第2章 四大魔法学院対抗戦 後編 二十九話 やらかしました。


 ――翌日、俺が朝起きると時計の針はまだ7に達したばかりだった。集合時間まではまだ2時間ほど時間がある。


「少し早く起きすぎちゃったな」


 俺は窓へ近づき外の景色を見る。どうやら今日は快晴のようだ。


「ヒルテおばさんもう起きてるかな、起きてたらお茶でも貰うか」


 そして俺は顔を洗い、歯を磨き、制服に着替え下に降りた。




 俺が降りると既にアリシアが食堂に来ていてカウンターに座りヒルテおばさんと談笑していた。


「アリシア、おはよう。ヒルテおばさんもおはようございます」


「レオ君、おはようございます」


「はい、おはよう。今お茶を入れるわね」


 俺がカウンターに座るとヒルテおばさんが暖かい紅茶を出してくれた。


「そう言えば、アリシア起きるの早いね。あんまり眠れなかった?」


「いえ、私は普段からこの時間に起きているので自然と目が覚めちゃって。サリーもそろそも起きてくると思いますよ」


「そうだったのか。俺も昨日早く寝たからかいつもより早く起きちゃってさ」


 けどまぁ、アリシアとこうして話せてるし良かったかな。


「レオ君は魔力回復しましたか?」


「3分の2って所かな。まぁ俺とアレクは普通の人より魔力量が多いから1晩休んでもこんなもんだよ。昨日も足りない分は支給されたポーションで回復しようって話してたところだし」


 俺はアリシアに昨日ここに着いてから3人で話していたことを話した。


「もう、多いからと言って使いすぎちゃダメですよ!」


「ははっ、今日はなるべく気をつけるようにするよ。でもまぁ、いざとなったらアリシアがいるもんね?」


 そう言って俺は微笑みながらアリシアに冗談を言うが……


「そ、そうです、ね……うぅ、」


 アリシアは今日もまた顔を赤くして俯いてしまった。


「あ、アリシア? 前から思ってたんだけど、なんでそんなに顔を逸らすんだ? 他の3人と話してる時はそんなところ見たことないし」


「それは、レオ君と話してると……」


「俺と話してると?」


「そ、その……」


 アリシアはそこで言葉が詰まってしまう。


「うん、ゆっくりで大丈夫だから話してくれるか?」


「はい、その……レオ君と話しているとなんと言うか、恥ずかしいというか……」


 俺と話してると、恥ずかしい?


「な、なんで? 」


「そ、その……急に微笑まれたり、顔が近くに来たりすると、その、かっこよくて……」


 え? 最後の言葉小さくてよく聞き取れなかったけど、今アリシア、俺の事かっこいいって言わなかった!?


「あ、アリシア? 最後の言葉ってなんて……」


「な、な! なんでもないです!忘れてください!」


 そうしてアリシアは顔をさっきよりもさらに真っ赤にしカウンターテーブルに突っ伏してしまった。


 俺の方は最後の言葉をしっかり聞けずに少し肩を落としていた。


「2人とも、もうそろそろ朝食の時間だから皆を起こしてきてくれるかしら?」


 俺とアリシアがそうしているとヒルテおばさんがこちらに来て3人を起こしてくるように言ったので俺とアリシアはそれぞれの部屋へ向かった。




 俺達は朝食を食べ終えた後集合時間まで30分程時間があったため作戦の最終確認をしていた。案の定サリーの手により俺とアリシアは隣合って座らされる。


 さっきあんな事があったばかりでやっぱり気まずい……


 そんな空気の中俺達は最終確認を終え、時間になり先生が来たので一緒に馬車に乗り込み今日の舞台であるヴォーレオス大森林横の演習場まで向かっていた。


「ねぇねぇ、2人とも何かあった? 様子が少しおかしいけど」


 道中、俺とアリシアはサリーにそう問われる。馬車の中でも俺とアリシアの座る位置はサリーの手により隣同士だ。


「い、いや? 特にこれと言ったことは無いけど。ね、ねぇ! アリシア?」


「…………」


 俺は咄嗟にアリシアに賛同を得ようとするがアリシアから答えは帰ってこない。


「あ、アリシア?」


 ま、まずい……アリシアの顔がまた赤く! これ、朝のこと思い出してオーバーヒートしてるんじゃ……?


「アリシア?」


 サリーが呼びかけるがアリシアは目に涙を浮かべ今にも泣き出してしまいそうだ。


「はぁ……レオ君、正直に答えて。何やらかしたの?」


「や、やらかしたって程でも無いと思うんだけど、実は……」


 そうして俺は朝の出来事を寝ている先生以外の3人に話した。俺が話していた間もアリシアは朝の光景を思い出したのかさらに赤くなっていた。


「はぁ、全くお前という奴はよくも大事な試合の前にやらかしてくれたな」


「あ、あれぇ〜やっぱり俺やらかしちゃってたの?」


「そりゃもう、ねぇ〜アリシア」


「う、うぅ……何で今私に振るのサリー!」


 あぁ、やっぱり怒ってるアリシアも可愛いな。手ブンブン降ったりして。


「まぁとりあえず、ここはお前が謝っておけ。レオ」


「あ、アリシア? その、朝は本当にごめんな」


 俺はアリシアに向き直り誠心誠意心から謝罪する。アリシアには嫌われたくないからね!


