第15話 ドラゴン美術館

 プルスア山脈を越えようとした俺達は、愚かにも山を根城としていたドラゴンに殺された。

 そして俺は、魔物であるドラゴンに憑依してしまった。


「ギャオオオオオ(とりあえず死体の荷物は回収しておくか)」


 また死んだ時の為にイルミナの財宝を回収してどこかにしまう事にする。

 っと、死体はどうするかな。

 元々喰らう為に殺された訳だが、流石に人間の死体を食う気にはならない。

 なので道端に穴を掘ってそこに埋葬する事にした。

 ありがとうケンジ、タカユキ。ここまで来れたのはお前達のお陰だ。

 わっかりやすいフラグ立てまくって死んだのはスルーしといてやるよ。

 そして一緒にイルミナの死体も埋葬してやる。

 この女もクソだったが、それはこの世界の貴族の教育が悪かったんだと思う事にする。

 来世ではまともな人間に生まれ変われよ。


 俺はツメで土をかけて3人の冥福を祈った。

 …………さて、帰るか。

 帰る、そう、俺は帰るのだ。

 このドラゴンが根城にしている洞窟に。

 っと、その前に。

 俺は山道の上空を飛んで、めぼしい場所をさがす。

 お、あそこがよさそうだ。

 丁度いい感じで大きな岩が沢山ある場所に下りた俺は、近くの岩をツメで削って四角いブロックを作り出す。なんか消しゴムみたいにさくさく削れるわ。

 そして地面に穴を掘り、その穴に四角く切った岩を埋め込んで行く。

 そう、コレは地下室だ。そしてその地下室の真ん中に持ってきた財宝を入れる。

 後はその上手ごろな岩を置いて蓋をする。

 これで誰かに殺されても荷物を安全に回収できる。

 別に憑依できるんだから手元に置いておけばいいんじゃないのって思うかもしれないが、もしも相手が複数人数のパーティだった場合、ソイツがメンバーの中で最下位のヒエラルキーだと面倒な事になるからである。

 それに盗まれる危険もあるので財宝は分散しておいた方が安全だと思うのだ。

 やる事をやったら俺は洞窟へと帰る。

 財宝の眠る洞窟へと。

 ああ、そうそう。洞窟のお宝も分割して隠さなきゃな。

 そうなのだ、この身体はドラゴン。財宝を集めるのが趣味である宝の守護者のもの。

 それは異世界に置いても変わらなかった。


 ◆


 洞窟へと帰る途中、大きな熊を発見する。

 その姿を見て自分が空腹であった事を「思い出し」俺は地上に急降下して熊の頭を握りつぶした。

 うん、ドラゴンの爪スゲェェェェェェェェ!?

 まさかコレほどまでに鋭いとは。あと力もパネェ。

 という訳で、ご飯も手に入れたので早く帰ろう。


 ◆


 洞窟へと帰ってきた俺は、奥へとゆっくり歩いてゆく。

 洞窟の中は狭いので飛ぶ事はできないのだ。

 これでも爪で洞窟を削って拡張したらしいが。

 何時もの定位置に戻ってきた俺は、どっしりと体を休ませ、ゲットした熊肉を食べる。

 ああ、コレは美味いわ。

 見た目泥みたいな色の毛皮を纏った熊だが、その肉はとってもジューシー。

 滴る血がとっても美味しい。

 ふむ、コレがドラゴン的味覚という奴か。

 俺はタップリと熊の肉を堪能させてもらった。


 ◆


 食事を終えた俺は、洞窟の更に奥へと向かい自分のコレクションを見る。

 そこには色とりどりの財宝が眠っていた。

 宝石、金貨、魔剣、魔鎧、宝珠、煌びやかな装飾の呪本と様々だ。

 これらの金銭的、歴史的価値など分かりはしない。

 だがドラゴンは本能でこれ等の品を価値ある物と理解していた。

 これは素晴らしい。

 思わずうっとりするコレクションだ。

 …………だがこれはイカン。

 並べ方がなっていない。

 ドラゴンは集めるだけ集めて放置していたのだ。

 しかも乱雑に積み重ねて。

 これじゃあ下に柔らかい品があったら壊れちゃうじゃないか。

 俺は爪を使って洞窟を削ってゆく。

 まず拡張して財宝を並べるスペースを確保。

 次に壁や床を綺麗に形作ってゆく。

 四角い部屋が出来たら、爪でモールドを掘って模様を書き、岩を削って財宝を飾る台を作った。

 台には小さくて見栄えの良い指輪や宝玉、呪本を起き、岩を細い針金人間っぽく削って鎧を飾るハンガーにする。

 ついでなので剣を飾る台座を作ろう。

 大には剣を刺す穴を開けて、その後ろに鞘を差し込むちょっと広めの穴を開ける。

 これで剣の美しさを最大限に引き出した展示ができる。

 コインは岩の箱を作って別の場所にしまっておく。

 うん、大分綺麗になった。

 規則正しく並べられた財宝はまるで美術館のようだ。


 ニンマリと笑みを浮かべながら、俺は財宝の中で眠るのだった。

 ドラゴン生活もなかなか悪くない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る