第21話 寄生する者
結論から言おう。
俺はまた死んだ。
エルダードラゴンとなった俺は好き勝手に暮らした。
嫁とイチャイチャちゅっちゅっしたり、美味い物を腹いっぱい食べたり、お宝を溜め込んだり、洞窟を拡張して美術館を増築したり、隠れ家にお宝を分散したりと充実した日々を送っていた。
そしてあっさり死んだ。
そりゃあもうポックリと。
とは言ってもドラゴンは短命では無い。
寧ろ長寿だ。
圧倒的なまでの強さを誇るドラゴンは文字通り世界最強の生物である。
肉体的な性能は寿命にも影響していた。
だがそんなドラゴンだって死ぬ時は死ぬのだ。
食事中に。
ある日食事をしていたら突然苦しくなった。
そして数日としない内に倒れて死んだ。
◆
俺は自分を殺した相手に憑依する事で、漸く自分の死因を理解した。
俺の死因、それは……
食中毒だった。
俺は今、自分を殺した寄生虫に憑依していた。
寄生虫なので目は無いが、感覚的に其処が生物の体内だと理解できる。
つまり俺はこの寄生虫が入り込んだ何かを食べてしまい、この身体由来の毒素を受けて死んでしまったのだ!
生食怖いね!!!
世界の王が食中毒で死んじゃったよ!!
寄生虫怖えぇぇぇぇぇぇ!!
絶対次の人生は焼いたモノしか食わねぇからな!!
……だが心配な事が1つある。
それは俺が何時まで生きていられるかって事だ。
虫の寿命は基本的に短い。
蝉などの例外は在るが基本は短い。
しかも今の俺は寄生虫だ。
恐らく単体の生物としての寿命は普通の虫よりも遥かに短いだろう。
大ピンチ!!
と思っていたら、俺の視界が替わった。
気がつけば俺の目の前に肉が焼かれている。
鉄板焼きだ。
「いやー、まさかこんな所でドラゴンの肉が食えるなんてなぁ」
目の前に戦士らしい恰好をした男がドラゴン肉をむさぼっていた。
「しかも戦いで死んだ訳でもない綺麗なドラゴンの死体だ。信じられないよ」
こちらは戦士よりも良い装備をしている。金属鎧と育ちのよさそうなそぶりから貴族だろうか?
「厳密にはエルダードラゴンだな。レッサードラゴンとは比べモノにならない価値がある死体だぞ」
老齢の魔法使いがニヤニヤしながらかつての俺の体に触れている。
「おいカズン! 肉が足りねぇぞ! もっと焼け!!」
「は、はい!!」
戦士が横暴な口調で俺に命令してくる。
だが仕方がない事だ。俺はこの面子の中で一番格下なのだから。
俺は憑依したカズンの振りをして肉を焼き始める。
「まったく、役立たずの癖に肉も満足に焼けねぇのかよ」
「そう言ってやるな。あいつは平民なんだ。出来ない事の方が多いんのだから仕方在るまい」
騎士が偉そうにふんぞり返りながら酒をあおる。
「いやお前ぇ、それだと同じ平民の俺達もダメって事だろうが」
「お前達は役に立つからな、少しはマシだ」
「ちっコレだから貴族ってヤツはよ」
どうもコイツ等は仲が良い訳ではないらしい。
「ひょひょひょ、青いのう。貴族なんぞ財布と思っておけば腹も立たんだろうに」
それはそれでマズイ発言だと思うのだが。
よしよし、カズンの記憶が読めてきたぞ。
彼等は冒険者、『栄光の剣』という名のチームだ。
チナイヤ国では有名な冒険者で、メンバーにそれなりの犠牲こそ出すものの、歴戦の戦士達である中核メンバーの彼等3人は必ず任務を遂行し生き残ってきた。
それだけ言うとすごい男達の様に思えるが、実際は新しいメンバーを使い捨ての駒に使うロクデナシ集団だった。
この身体の持ち主であるカズンはコイツ等の事を崇拝に近い感情で信頼しているから気付かなかったが、コレまでの記憶を読み解けば、コイツ等が仲間を使い捨てにしていた事が直ぐに分かった。
コイツ等は仲間を犠牲にする事が前提の戦術を行ってきたからこそ自分達だけは生き残る事ができたんだ。
つまりは、このカズンも必要とあれば即座に捨て駒にされていたことだろう。
だが、俺が憑依した事でもうコイツ等に捨て駒にされる人間が表れる事は無い。
何故なら……
「う、ぐ……!?」
「がっ!?」
「な、何じゃコレは……ま。まさか毒!? ゲブォ!?」
俺の、寄生虫に侵され毒素の発生した肉を食ってしまったからだ。
こうして栄光の冒険者達はあっさりと死んでしまったのだった。
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