第5章 神竜国ドラグリア編 九十二話 作戦会議
現在、俺達は一時的に演習場の控え室から移動し、校舎内の学院長室で今回の修行での出来事を学長に説明していた。
「なるほど。それで、そちらに居る御仁が話の中に出てきた神竜国の使者さんか?」
「はい。神竜国ドラグリア代表代理のグレンです。以後お見知りおきを」
グレンさんは自己紹介と共に礼儀正しく一礼し顔を上げる。
「これはまたとんでもない人が来てしまったようだな。それで、ここへ来たのには何か理由があるんですかな?」
「はい、これも何かの縁という事で竜王からは人族との交流を深めてこいと言われて来ています。我々としては今後も交流を続け良い関係を築いて行けたらという考えです」
「そんなもの、こちらからお願いしたいぐらいですよ」
「ふふっ、いいお返事が聞けて良かったです」
グレンさんの挨拶も一段落した所でメルト先生とアレクが順に学長へと出来事を話していく。
森をどう超えたか、実際の神竜国はどう言った所なのかどんな修行をしてきたのかと主に聞かれたのはその辺だ。と言っても、ガゼル君と先生は場所が変わっていないだけで基本いつもと同じで、アレクも修行出来ていないということから殆どは俺とシンの話になる。
「とりあえず、新しくできるようになった事は
「まぁ成長なんてそんな物だ。戦っているうちに慣れていくだろう」
「はい」
そうしてシンが報告し終えると学長は次に俺に話すよう促してきた。
「俺の方は、10年間過酷な自然の中で暮らしました。生きていくためには食料も全部自分で集めて生活していく。もちろん、自然の中には魔物もいます。敵意の無い魔物から強敵まで様々でした。そんなサバイバル空間の中で10年間生きてきました」
「なるほど、道理で出発前よりも顔付きが変わった訳だ。大変だっただろう」
「はい、けどキツかっただけじゃないですよ。友達も出来ましたし」
「友達?」
学長や周りにいるアレク達がいまいち納得出来ていない中レオは詠唱を開始する。
「『召喚』」
レオが詠唱を終えると目の前に魔法陣が現れその中からカラフルな小さい虎が姿を表す。
「紹介します、友達のガルです」
「ガルッ!」
「ほう、これは見たことの無い魔物だな」
「レオ、お前修行の間の中にいた魔物を使い魔にしたのか?」
「そうなんだよ、こいつには色々世話になってさ」
見たことの無い魔物を見て盛り上がる学長とアレク。一方グレンさんはと言えば何か考え込むように顎に手をやりガルの方をじっと見つめていた。
「どうかしたんですか、グレンさん」
「うーん……あっ、そうだ思い出しました。どこかで見たことがあると思ったら前にあっちの部屋の掃除をした時にじゃれてきた猫じゃないですか」
「ガルルル、ガウッ!」
グレンさんの存在に気が付くとガルは勢いよく飛びつき自慢の牙で噛み付こうとしたのだが……
「はははっ、そうそう前もこんな感じにじゃれついて来たんですよ。変わってないですね〜」
「ガウッ!」
「グレンさん、完全に遊んでるね」
「だな……。ガル、その辺にしとけって。グレンさんもあんまり虐めてやらないでください」
「私としては虐めている気は無いのですが……まぁそうですね、この場は猫ちゃんの主人であるレオ君に従っておきます。ですが、よく連れてこれましたね」
「? どう言う事ですか」
「さっきも言いましたが私もあっちの部屋には何度か掃除に入った事があります。なのでレオ君の入った部屋についてもある程度は知っているのですが、確かあそこは時間を設定した後に空間が変わっているはず。なのでてっきりあの空間にいる魔物達は連れ出せない物かと思っていたので」
なるほど、そう言うことか。
「正直あの部屋の仕組みについては10年生活してる間に忘れちゃってたんですよね。今グレンさんから話を聞いて設定した後の事を思い出したぐらいなのでその辺は深く考えて無かったな」
「お前、それであの部屋の世界が仮想空間だったらどうするんだ」
「その時はそもそも契約が出来なかったと思うよ。それと、あの部屋を作り出した竜と同じ空間属性の使い手として言わせてもらうと多分あの部屋は仮想空間と言うよりあの自然を修行の間に転移させてる感じだから大丈夫だったんだと思う」
「なるほどな、空間魔法を使えるお前にしか分からないと言うことか」
そう言うことだ。
「さて、レオ君の話は以上かな?」
「はい、俺から話せる内容はこれぐらいです」
「では別室にて皆を集め早急に会議を行おう」
