!」


 シロウが剣を振るうとそれに従うように花弁代の大きさの闇魔法がベルメールとザパンの魔法を打ち消し、攻撃する。


「クッ! 」


 2人はシロウの放った魔法を避けようとするがその攻撃はまるで2人を追うように迫り続ける。

 

「逃げても無駄だよ。この魔法は魔力を感知して追尾する」


 それでも2人は何とか逃げ続けていた。だがそれも全てシロウの思惑通りである。


 攻撃を避け続ける2人はそれぞれ反対方向に魔力結晶から遠ざかっていたのだ。


「サクラさん、道は作りましたよ」


「上出来や、シロウ」


 サクラは開けた道を真っ直ぐに進み、魔力結晶の前に立つガゼルに向かって刀を構える。


「『奥義 神降ろし・火之迦具土神』!」


 サクラが詠唱するとその体は赤く輝き、炎の様に鮮やかに揺らめく衣を身体に纏った。


「行くで、『神火の太刀・天火紅焔てんかこうえん』!」


 ガゼルは悟った。この攻撃は防ぎきれないと、ならば自分のやるべき事はただ1つ。この魔力結晶に少しでもダメージを通さないことだと。


「うぉぉぉぉ! 現れろ、堅牢な壁よ! 『氷の城壁アイス・フォートレス』!」


 詠唱が終わるとガゼルの眼前に氷の壁が次々と現れ猛スピードで繋がっていき、あっという間に頑丈な氷の城壁がつくりだされた。


「うぉぉぉぉぉ!」


 ガゼルは吠える。何としてもこの魔力結晶を守ろうと、自分が少しでも時間を稼げば必ずシン達が相手の魔力結晶を破壊してくれると信じて。


 そして、2人の魔法が衝突した時、大きな轟音と共にガゼルの作り出した氷の城壁は崩れ去った。


「天晴れや、まさかうちの最強の技が防がれるなんて思いもよらんかった」


 サクラはガゼルに賞賛の声を送るが、本人の意識は既に無く聞こえていない。


 どうやらサクラの魔法と自分の魔法の衝突による衝撃波を1番近い場所で食らい気を失ったようだ。



「さて、奥の手使っても破壊しきれんかったし。この石どうしましょ?」


 サクラの眼前にはガゼルの魔法で防がれた事により破壊を免れた魔力結晶が存在していた。


(奥義を使った後は反動でしばらく休まんとまともな魔法が使えんし、そんなもんでこれが破壊できるとも思わんしなぁ……)


 サクラはいい策が思いつかず、シロウの状況を確認する。


「あっちはまだ戦ってるみたいやなぁ、シロウの手も借りれんとなるとほんまにどうしようもないんやない?」


 サクラが珍しく頭を使って考えていると横から聞きなれた声が聞こえてきた。


「あらあら、凄い音がして急いでみれば。敵さんはもうおらんの?」


 サクラが声のした方を見るとそこには先程この場所に到着したであろうカエデとユキノがいた。


「あ、ちょうどいい所に来たなぁ。2人のためにこの石とっといたんよ」


「そんなこと言って、本当は自分で壊しきれなかっただけやないの?」


 カエデの返答にサクラは明らかに動揺したように返す。


「そ、そんなことあらへんよ? 今相手の子ぉ一人倒したてしまったから2人にはこっちを残しておいたあげたんよ。サクラちゃんのや・さ・し・さ やで?」


「はぁ……まぁ、そういう事にしておきます。……カエデさん」


「そうやねぇ、むこうでシロウが2人相手にしてるみたいやから、ユキノはそっち手伝いに行ってくれる?」


「わかりました。カエデさんは1人でこれを? 流石にこの魔力結晶の硬さは1人では厳しいと思いますが……」


 ユキノは率直に思ったことを口にする。


「任せといて、サクラちゃんが少し削ってくれたみたいやし何とかしてみる。あ、でもそっちが終わっても壊せてなかったら手伝ってな?」


 そう言ってカエデは舌をだし両手を合わせてユキノに言った。


「まぁ、カエデさんがそう言うなら大丈夫だとは思いますが……わかりました。それではこっちは任せます」


「うん、そっちも2人なら大丈夫やと思うけど気ぃつけてな?」


 カエデの言葉にユキノは頷き、シロウが戦闘している場所まで走って行った。


「さてと、こっちもやりましょか。サクラちゃんも少しでも魔力回復したら手伝ってな?」


「うっ……き、気づいてたん? カエデ」


 サクラの返答にカエデは「当然やろ?」と面白そうに笑い答えた。


 そしてカエデは魔力結晶へと向き直り、2対の扇を構え詠唱をする。


「『奥義 神降ろし・須佐之男』!」

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