第5話 大臣忙殺

 国王が殺された。

 そのニュースに王宮はパニックに陥った。


「い、一体誰が陛下を!?」


「いや、ソレよりも問題は次の王だ!」


「貴公、この非常時に都合の良い王を即位させるつもりか!?」


「貴公こそ、その様な事を言うのはご自分が次期国王に重用されたいからでは?」


 気がつけば王が殺された件から次期国王選出問題に発展している。

 しかもそれぞれが自分と懇意な王族を次期国王に据えようと躍起になって口論を始めた。


「エイナル殿はどう思われるかな?」


 大臣の一人がこっちに話題をブン投げてきた。

 コイツはエイナルの父親と仲の良い貴族だが、余り権力は強くない。

 どちらかといえばその隣の大臣の方が有望だろう。

 しかし俺にはそんな事どうでも良い。

 

「私はこの件には関与できません」


「何? どういう事だね? 次期国王の選出よりも重要な事が何処にあるというのだ!」


 本気で気付いていないんだな。


「魔族の侵攻を食い止める事です」


 ソレが騎士団の役目だからな。


「む、た、確かにそうだが……しかしならば尚更新国王の選出を急がねば……」


 そんなだからお前等は魔族に出し抜かれ続けてるんだよ。

 

「その議題は1日2日では決まらないでしょう。魔族は今すぐにでも攻めてくるかもしれません。皆さんはその危険を放棄してでも私に次期国王が決まるまで軍務を放棄しろと仰られますか? 国が滅んでも良いのでしたら私もその話し合いに加わりますが」


「む……」


 そこまで言って漸く大臣達は黙った。


「陛下が殺害されたのは魔族の仕業と見て間違いないでしょう。そして連中は我々が混乱している隙を狙って侵略を再会します。故に、我々騎士団はそれに踊らされないように独立した指揮権で行動を行います」


 つまり政治と国防を完全に切り離すといっているのだ。


「馬鹿な! そんな暴挙が許されるとでも思っているのか!」


「それは越権行為であろう!」


「王に忠誠を誓うべき騎士が王の手を離れて独自の行動を取るなどありえない事だ!!」


「その王が居ないのです! これまで敵は我々の身内を篭絡して凶行を行って来ました。ならば次に考えられるのは、大臣の誰かと手を組んで自分達に都合の良い王を選出させる事ではありませんか?」


「わ、我々に裏切り者が居ると言うのか!?」


「騎士団長といえど無礼であろう!!」


 乗ってきた乗ってきた。


「魔族と戦っているこのご時勢、そんな時に戦う力が無い王を選出しようとする方はいらっしゃらないでしょう。軍略、武勇、魔法……手段は何でもかまいませんが、戦に勝てる王こそ今は必要なのです。ですが、魔族にとってはそんな王は望ましくない。さて、この状況でそんな戦えない王を選出しようとした方は何人いらっしゃいましたか?」


「「「っ!?」」」


 何人もの大臣が居心地悪そうにうめき声を上げる。

 

「なるほど、そう考えると戦いに向かないお方を次期国王に挙げた者は怪しいですな」


 早速戦える王族を選出しようとしていた大臣達が乗ってくる。


「その通りです。ですが、その王が決まるまで国は無防備。その為の独立した指揮権の確立です。勿論次期国王が決まった際には即座に新国王の指揮下に入りましょう」


 俺は強引に決定を早める。

 この言葉で俺達騎士団は好きに動くが、武力偏重の王に従うよっと自分達のアピールもした。あくまでも国を守る事が第一義だとほのめかしつつ大臣達の意思を誘導したのだ。自分はあんた達の味方だよと。


「エイナル団長の言う事も最もですな。国が揺れている時こそ、騎士団には頑張ってもらわねば」


「異議なし。騎士団の独立行動を承認します」


「同じく異議なし」


「い、異議なし……」


 こうして、俺達騎士団は独自判断での行動を許される事となった。


 ◆


 自由行動が許されるようになった俺の行動は早い。

 まず速攻で戦えない王を選出しようとした大臣達の家に押し入って、国家反逆罪の容疑で一族郎党を捕縛。財産をすべて差し押さえた。

 捕らえた連中は戦争奴隷として前線の塹壕堀りとして送り出す。

 当然大臣達が俺の暴挙に怒り出すが、それは建前上のもの。

 なにしろ捕らえたのは戦えない王を選出しようとした大臣の家族だ。

 彼等を丸め込むのはたやすかった。

 耳元で、彼等が座っていたポストに自分達の親族をおけばよいと言ってやるだけで俺の味方になってくれた。

 ソレを後押ししてくれたのが、当の戦えない王を選出しようとしていた大臣達本人だ。

 彼等は自分達の屋敷が押し入られた時に速攻で逃げ出した。

 捕まれば申し開きをする暇もなく捕らえられると確信していたからだろう。

 そしてそれは正解だ。

 独立した指揮権を得た騎士団にとって、政治家の圧力は無意味なものでしかない。唯一力を貸してくれそうな同僚の大臣も政敵を蹴落とす為なら平気で仲間を見捨てる有様だ。

 全く、本当のこの世界の人間は愚かな事極まりない。

 こうやって互いの足を引っ張り合って滅んでいくんだろうな。

 まぁそんな理由で逃げ出した大臣達は正式に指名手配犯となり、追われる身となった。やましい事があるから逃げ出したのだと言われて。

 まぁ、彼等の屋敷をあさったら別の意味でやましい証拠がいっぱい出てきたからどっちにしろ罪に問われたけどな。 

 他国に国家機密の情報を漏らしたり、禁制品の輸出入をしていたりとだ。

 そして逃げた大臣達はあっという間に居場所を補足された。

 だって相手は戦闘訓練なんてしてない貴族だからな。

 我が儘放題、危機感ゼロだ。護衛の連中は相当苦労していた事だろう。

 だが俺はあえて彼等を泳がせた。

 彼等が屋敷とは別に隠した財産を取りに行くまで。

 これだけ欲の皮の突っ張った連中だ。私腹を肥やしていない訳が無い。

 そして数日が過ぎた頃、大臣達を追っていた部隊が戻ってきた。

 彼等は大臣を捕らえようとしたが、全員が「激しく抵抗した」のでやむなく殺したと証言する。

 こうして国家反逆罪で捕まった大臣達は全員死亡した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る