第19話 新婚生活
「貴方様、お食事に致しましょう」
竜王祭に勝利した俺は、龍皇より血と彼の娘を妻として賜った。
つまり俺は結婚する事になってしまったのだ。
おちこぼれドラゴンから一転、超絶美少女(ドラゴンの美的感覚的に)と結婚するという超絶リア充となった俺。
世の中何が幸いするか分からない。
今もメリネアと共に空を飛び食料を狩っている光景は、ドラゴン的に言えば高級車に乗って恋人とデートに行くも同じ状況である。
最も、食べるのはファーストフード並みにお手軽なその辺の獣や魔物だが。
「新鮮な味だわ。貴方様はこんな物を毎日食べているのね」
「メリネア様は違うのですか?」
「私の食事は宝石鉱山の原石が多いかしら。よくドワーフが用意してくれるの」
それ絶対用意してる訳じゃない。
「でも貰うばかりも悪いから時々古くなった鱗を与えているわ。彼等は私達の鱗を喜んで身に付ける不思議な風習があるでしょう?」
毛皮並みに気軽なイメージで言うな。
多分ドワーフ達はその鱗を加工して鎧とか作ってるんだと思う。
しかし宝石が主食とか流石はお嬢様、いや宝石龍、食事のスケールが違うぜ。
「ねぇ貴方様、アレも食べれるのかしら?」
宝石以外の食事を気に入ったメリネアが俺に問いかけてくる。
視線を向ければ、その先にいたのは人間の集団だった。
しかもアレは騎士団だ。規則正しい隊列を作って進む鎧姿の集団なんて連中しかいない。
「アレは人間です。食べれますが関わるのはやめた方がいいですね。彼等は一匹殺すと何百匹と襲い掛かってきますから」
ドラゴン的にはそう考えて間違いない。
「仲間思いな生き物なのね」
なんと好意的な解釈なのだろう。
「仲間の復讐の為に戦う者もいますが、大半は我々の骨や鱗などを狙った欲深き者達です」
「何故私達の体を欲しがるのかしら?」
「彼等は毛皮も鱗も持っていない脆弱な生き物です。だから他の生き物の強い身体を欲しがるのですよ。そして彼等は手に入れたからだを加工して自分の身体の一部とする術に長けているのです」
「人間って不思議な生き物なのね」
「悪意を持たない者も稀にいますが悪意を持つ者が多いですね。それにすぐ裏切ります。どうしても関わる必要がある場合はなるべく敵対しないようにすると良いでしょう。ちょっと優しくしてやれば神のように崇めてくれますよ」
人間の性質を教えてメリネアに注意を促す。
仮にも妻として娶ったのだから、知らない間に人間に襲われて殺されては堪らないからだ。
「貴方は賢いのね」
「そうでもありません」
「そんな事は無いわ。貴方はとても思慮深い。普通のドラゴンはそんな事考えず、食べたいと思ったものは何でも食べてしまうわ。それに竜王祭での貴方の戦い方、あれは見事だったわ。己よりも強い相手を利用して敵を減らし、敵すらも己の爪に替えて相手を圧倒した。貴方は賢き龍だわ」
「あれは周りの者の頭が悪すぎたのですよ。私が賢い訳ではありません」
実際子龍達は脳筋だった。
なまじドラゴンとしての強力な肉体と龍魔法を持っていた為に彼等は己が無敵と錯覚した。
だがそれは自分以上の相手と闘った事が無かったから。
逆に人間は自分より強いモノに勝つ為に知恵と力を蓄えてきた。
武術を学び、魔法を発展させ、武具を改良し続けた。
そして戦術を考案した。
騎士団長であるエイナルに憑依した俺は、彼が学んだ武術と戦術、戦略の知恵を学んでいた。
その知恵があったからこそ俺は子龍達と互角以上に渡り合えたのだ。
「それに賢いというのなら、メリネア様もそうですよ」
「私が?」
「貴方は宝石を用意してくれたドワーフ達に悪いからと己の鱗を差し出した。それはドワーフを奪われ続けるだけの者から、対価を貰う者にしたという事です。奪われるだけの者は相手を憎みます。ですが十分な対価を得るのなら喜んで差し出してきます。そうなれば憎しみも生まれません」
メリネアが考えもしなかったといった顔で俺を見る。
「私、そんな事考えた事もなかったわ」
「ですが実行されました。相手に悪いと思った、その意味を深く理解していなかったとしても、確かに貴方は彼等が憎しみを増さないように行動したのです。それは貴方が潜在的に賢い証拠です」
メリネアはじっと俺を見つめる。
「やっぱり貴方様は面白いわ。私が妻となるのに相応しい程に」
メリネアが俺に顔を寄せてくる。
彼女は首を俺に巻きつける様に密着し、ペロペロと顔を舐めてくる。
人間的に言えばしょうぜつ美少女が抱きついて頬ずりしながら顔を舐めてくる様なものだ。
ドラゴン的には大興奮である。
「お父様に言われた通り、私は貴方様に未来永劫侍るわ。貴方が死んでも何度でも貴方の魂と添い遂げる。たとえ貴方が私の事を忘れてしまっても。永久に貴方の妻であり続ける」
ドラゴンの愛情表現すげぇぇぇぇぇ。
何というかマジで言っているのがはっきりと分かる。
人間だったらヤンデレですけどね。
「あら、あんな所にシーサーペントが居るわ。食後のデザートに頂きましょう」
喫茶店でパフェを食べるくらいの気軽さでメリネアが進路を変える。
あれ、人間なら十隻くらいの船に手練れの戦士や魔法使いを山盛り乗せて必死で戦う相手なんですけどね。
俺のお嫁さんはすっかりファーストフードに嵌まってしまったらしい。
ドラゴンって太らないよな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます