第18話 龍の姫、龍皇の児

『児よ、見事である』


 龍王祭の勝利者となった俺を龍皇が賞賛する。

 周囲の親達はまさか俺が勝つとは思ってもいなかったらしく大興奮だ。

 俺を称える者、周りの子龍をふがいないと嗤う者、賭けに負けて悔しがる者、賭けに勝って喜ぶ者……まて、お前等俺達で賭けをしてたのかよ!?


『児よ、近こう寄れ』


 龍皇に呼ばれその足元へと向かう。

 龍皇はデカかった。体がではない。いや、体もデカいんだが、何よりもその存在感だ。

 圧倒的といえる龍皇の存在感は近くに居るだけで何かが削り取られるようだった。

 龍皇が俺をじっと見つめる。

 まるで魂までも見通されているかのようだ。


『ほう、お前は混じり物か。面白い』


 バレた。

 理由は分からないが、俺は何かが、全てがバレたと確信した。

 全身を冷や汗が伝う。

 俺は、俺の魂は人間だ。

 もしそれがバレたのだとしたら、龍の聖域たるドラゴンバレーに侵入した罪で俺は八つ裂きにされるだろう。

 ヤバイ。

 だが龍皇の行動はその正反対のものだった。


『血を授ける』


 俺は、俺の中の龍の本能が昂ぶった。たとえ憑依の力で肉体を乗っ取っても、ドラゴンとしての本能が龍皇の血を頂く栄誉に沸き立ったのだ。

 龍王祭の勝者に与えられる栄光。それは龍皇の血を授かる事。

 始祖の龍の血を与えられる事で龍はさらなる力を得る。

 飛ぶ事の出来なかった子ドラゴンは竜に堕ちる。飛ぶ事が出来たら天龍になる。

 そして、龍皇の血を授かった龍は貴龍となる。

 貴龍、それは言葉通り龍の貴族。

 ドラゴンの中でも選ばれた存在。

 ゲーム的に言うならエルダードラゴンって所だ。

 ちなみに竜はレッサードラゴンに分類される。

 もっとゲーム的に言えばもはやワームやワイバーン並に別種の下級ドラゴン扱いになるのだが、それはドラゴンの認識なので人間的にはレッサードラゴンで問題ない。

 そんな貴重な血を龍皇は俺に授けてくれるといった。

 己の爪で体を削り血を流す。


『受けよ』


 体が勝手に龍皇の言葉に従って滴り落ちた血を受け取る。

 ほんの僅かな血。

 数的の血。

 質量としては取るに足らないそれは、俺の存在を飛躍的に跳ね上げた。

 全身に活力が満ちる。

 自分の肉体が目に見えて進化していくのが分かる。

 俺の肉体は瞬く間に貴龍に相応しいものへと変貌していた。


『好きに励め』


 自由行動のお墨付き。

 理由はわからない。

 だが龍皇は俺の全てを理解して好きにして良いと言ったのだと確信できた。


『余禄だ、我が娘も与えよう』


 龍皇がついでとばかりにとんでもない事を言った。

 うん、俺の意識ではなく、ドラゴンの記憶が激しく反応したのだ。

 周囲の親達からも動揺が伝わってくる。

 文字通りの驚きの反応がだ。

 そして俺のなかのドラゴンの記憶が恐怖に震え出す。

 龍皇の娘、龍姫の存在を思い出して。


『メリネア、来い』


 龍皇の呼び声に一頭のドラゴンが舞い降りてきた。

 ルビーの鱗を持った宝石のドラゴン。

 瞳は吸い込まれそうなほど青く輝くサファイアの瞳。

 爪はしみこむようなオパールの輝き。

 全身が宝石の輝きに包まれたその存在こそ、宝石龍、龍姫メリネアルテニシモアムエドレア。

 竜皇の一人娘であった。


『何かしらお父様?』


 メリネアが面白そうに笑う。


『この者をお前の夫とする。未来永劫この者に侍るのだ』


『承知いたしました』


 竜皇の無茶振りをメリネアはあっさりと受け入れた。

 そして俺をじっと見つめる。


『こんなに面白そうな男は生まれて初めて。貴方が何度転生をしようとも、この世が滅びるまで貴方と添い遂げるわ』


 近く、その言葉は有限実行される事になると、俺はまだ気付いていなかった。

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