第16話 ドラゴンフライト
俺は空を飛んでいた。
飛行機という鉄と火の力ではなく、ドローンの見せる映像越しの空でもない。
俺は自分の翼で空を飛んでいた。
俺は自分の肌で空高くを吹き荒れる強風を味わっていた。
「ギュオォォォォォォォン!!(ハッハァァァァァァァ!!)」
その爽快感たるや、スポーツカーのアクセルを全開にするよりも、バイクで風を感じるよりもはっきりと空を実感させた。
ドラゴンとなった俺は、間違いなく大空の王となったのだ。
◆
俺は空を楽しみながら異世界の風景を楽しむ。
空を飛ぶ巨大な鳥の魔物、大地を走る恐竜のような魔物、海を泳ぐ神話の怪物のような巨大蛇。
あらゆる光景が俺に異世界を見せてくれる。
空を飛べば天空に島が浮き、大地に近づけば高層ビルよりも高い巨木に町が出来ている。
海を泳ぐ巨大亀の甲羅は透明なドームとなっており、中には人が暮らしている。
全てが新鮮な光景だった。
唯一残念なのは、俺の体がドラゴンだった所為で近づくと皆逃げ出す事か。
今の俺は魔物の王ドラゴン。
最強の生命体なのだ。
しかし、そんなドラゴンにも苦手なモノはあった。
親だ。
そう、俺はドラゴンの子供だったのだ。
ドラゴンは生まれて間もない頃に親に狩りの仕方などを教わる。
ちゃんと狩りが出来るようになると、今度は子供の周りをぐるぐる飛び始める。
何度も何度も。
そしてある程度飛んだら親は子供を置いてどこかに行ってしまう。
子離れだ。
自分で狩りが出来る様になった子供は、空を飛ぶ方法を見せられる。
それで空を飛べる様になれば一人前。
飛べなければ一生地を這う地竜になる。
地竜とはドラゴンの出来損ない。
飛ぶ事を諦めたドラゴンからは翼が失われる。
それと同時にドラゴンが持っていた様々な力も失ってしまうのだ。
誰も知らないドラゴンだけが知っているドラゴンの生態。
俺はドラゴンに憑依する事でその真実を知った。
ドラゴンは恐ろしい魔物である。
だが知恵が無い訳ではないのだ。
人間と会話は出来ないが、ドラゴンは人間以上の知能を持っている。
それこそ魔法が使える程に。
龍魔法ドラゴマギア
ドラゴンの力とは全てが龍魔法によって発揮されていたのだ。
ケンジの【金剛体】を軽々と切り裂いたのも龍魔法によって爪の切れ味を増したから。
タカユキの【魔法威力倍化】で強化した魔法を容易に防いだのも龍魔法で鱗を強化したからだったのだ。
だが龍魔法は地竜には使えない。
龍魔法は真のドラゴンである天龍にしか使えないのだ。
だからこそ無敵の存在と呼ばれるドラゴン。
だが一人立ちしたドラゴンにはいつかある試練がやって来る。
それが龍王祭。
子ドラゴン達は親に連れられて他のドラゴン達と戦わされるのだ。
そしてその勝敗で子ドラゴンの序列が決まり、正式に大人と認められる。
その龍王祭の日が近づいていたのだ。
だが俺の体である子ドラゴンはそれを面倒と嫌がった。
どうも真面目なドラゴンではなかったらしい。
彼は強さを求めるよりも財宝を集める事の方が大事だった。
ドラゴンは本能的に財宝を集める生物。
それは己が生まれついての王者と知るからこその暴虐。
財宝は王が持って初めて価値を持つものだから。
それゆえに子ドラゴンは山に住み着いて冒険者達や商人達からお宝を奪い取っていたのだ。
だがその楽しい日々も終わりを迎えようとしていた。
親ドラゴンの鳴き声が聞こえたのだ。
親ドラゴンの鳴き声はどれだけ離れていても聞こえる。
龍魔法によって届くドラゴンの鳴き声は携帯電話よりも確実に相手に届く。
地下深くに隠れていても。深海深く潜っていても。
ドラゴンの鳴き声は届いてしまうのだ。
それを知った俺は覚悟を決めた。
まず洞窟の美術館の入り口にダミー壁を作り、ドラゴン的に価値の少ないお宝を適当に置いてダミー財宝としたのだ。
これで俺が留守の時に来ても人間達にはダミー財宝しか見つけられない。
何しろ美術館を隠したダミー壁は文字通り巨大な岩を壁として押し込んだからなのだ。
知っている物にしか壁の向こうに美術館が在るなんて分からない。
そうやって財宝を隠した俺は、親の呼び声に従う振りをしながら寄り道を繰り返していた。
龍魔法を熟達する為に。
この先に待ち受けるのは恐ろしいドラゴン達の戦い。
下手をすれば命にも関わる血と狂乱の祭りなのだから。
だからこそ、俺は特訓を重ねた。
仲間であるドラゴンに殺されない様に。
そしてとうとう親の呼び声に遊びが無くなった。
もう待てないと。さっさと来ないと力づくで祭りの場に連れて行くと。
俺は観念してドラゴン達の集う祭りの会場へと向かうのだった。
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