第88話 マジカルアイテムプリンセス

 リドラ=ディグラード、彼女はドワーフ族の王女にして自身も戦士である。

 ただし、個体数の少ないドワーフの、それも王女を前線に出すわけにも行かない為、リドラは井戸の防衛という閑職に回されていた。

 過保護な現状に毒づく彼女だったが、ようやく日の目の当たる時が来た。

 憎きエルフ共が幾重にも張り巡らされた防衛網を潜り抜け、己が守っている井戸の下へと向かっているという報告を受けたとき、彼女は全身に電撃が走ったかのような興奮を味わった。

 恋と勘違いしそうなほどの胸の高鳴り。

 戦わない理由などなかった。

 リドラはもうすぐやって来るであろうエルフに対して、いつでも奇襲ができる様に装置の陰に隠れていた。

 実践を知らぬ新兵とはいえ、地の利を生かす事位はする。

 物語の主人公の様に馬鹿正直正面から挑む必要などないのだ。

 自分は軍人。ほかの実戦経験豊富な兵達が倒す事の出来ない相手を一方的に倒せれば己の価値は必然的に上がる。

 そうすればお飾りの姫として陰で笑われる事もない。

 そうして『井戸』を破壊しようとしていたエルフ達は、私の部隊の一斉攻撃を受けて全滅した。

 と、言う事があって俺はドワーフの姫となった。


 ◆


 うん、そうなんだ。ちょうどたまたま彼女の放った矢が、俺の頭部にジャストミートしたのだ。

 という訳で、今日から私の事は魔法具のプリンセスって呼んで!

 ……うん、無いわー。

 さて困った。早々に憑依が完了してしまったが、いまだ魔力の源泉たる『井戸』は破壊されていない。

 このままでは俺こと姫は昇進という名目で更に動けなくなる。そうなれば『井戸』の破壊は更に困難となってしまう。

 何とかして元俺の体に攻撃をしなければ。

 その時だった。


「う……」


 倒れたエルフ達の方からうめき声が聞こえる。

 あれは仲間のエルフか。どうやら当たり所が良かったらしくかろうじて生きていたみたいだ。

 だが間違いなく虫の息。

 放っておけばこのまま死んでしまうだろう。

 そうはさせない。


「お前達、とどめを刺すのだ! そちらのエルフも死んだ振りをしているかもしれん、マジックアイテムで逃げ場のない様に飽和攻撃でとどめを刺しやれ!」


「は!」


 ドワーフ達がマジックアイテムでエルフ達を攻撃していく。

 そして凄まじい大爆発を起こした。


 ◆


 魔力結晶、それは特定のマジックアイテムを起動するための魔法の燃料である。

 そして俺はソレを、井戸を破壊するために格納庫から持ち出した。

 結局破壊はかなわなかった訳だが、代わりにそれを部下のドワーフ達がやってくれた。

 しかもその攻撃は、敵の特定の部位部に命中させるのではなく、元俺の逃げ場がなくなるほどの密度で放たれた。結果、魔力結晶は大爆発。エルフ達は俺達の攻撃をよける事も出来ずに魔力結晶の爆発に巻き込まれた。

 俺達と一緒に。

 そう、周囲にいる全員を巻き込んで。

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