第2章 四大魔法学院対抗戦 後編 三十五話 勇者VS剣聖
――時は数分遡り、サクラ達が戦闘を始めるのと同時刻。シンとサヤはソルヴァレス学院の陣地まで赴いていた。
「シン、あれ……」
「あぁ、どうやら着いたみたいだね」
森を進むこと数分、2人はソルヴァレス学院の陣地に到着した。
ソルヴァレス学院の陣地は森の中の開けた場所にあり、その中央に魔力結晶とそれを守っているであろう青年がいた。
「ん……来たか」
青年はシン達の気配に気づき立ち上がる。
その風貌は紺と灰色の着物に茜色の羽織を着ており、切れ長の目をしている。
「あれ、守備は君だけかい? 『剣聖』キョウヤ・カンザキ」
「あぁ、1戦目の魔力結晶の硬さを見る限り4人で当たった方が効率がいいとカエデが言っていたのでな。俺が行っても良かったのだが、お前が出てきたなら残って正解だったようだ」
「と言うと?」
シンはキョウヤの言動に疑問を持ち問いかける。
「何、いくらあいつらが強いとは言え貴様と戦えば負けるリスクもの方が高いと言うまでだ」
「その言い方だと、貴方ならシンを倒せるように聞こえる」
「そう思っていたのだが、2対1となるとそう簡単でも無さそうだ。と思い始めている」
サヤの言葉に冷静に答えるキョウヤ。
「まぁ、何はともあれ1戦目は全力を出せなかったからね。ここで楽しもうじゃないか」
「ふっ、いいだろう。俺もお前とは1度全力でたたかってみたかったんだ。聖剣に選ばれた『勇者』の力試させてもらう!」
そうして2人は自身の愛剣を構える。
「……? もう一本は抜かなくていいのかい?」
「あぁ、こいつを抜くのは体が温まってからと決めているのでな」
キョウヤは右腰に刺したもう一本の刀を撫でる。
「なるほどね、兎にも角にも始めようじゃ……グハッ!」
シンが聖剣を構え戦闘を始めようとすると隣のサヤがシンの横腹を全力で殴った。
「シン、また暴走してる。今回の目的は魔力結晶を破壊すること、全力でやるのはまた今度にして?」
サヤはいつも通り暴走するシンを宥めた。
「あぁ、ごめんサヤ。うっかりしてたよ。そう言うことだから全力で戦うのはまた今度にしてもらえるかい?」
「まぁ、試合のルール上仕方の無いことだ気にするな。それに、俺が守っていれば自ずと剣を交える事にはなるだろう?」
「それもそうだね。それじゃあ改めて、行くよ!」
そう言ってシンは再度剣を構え直し大地を蹴る。
猛スピードでキョウヤに近づいたシンは聖剣 クラウソラスに魔力を溜め、渾身の一撃を放つ。
キョウヤはシンの攻撃を刀で受け止める。剣の重さではシンに分があるが、力ではキョウヤの方が上のようで、2人の鍔迫り合いは拮抗していた。
「やはり、なかなかやるな。これだけで貴様の実力が分かったぞ。その実力の底が知れないという事がな」
キョウヤはシンを押し返し再度刀を構え直す。
「その実力に敬意を表し、今出せる全力で相手をしよう」
キョウヤがそう言うと彼の身体は輝きを放ち、全身から黄色い
その時、シンは肌で感じた。キョウヤの魔力量が明らかに膨れ上がったことを……
「『奥義 神降ろし・武御雷』自身の身体能力を底上げし、使用者の雷魔法の威力を限界まで強化する。ソルヴァレス学院の最終奥義だ」
奥義 神降ろし。ソルヴァレス学院に代々伝わる身体強化の完全上位互換だ。その効果は10分間使用した者の身体能力、魔力を現在の限界値まで底上げし、使用者の使う魔法の威力までも最大限強化するという魔法だ。
しかし、この魔法の効果はそれだけではない。この魔法は1度解除するとその後数十分間反動で魔法が使えなくなってしまう諸刃の剣である。
「つまり、ドーピングって言うこと?」
キョウヤの説明を聞き、サヤはそう問う。
「まぁ、そんなところだ。それより、時間も無いからな。次はこちらから行くぞ!」
キョウヤは地面を蹴り走る。さっきのシンよりも遥かに早いスピードだ。
「ふっ!」
シンはギリギリまでキョウヤを引き付け攻撃するがキョウヤはそれを飛んで避ける。
(今のも避けられるとはね、とんでもない反応速度だ)
シンがそう思っていると、キョウヤは上空に飛んだ状態で刀を腰に構え魔法を放ってきた。
「『雷鳴斬』!」
その一撃は落雷の様に早く協力で重い。
シンは何とか攻撃を避けるがこの一撃を弾き返していたら恐らく大きな隙ができていただろう。
「シン、大丈夫?」
「あぁ、何とかね。サヤは大丈夫だった?」
「うん。少し距離があったから、平気」
そうしてサヤは片膝を着くシンを起き上がらせる。