「い、いえ、その……私もレオ君と話せるのは、嬉し、い……ので。その、大丈夫です」


「そ、そっか……俺も、アリシアと話せるのは嬉しいよ」


 そう言って俺はほっとしたのか気持ちが緩んだのかつい笑ってしまった。だが、俺は自分のしてしまったことに気づかない。


「はうぅ! う、うぅ……」


「バカっ! お前、そういうところだぞ!?」


「え、? あ……」


 俺はアレクに言われやっと気づく。俺とアリシアは今馬車の中隣同士で座っており必然的に距離も近い。そして俺はアリシアに謝罪するためにアリシアの方に向き直っていた。もちろん顔も近くなる。


 そこに追い打ちをかけるようにわざとでは無いとはいえ笑ってしまったのだ。つまりどうなるかと言うと……


「あぅぅ……!」


 そう言ってアリシアは今日で1番顔を真っ赤にしサリーの方を向き蹲ってしまった。


「はぁ、お前ってやつは……」


「言ったそばからやらかすとはな」


「レオ君ってドS?」


 俺は3人からそんな酷い評価を受けるがそんな事よりも今はアリシアにもう一度謝ることで頭がいっぱいだった。


「アリシア!? 今のは本当にわざとじゃなくて! 本当にごめん!」


「も、もう、いいですぅ〜!」


 その後、ヴォーレオス大森林に着くまで結局アリシアには1度も目を合わせて貰えず、着いたあともしばらくはサリーの後ろに隠れてしまい避けられていた。




 ヴォーレオス大森林に着き俺達は馬車から降りて演習場の控え室まで向かった。2戦目は10時から、開始まであと30分だ。その時間で2戦目の細かなルールが説明され同時にトーナメント表も発表された。初戦の俺達の相手はブランハーツ魔法学院だ。


「ブランハーツか、ならば攻めは3人に任せる。レオ、始まるまでに解決しておけよ」


「わかってるよ。このままだと作戦にも影響するかもしれないしな」


「この作戦はお前達にかかってからな」


「あぁ、任せとけ。2人も油断せずにしっかりと守ってくれよ」


「ふっ、言われるまでもない」


 そう言ってアレクとは一旦別れ俺はアリシアの方へ近づいた。


「アリシア、ちょっといいかな?」


「レオ君……」


「行ってきなよ、アリシア」


「う、うん……」


 サリーに促されアリシアは俺の元へ歩み寄る。


「えっと、その……さっきも、今日の朝も本当にごめん。でも、これだけは知っていて欲しい。俺はアリシアと話すのも嬉しいし楽しい、だからついアリシアと話していると気持ちが緩むのか顔に出ちゃうんだ」


 アリシアは黙って俺の話を聞いている。


「だから、これからもアリシアには恥ずかしい思いをさせることがあるかもしれない。でもそれは、俺が心からアリシアと話す時間が楽しいからだ、嬉しいからだ。それだけは知っていて欲しい」


 俺が真っ直ぐにアリシアを見つめ言い切るとアリシアはやっぱり少し赤くなりながらもしっかりと答えてくれた。


「はい。私も、レオ君とお話できるのはすっごく嬉しいです。だから! 頑張って、慣れようと思います。あ、で、でも! やっぱり顔が近いのは恥ずかしいのでそこは、ゆっくりお願いします……」


「あぁ、いつまでも待つからゆっくり慣れていってくれればいいよ」


 そうして俺とアリシアは何とか試合前に仲直り、でいいのかな? する事ができた。


「開始5分前だざっくりとルールと作戦を振り返るぞ。まずはルールからだが基本は代表選抜戦の時と変わらず勝利条件が旗を取るから魔力結晶を壊すに変わっただけだ。制限時間は30分。その間に決着がつかなければ残っている選手の数かそれも同じなら魔力結晶の破損状態で勝敗が決まる」

 

 アレクはさっき説明された内容をざっくりとだが振り返り始める。


「戦闘不能の判断も1戦目と同じ戦闘ができないと判定されるならば拘束するでも気絶させるでも殺害以外ならなんでもありだ。作戦は俺とダリスが守り他3人が攻め。状況はその時に応じて連絡するように」


「「「「了解!」」」」


 そして俺達は控え室から森の自陣まで移動する。俺達の移動が済むとすぐに昨日と同じハイテンションな放送で2戦目開始の合図がされた。


『それでは! 只今より四大魔法学院対抗戦第2戦目を開始しますっ! 初戦はアストレア魔法学院対ブランハーツ魔法学院!それではぁ、開始ぃ!』


 こうして、四大魔法学院対抗戦2戦目が幕を開けた。

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