第127話 チャイルドスキル
「いいかい、この世界では自分が日本人だって教えたら駄目だからね」
俺は娘の修行をする際に当たって、異世界では日本人である事を秘匿するように厳命した。
この世界において日本人とは勇者を意味する言葉と言って過言ではない。
魔族を倒す為異世界から召喚魔法で呼び出された俺達日本人は、この世界の人間にとっては強力な力を持ちながらも容易に言う事を聞かせる事の出来る使い勝手の良い戦力だった。
俺は娘をそんな欲望に満ちた者達に利用させたくない。
え? お前さっきまで魔物じゃなかったっけって?
ああ、そんな事もありましたね。
あの後二、三回くらいいろんな魔物に襲われた後、魔物を狩りに来た冒険者に殺されて今は人間ですよ。
死に過ぎだって? もう娘に何回か言われました。しまいにゃ呆れたようにじーっと娘が俺の事を見ていたくらいですよ。
「日本人がこの世界に来るとスキルという特別な力を手に入れる事があるんだ。それを利用しようとする悪いヤツ等が大勢いるから絶対教えちゃいけないよ」
俺が念を押して言うと、娘は神妙な顔つきで頷いた。
「うん、わかった」
しかし次の瞬間にはキラキラした目で俺を見つめて娘が聞いてくる。
「お父さん、私もスキルが使えるの?」
「……あ」
そうか、そうだよな。娘もこの世界に来た訳だから、スキルが使える可能性が高い訳だ。
だとすれば、自分自身のスキルを確認させた方がいいなぁ。
もしも有用なスキルなら自分の身を守る為に使えるだろうし。
危険なスキルならそれこそ他人に利用されない為の事を考える事が出来るだろう。
「ねぇねぇ、どうやってスキルを使うの?」
娘が俺のズボンを掴んでスキルの使い方をせがんでくる。
これは教えないとずっとゴネられそうだ。
「スキルはね、頭の中で自分のスキルを知りたいって思えばスキルの名前や効果がわかるんだ。やってごらん」
「うん!」
娘は元気よく返事をすると、目を瞑ってむーと唸りながら眉間に皺を寄せる。
別にそんな気合を入れなくてもいいんだがな。
その姿がほほえましくて、ついついジックリと眺めてしまった。
「分かったよ! 私のスキルは【祝福】って言うんだって。自分が望んだ相手のあらゆるこういを成功させるスキルみたい」
「っな!!?」
マジか!
「ねぇお父さん、こういって何?」
どうやら娘は行為の意味がわからなかったらしい。まぁ子供だしね。
「つまりね、由紀が味方してあげたいって思った人がする事はなんでも大成功するようになるって事だよ」
「ふーん」
娘は派手な能力でない事にガッカリしていたが、俺はその能力の恐ろしさに愕然としていた。
この子の言っている事が本当ならば、娘に愛された人間はどんな困難な出来事でも成し遂げる成功者になるという事だ。
知れば間違いなく利用しようとする者が現れるだろう。
確認させておいて本当によかった。
俺は娘の肩に手を置いて真正面から見つめる。
「いいかい由紀。お前にはまだ分からないかも知れないけど、そのスキルはとても強力なモノなんだ。それを知られたら悪い人達がお前を利用しようとやって来る。良い人でも悪い事を考えてしまう。だから絶対に教えてはいけないよ」
理由は分からずとも、俺の言葉から真剣なモノを感じた娘は身体を少しだけ硬くして頷いた。
物分りの良い子で本当によかった。
「ねぇお父さん」
娘が口を開く。
「なんだい?」
「メリネアお……お姉ちゃんにも内緒?」
む……そうだな。なるべく知られないに越した事はないんだよなぁ。
ここは念の為口止めしておくか。
しかしここで俺は娘の視線の先が俺にむいていない事に気付く。
嫌な予感がしつつも、後ろを振り向くと。
「あらあら、やっぱり子供は強力なスキルを取得するわねぇ」
メリネアが居た。
娘のスキルについて聞かれてしまった。
「っ!?」
だが、俺が本当の意味で驚いたのはそこではなかった。
その部分ではなかった。
「今……何て言った?」
メリネアは言った。「やっぱり」と。
「スキルを取得する」と。
それはつまり。
「何で……スキルの事を、知っているんだ?」
「……あっ」
しまったといった表情を見せるメリネア。
そんなリアクションを取る理由は1つ。
「スキルについて何か、いや、スキルを取得する条件を知っているっていう事は」
メリネアは間違いなく。
「勇者召喚について、何か知っているんだな?」
勇者召喚の術式をメリケ国に持ち込んだローブの人物を知っているって事だ。
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