第17話 龍王祭

 ドラゴンバレー。

 其処はドラゴンの楽園。

 其処はこの世のあらゆる存在を拒絶するドラゴン達の聖域。

 いかなる理由があろうともドラゴンバレーに侵入したドラゴン以外の存在は抹殺される。

 ドラゴンバレーに住まう全てのドラゴン達によって。

 唯一例外とされるのが龍皇の印を与えられた者のみとされる。

 最も、そんな例外はもう何万年も現れていないらしいが。


『児等よ闘え』


 龍皇の声が聞こえる。

 それが龍王祭の始まりを告げるゴングだった。

 周囲の若いドラゴン達が雄たけびを上げる。

 皆が皆己が敵を見据え、俺に襲い掛かってくる。

 …………俺?

 気がつけば目の前に一際でかいドラゴンが大口を開けて俺に噛み付かんとしていた。


「ギャオォォォォォォォ!? (ってマジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)」


 俺は間一髪龍魔法で強化した肉体を動かし、でかいドラゴンの攻撃を避ける。

 すると次は全身が刃物の様に尖ったドラゴンが俺に突撃してくる。

 間違いなく触れたら切られる。

 俺はでかいドラゴンの体を足場にして上空に跳躍する。

 刃物ドラゴンの翼がでかいドラゴンの肉をするりと切り裂いていく。

 でかいドラゴンが悲鳴を上げてのた打ち回る。

 運の悪いドラゴン達が何体か、でかいドラゴンの下敷きになって潰された。

 ホント運が悪かったな。

 だがその間にも他のドラゴンが俺に向かって攻撃を加えてくる。

 魔法を放つドラゴン、鋭い爪で襲い掛かってくるドラゴン、ブレスを吐いて攻撃してくるドラゴン。

 誰一人例外なく俺だけを攻撃してくる。

 一体俺が何をしたというのか。

 いや、寧ろ逆だろう。

 俺の体である子ドラゴンは強さよりも財を求めた。

 それはドラゴンとしては正しい、だが間違っている。

 ドラゴンは強欲なのだ。

 力も財宝も欲しい。

 だから強くなって奪う。

 だが俺の体は強さはどうでもいいから財だけが欲しいと求め続けた。

 つまり力を求める龍たちから見れば恰好の獲物。

 俺を倒さない理由が無いのである。

 難儀な連中だ。

 再び刃物ドラゴンが俺を狙ってくる。

 足場になるでかいドラゴンは向こうに転がっていってしまったからどうしよう。

 じゃあ目の前の俺に襲い掛かってくるドラゴンを盾にするか。

 自分より大柄なドラゴン達の脇をスライディングですり抜ける。

 俺を追ってきた刃物ドラゴンが周囲のドラゴンを切り裂きながら俺の直ぐ上を通り過ぎてゆく。

 その瞬間俺は立ち上がり、通り過ぎた刃物ドラゴンの羽に噛み付いた。

 刃物ドラゴンの羽の端面は刃物だったが、皮膜の部分は普通の肉だと思ったのだ。

 そして俺は賭けに勝った。

 俺は噛み付いたままぐるりと一回転する。

 すると俺に襲いかかろうとしていた周囲のドラゴン達が切り裂かれてゆく。

 刃物ドラゴンも振り回されて悲鳴を上げる。

 俺が一回転を終えると、ドラゴン達の動きが止まった。

 漸く俺を相手にするのが危険だと判断したらしい。

 既に参加者の半分が俺を襲う際の二次災害で脱落していた。

 状況が膠着したスキを縫って俺は刃物ドラゴンを持ち易い姿勢で構える。

 そして突撃した。

 今度は俺の番である。

 刃物ドラゴンを武器代わりに振り回しながらドラゴン密度の多い場所に走り出す。

 ドラゴン達が我先にと逃げ出すが周囲のドラゴンが邪魔でうまく逃げれない。

 俺は逃げ遅れたドラゴン達をざっくざっくと切り裂いて突き進む。

 祭りの場は阿鼻叫喚の地獄となった。

 そして大人ドラゴン達は酒をかっ喰らいながら大笑い。

 戦意を失ったドラゴンと戦う気満々のドラゴン。

 もはや勝負の行方は誰の目から見ても明らかだった。


 そうして俺は、今回の龍王祭の勝者の座を手に入れたのだった。

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