第22話 チート付き冒険者

 さて、俺の仲間である先輩冒険者達は食中毒で死んでしまった。

 これをラッキーと考えるべきか、困ったと考えるべきか。

 まぁここはラッキーと考える様にしよう。

 何故なら、ここには俺の前の体があるからだ。

 貴龍、エルダードラゴンの鱗や角、そして骨の価値は計り知れない。

 コレだけの骨を持ち帰れば領地と爵位を金で手に入れるのは容易だ。

 カズンの知識からドラゴンの身体の価値を引き出す。

 普通のドラゴンの骨や鱗ですら金貨数十枚の価値があるのだ。

 貴龍の素材がいくらになるのか考えも付かない。

 だが、1つ問題がある。

 それはこの古い身体が大きすぎる事だ。

 何しろこの身体は貴龍となった事で普通のドラゴンよりもかなりデカくなってしまったのだ。

 解体も手間なら持って帰るのも手間。

 しかもこんな所に肉を置いていけば獣や魔物が集まってくるし、肉や内臓が腐敗したら目も当てられない。


「グルルルルルルルルルッ」



 なんて事を考えていたら、本当に魔物がやって来た。

 カズンの知識が魔物名前と生態を教えてくれる。

 奴等の名前はダストパンウルフ。塵取り狼って意味だ。

 つまり死肉食いって訳、地球の死肉食いと違うのは生きた肉も喰らうって所だ。

 俺は剣を抜刀してダストパンウルフの攻撃に備える。

 ダストパンウルフ達は俺と死体を囲むようにゆっくりと回り出す。

 そして少しずつ輪が小さくなってくる。

 完全に包囲して俺も殺すつもりみたいだ。

 さて困った。カズン自身は冒険者といっても成り立てホヤホヤの新人だ。

 とてもコイツ等全員と闘って生き残れるとは思えない。

 いや実際無理だ。

 エイナルの知識を使っても肉体の性能問題もある。

 良くて数匹相手に出来る程度だ。

 せめて魔法でも使えたらなぁ。

 運が悪い事に、俺は魔法使いに憑依した事はなかった。

 唯一使った事があるのは龍魔法だけ。でもあれはドラゴンの魔法だしなぁ。

 とても人間に使えるとは思えない。


「グルルルルルルルルルッ」


 ダストパンウルフがうなり声を上げながら包囲を更に縮めてくる。

 仕方ない。ダメ元だ。

 俺は精神を集中させ、龍魔法の発動をイメージする。

 龍魔法は呪文など必要ない。

 大事なのはイメージだ。単純に強さを求めて発動させればよい。

 ドラゴンの肉体に憑依していた頃を思い出して全身に魔力をいきわたらせる。

 その時だった。

 俺の体が驚くほど熱くなる。

 角が、爪が、翼が、うろこが、尻尾が熱くなり耐えがたい熱が全身を襲う。

 …………まて、それはおかしい。今の俺は人間だ。

 角も爪も翼もうろこも尾すらも今の俺の身体には無い。

 今の俺は人間なのだから。

 だと言うのに、俺は漲っていた。

 人間の肉体のはずなのにドラゴンの身体だった頃のような充実が全身を走る。


「ギュアァァァァァァァァァァ!!」


 ダストパンウルフが襲ってくる。

 だがその動きは驚くほどに遅かった。

 俺は軽々とダストパンウルフの攻撃を避けると、手にした剣でダストパンウルフを真っ二つに切った。

 びっくりするぐらいに脆かった。

 剣も。魔物も。

 ダストパンウルフを切り裂いた俺の剣は、俺の力に耐え切れられずに粉々に砕けてしまった。


 驚きである。まさか壊してしまうとか。

 だがこれで確信した。龍魔法は発動している。

 俺はダストパンウルフの群れの中に飛び込み、近くにいたダストパンウルフを思いっきり殴りつける。

 ダストパンウルフの肉体があっという間にミンチになる。

 コレはいかん。俺は全力で手加減をして、ダストパンウルフを優しく殴る。

 そこまでして漸くミンチにしないで吹き飛ばす事が出来た。

 まぁ、吹き飛んだ後、身動きしなくなったから死んでるかも知れないが。

 残ったダストパンウルフ達が俺に噛み付いてくる。

 だが龍魔法を発動させた俺の皮膚を貫く事はできず、逆に自分達の牙が折れてしまうという体たらくだった。


「悪いな、こっちも生きる事に必死なんでな!!」


 俺は残ったダストパンウルフ達を優しく原型が残るように屠っていった。

 龍魔法超強い。


 ◆


 大きな荷物を持って、俺は近くにある町へと向かう。

 暫く進むと大きな壁が見えてきた。あの壁は町を魔物から守る為のものだ。

 俺が近づくと入り口の門番達が騒ぎ出す。


「お、おい、お前その背中に背負ったモノは何だ!?」


 門番達が怯えた顔で俺を、俺が背中に背負った物凝視する。


「これですか? コレは、エルダードラゴンの骨ですよ」


 龍魔法で肉体を強化した俺は、近くにあった蔦などを使ってエルダードラゴンの骨や角を纏めて持ってきたのだ。


「ド、ドラゴンの骨だってぇ!?」


 周りにいた人間達が全員俺の背負う巨大な骨を見つめる。


「よ、用件は?」


「このドラゴンの骨を売って金を稼ぐ為です」


「「「何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」」」


 この後、俺の不用意な言葉が原因で町は大混乱となり、俺は面倒な騒動に巻き込まる事になってれしまうのだった。

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