「「「「はいっ!」」」」
学長の言葉で全員が移動を初め数分後、大人数が入れる会議室で軍上層部の人も交え人質奪還作戦の動きを確認した。
「作戦として陽動部隊が正面から突入、そこで引き付けている内に警戒の薄くなった箇所から攻め落とす、と言う作戦でいいですか?」
「えぇ、軍の方からは異論はありません」
「となると次は人員の配置ですが……その前に一つ。グレンさん、貴方は戦力の内に数えていいんですか?」
その場を仕切るメルト先生がグレンさんに問いただす。
「いいえ、名目上は人間の国と交友を深めるための使者としてここに来ていますが私の本来の目的はシン君の見張りです。私がこの件に関して協力することはありません。それに、私が出張ってしまえばせっかく彼等が修行した意味が無くなってしまう」
「なるほど、分かりました」
そう言うとメルト先生は再び人員の配置を指示し始めた。
「ウィルバート王国軍部隊は二手に別れ陽動部隊突入から時間を置いて東南と西からそれぞれ突入。ルステリア王国軍部隊も同様に二手に別れ一方は南から、残りは正面から陽動部隊として突入します」
「学生3人の配置はどうする? 噂で聞く限りでは軍の部隊に入れて連携させるよりも個々で動いて貰った方が助かると思うのだが」
そう提案したのはウィルバート王国軍部隊の隊長、ダイバーさんだ。
「いえ、いくら陽動と言っても恐らく正面からの突入に対応してくるのは大半の構成員でしょう。幹部が出てくる可能性は低いと思ういます。その場合3人には各部隊に入って敵幹部と遭遇した場合に相手をしてもらいたい」
「なるほど、確かに幹部と遭遇すれば我々1部隊で相手をしたとしてもどうなるか分からないな。了解した」
そうして順調に作戦会議は進んでいたのだがそこで今まで静観を貫いていたシンが口を開く。
「陽動は俺にやらせてください」
「……どうしてだ?」
「陽動だけで軍の部隊を1つ動かさずとも俺1人で十分です。その分軍の人達を他の部隊に回すことでそれぞれの部隊の戦力を上げられる」
「確かに、各部隊の総合力が上がるのはありがたいが、本当に1人でできるのか?」
「はい、できます」
「そうか……グレンさんはどう思います? 修行をつけた本人である貴方から見て、彼が1人でその役目を全う出来ると思いますか?」
メルト先生の質問にグレンさんは考える必要すらないと言う様に即答する。
「もちろん。その程度、シン君なら片手間でやってのけますよ」
「なるほど、分かりました。……陽動はシン、お前に任せる」
「ありがとうございます」
「ちょっと待ってくれ! いくら何でもそれは危険だ! 学生の身で1人で陽動なんて……」
ダイバーさんが抗議の声を上げる中メルト先生はグレンさんの言葉の真意を確かめる。
「……ダイバーさんの言う通り、彼はまだ学生だ。だが、戦場に出てしまえばそんなもの関係ない。その上で、陽動の役目は彼が1番適任だと俺は思います」
「メルト殿……。そうだな、実力だけ見れば彼程の適任はいないか。中断させてしまって悪かった」
「いえ、納得して頂けたようで何よりです」
「納得したのも確かだが、彼がやらないとして誰がやるとなった時に、自分では不可能だと思っただけですよ。ただ臆病なだけです」
そう言ってダイバーさんは自虐的に笑う。
「戦場では、そう言った冷静な判断を即座に下せる人員は貴重な存在です。そんなに卑下する必要はありません」
その後も特に問題もなく作戦会議は進み、その配置が決まった。
「では確認をする。陽動はシン単独で行い、遅れてウィルバート王国軍部隊は東南から、ルステリア王国軍第一部隊は西、第二部隊は南からそれぞれ突入。レオは第一部隊に、アレクは第二部隊に配属とする」
「「はい」」
「第1目的は人質の奪還、次点に敵アジトの破壊と組織の壊滅だ。潜入後シンはそのまま人質の元へ、他の部隊はアジト奥にいると思われる構成員を見つけ次第捕獲」
メルト先生の指示にシンと軍部の人達が頷く。
「偵察部隊からの情報では敵はまだ傷が完全に癒えておらず行動を始めるのは4日は先だと思っていいらしい。幸いな事に時間はある。明日1日は休息を取り、2日後準備を整え3日目の早朝、動きを再確認し作戦開始とする!」
「「「「了解!」」」」
その時、メルト先生とグレンさんを除く部屋の中にいた全員の声と想いが重なった。
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