第20話 貴龍
エルダードラゴンの肉体は凄まじかった。
進化した俺は天龍を越え貴龍となった。
その肉体強度は通常のドラゴンの数十倍、爪の鋭さはコレまで異常になり、今まで作っていた洞窟細工は高級工具でサクサク作業をしている気分にさせる。
いやホント2000円くらいの高級ニッパーでプラモ作ると別次元の切れ味なんだよ。
クリアパーツ切っても白化しない。
そんな感じに爪の鋭さは素晴らしかった。
そして牙、この牙もまた硬さと鋭さを増していた。
具体的に言うと安物の肉を切って頑張って食いちぎっていたのが、松坂牛の様に柔らかく噛み切れるようになったのだ。
そんな肉爺ちゃんに進学祝いに食わせてもらった時っきりだけどな。
あと切れやすくなっても味は変わらん。
そして翼、これまでは国道を法定速度でちんたら走っていたのが、外国のアウトバーンで200kmオーバーでかっ飛ばしている気分だ。
しかもコーナーで吹っ飛ばない。
更にドラゴンといえばアレだ、そうブレスがある。
ドラゴンの代名詞とも言えるその技もまた飛躍的に強化された。
試しに放ってみたら山が平野になった。
海に放ったらブルーホールが出来た。深さは知らん。
空に放ったら雲の果てまで飛んでいった。あと途中で何かを吹き飛ばした。
恐るべき威力である。
うっかり谷とか大河とか作っちまったが知らなかったので仕方が無いのだ。
まさか大地にグランドキャニオンもびっくりの大渓谷が出来ちゃうなんて予想もしていなかったのだよ。
だって子龍の時は10m位の岩を吹き飛ばすのが精一杯だったんだからさ。
まぁそんな訳で俺は自分の新しい身体の力を堪能いや……解析した。
更に、この身体には新たなる力も宿っていた。
それは、宝を感知する力。
貴龍は何処に宝が在るのかを的確に知る知覚力が宿っていた。
何処にどれだけ価値のある宝が在るのか、をなんとなくで判断できるのだ。
例えば、俺が根城にしているプルスア山脈には銅鉱山が眠っている事が分かった。
今はまだ人間が調べる事の出来ない深さだが、数百年後にはその場所に気付くかもしれない。
俺はその翼で色々なところを見て回った。
メリネアとの新婚旅行も兼ねて、いちゃつきながら北から南、東から西と縦横無尽に空を駆け巡った。
お陰で俺は、この世界の人間では知る由も無い貴重な空からの地形確認が行えた。
この世界の人間でも魔法などを使って空を飛ぶ事はできる。
だがそれをできるのは限られた人間だけだし、魔力に限りが在るから得られる情報は非常に少ない。
いずれ人型の肉体に憑依する事があったらその知識が金になるだろう。
様々な鉱山や隠し財宝の在り処の情報もな。
まぁ、レア度の高い鉱山とかは他の貴龍に押さえられてるから手を出せないけどな。
でもフリーの場所に手を付けるのは有りだろう。
「やはり貴方様は面白い方だわ」
「突然何ですか?」
俺と併走して飛んでいるメリネアが愉快そうに笑う。
「普通ドラゴンは住み家に選んだ土地からは余り離れないのよ。でも貴方様はそんなの関係ないとばかりに世界中の空を駆け巡っている。お年寄り達も貴方様の自由っぷりに面食らっている事でしょうね」
そういえばそうだった。ドラゴンは巣に決めた場所を滅多に離れない。それはドラゴンの本能的な性質によるものだ。
何故かは分からないがドラゴンとはそう言うものなのだ。
「だからこそ、お父様は貴方様に嫁げと仰ったのでしょうね」
「色々な所に言った方が色々なモノを見れて楽しめるでしょう。それに、美味しい食事を楽しめますしね」
「ふふふ、そうね」
異世界に召喚されて数ヶ月。
俺はこの世界で漸く幸福というものを手に入れたのだった。
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