それと同じタイミングで地面に着地したキョウヤが再度刀を構える。
次に攻撃を仕掛けたのはキョウヤだ。
「『雷轟斬』!」
キョウヤはその場で刀を上段に構える。そのまま刀を振り切るとそこから雷属性の付与された斬撃が2人目掛けて飛んでいく。
シンはサヤを庇うように前に立ち、飛来するキョウヤの魔法を迎え撃つため自身も聖剣に魔力を込める。
「『
2人の魔法がぶつかるとその衝撃波が周囲の木々を揺らした。
「これも止めるか、面白い!」
キョウヤはすぐさまシンとの距離を詰め切りかかる。
キョウヤの攻撃をシンは避け、自分も聖剣で反撃するがキョウヤもその攻撃を自身の刀で受け止める。
その後も2人の戦闘は数合の間続いた。キョウヤが切りかかればシンが避け、シンが切りかかればキョウヤもその攻撃をいなし反撃に蹴りを放つ。
そんな2人の戦闘を見ていてサヤは思った。
(2人の戦闘は既に学生域をを超えてる。私の入る隙間なんて無い……)
サヤは自分の力不足をはっきりと感じとり悔しさから唇を噛み締める。
そして、激しさを増していた2人の戦闘はキョウヤの一言で終わりを迎える。
「悪いがそろそろ限界だ、さすがの俺も魔法無しで貴様と渡り合えるとは思えん。この一撃で終わらせてもらう」
そう言ってキョウヤは右腰に刺した2本目の刀を抜く。
「そうだね、僕もそろそろ終わらせないと待ってる仲間が心配だ」
シンとキョウヤは同時に自身の剣を構え、身体に魔力を集める。正真正銘、次の一撃で終わらせるつもりだ。
「行くぞ」
「来い!」
2人は同時に踏み出す。
「『奥義 神降ろし・天照』『炎雷双牙』!」
雷を纏うキョウヤの背後に太陽の如き赤い円が出現しその身体を包み込む。そして、放たれた魔法は速く、鋭く、重い。雷と炎2本の牙の様な剣閃がシン目掛けて突き進む。
「『
シンのその一撃は雷を纏った巨大な光の斬撃だ。
その威力は凄まじく、地面を抉りながらキョウヤの繰り出した2本の剣閃に迫っていく。
2人の魔法がぶつかると小さな爆発が起こり今日1番の衝撃波が2人の周囲を揺らす。
(クッ! 衝撃波だけでもこの圧力。それに、煙が邪魔で何も見えない)
2人からある程度距離を話していたサヤは全身に力を込め何とか吹き飛ばされずに耐えていた。
そして、徐々に煙が晴れていく。
(どっちが、勝ったの……)
サヤが見守る中、煙が晴れたことにより煙で見えなかった場所がはっきりと目に映る。そこに現れた光景は仰向けに倒れるシンと刀で体を支え何とか立ち上がるキョウヤだった。
「シン!」
サヤは倒れたシンの元へかけよる。
「シン! 大丈夫?」
「サヤ……か、何とか大丈夫だったよ。かなりのダメージを食らっちゃったけどね」
そう言ってシンは楽しそうに笑う。
かろうじて意識が消えなかった事でシンの身体に与えられたダメージは幻想の箱庭の効果により徐々に消えていき、起き上がる程回復するのにさほど時間はかからなかった。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ、どこも怪我はしてないから」
「本当に? シンはいつも夢中になると無理をするから、心配……」
サヤは尚も不安な顔つきでシンを自分の膝に寝かせる。
「ありがとう。でも、本当に大丈夫だから。今回は事前にサヤが止めてくれたしね、無理はしてないよ」
「……それなら、良かった」
2人がしばらく話しているとその光景を見ていたキョウヤが声をかけてきた。
「見事だったぞ、シン・ドラグリア。ここまで楽しめたのは初めてだ」
そうしてキョウヤは手を差し伸べる。
シンも何も迷うことなくその手を取り起き上がる。
「僕も楽しかったよ。これで僕が負けたのは2人目だ」
「2回目? お前ほどの奴を倒せる者は軍の人間でも少ないと思うが……」
「違うよ、負けたのはつい最近。昨日の1戦目だ」
シンは昨日のレオとの戦闘を思い出したながらキョウヤに話す。
「なるほど、ならば俺たちが優勝すればそのレオと言うやつと戦えるかもしれんな。これは楽しみが増えた」
「そうだね、君と彼なら面白い勝負が見れそうだよ。とりあえず僕はもうクタクタだ、少しここで休ませてもらっていいかい?」
「あぁ、俺も奥義を2つも重ねがけしたからな。1時間はまともに戦えん」
そう言ってシンとキョウヤは地面に座り、先の戦闘について楽しそうに話していた。
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