第131話 いざ龍の谷へ

「いってらっしゃーい!」


「お気をつけて」


 娘と高柳さんに見送られ、俺達はドラゴン達の聖地、ドラゴンバレーへと向かった。


 ◆


 あの後、高柳さんは、ギリギス国に根を下ろして生活する事となった。

 メリケ国から逃亡した以上、隣国であるカネダ国は戦争に巻き込まれる危険がある。

 魔族が居なくなったメリケ国は早速近隣国家との戦争を再開しようとしていたくらいだからな。

 ああ、メリケ国といえば、勇者召喚に関する知識は完全に粉砕しておいた。

 資料も、技術者も、パトロンの貴族達も屋敷ごと魔法で焼き尽くしてやった。

 そもそもあの知識は魔族が居なくなった今となっては全く不要のものだからだ。

 それを人間同士の戦争に利用しようと言うのなら、破壊する以外の選択肢など存在しない。

 当の魔族は完全にエルフとドワーフだけを標的とする事を決め、その旨を世界各国に宣言した。

 魔族がこの世界を侵略したのは魔族の世界を崩壊の危機に導いたエルフとドワーフを探していたからだと。エルフとドワーフを滅ぼせば、自分達はこの世界から手を引くと宣言した。

 正直とんでもない手前勝手な理屈である。現に魔族の襲撃で被害を受けた国は数知れない。

 国民感情の上では到底受け入れられるものではなかった。

 だが、国民では無い者達の考えは違った。

 国の為政者達は魔族がエルフとドワーフを戦う事のメリットを計算したからだ。

 彼等は魔族がエルフとドワーフを攻撃している間は、魔族に自分達の国が襲われない事の利点を正しく理解した。

 まず戦費が減らせる。次に破損した砦や損耗した騎士団の建て直しが出来る。更に保存食の貯蔵ができる。長く続いた事で国民の間に蔓延した不満や不安を和らげる事が出来る。

 出来る事、受ける恩恵は様々だ。

 だが何よりも大きなメリットは別にあった。

 エルフとドワーフの両種族が滅亡すれば、彼等の技術を独占するチャンスが訪れるからである。

 エルフとドワーフの技術はこの世界において数百年上を行く超テクノロジーだ。

 欠片程度の技術でさえ人間の文明水準を跳ね上げる事が可能なほどである。

 だが彼等は強い。単純に技術力が段違いだからだ。

 剣や槍で闘う相手がマシンガンやミサイルを扱う現代の軍隊に正面から挑んでも相手に届く前に先制攻撃で倒されてしまう。

 人間達は数の上ではエルフとドワーフに圧倒的に勝っているが、彼等の技術力で互角以上の戦力差となってしまう。複数の国が同盟を組んで死を恐れず闘えば、いつかは人類が勝利するだろう。

 何時の時代も数で劣る相手が勝つことは少ない。

 何より各国の貴族達は自分達の兵を減らしたくは無かった。

 そこで異世界の住人が自主的にエルフとドワーフを退治してくれるというのだ。

 彼等の申し出を受けない理由が無い。

 そうした理由から、世界各国の様々な種族が魔族と停戦協定を結ぶ事に成功した。

 あとは魔族がエルフとドワーフを始末してくれるのを待つだけ。

 ついでに何時攻めてくるとも限らん魔族も戦力を消耗してくれればいう事なしと言うのが各国の本音だ。

 だから今この世界は一部を除いて比較的平和な状況と鳴っていた。

 少なくとも疲弊した各国の体力が回復するまでは。


 ◆


 俺はそんな仮初の平和が保たれているスキに、龍皇に会いに行く事を決意した。

 何故メリケ国に、人間に勇者召喚の術式を与えたのかと聞く為に。

 メリネアは何も答えない。

 自分が言える事はもうないという事なのだろう。

 だから答えを知る者に居る場所に行くしかなかった。

 町から出た俺は、転移魔法を発動してドラゴンバレーへと転移した。


 ◆


 ドラゴンバレーは薄暗かった。

 まるで曇り空だ。

 その曇り空は、まるで物理的な圧力を持っているかのような重々しい気配をかもし出す。

 龍の聖域が、人間の侵入を拒絶するかの用に。


 プチ


 ◆


 失敗失敗。うっかりドラゴンの通り道に転移してしまった所為で、通りすがりのドラゴンに踏み潰されてしまった。

 今、俺はドラゴンバレーに住むとあるモブドラゴンに憑依していた。

 さぁ、気を取り直して龍皇の下へ行こう。

 龍皇はドラゴンバレーの最奥に住んでいる。

 臆する事無く龍皇の待つ最奥へと向かう。

 周囲のドラゴン達が俺を見る。

 王に何の様だといわんばかりに。

 確かにドラゴンは必要が無い限り龍皇の下へ向かったりはしない。

 だが人間の衛兵の用にソレを遮る者が居ないのも事実だ。

 龍皇はこの世で最強の存在。護衛など必要ないのだから。


「良くぞ来た。娘婿よ」


 どうやら龍皇には俺の来訪などお見通しだったらしい。

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