第93話 消えた戦場
ドワーフ達の兵器情報とそれらを開発整備する為の施設を根こそぎ破壊した俺は、転移装置を使ってエルフの町へと向かった。
目的はエルフが所有する【源泉】の情報の抹消と魔法技術の弱体化の為である。
ドワーフが弱体化した以上、エルフにも弱体化してもらわないとバランスが取れないからだ。
両種族は魔族襲来の原因としてしっかり責任を取ってもらわないとな。
◆
転移を行った俺は、周囲を確認する。
ここはエルフの森の中に有る巨大樹、その幹の側面と枝の上に作られた町である。
いまここでは、エルフとドワーフの熾烈な争いが繰り広げられて……繰り広げられて…いない?
何故かエルフの町はがらんとしており、人っ子一人居なかった。
町を襲撃に来たドワーフも、町を防衛するエルフすらも居なかったのだ。
「どういう事だ?」
ドワーフの地下都市にエルフの大軍勢が攻めてきているのは知っている。
しかしソレを考慮してもここまで人の気配がないのはおかしい。
もしかしたらエルフ達は町の防衛を無視して総出でドワーフの地下都市を襲ったのだろうか?
いやいや、幾らなんでもそれは。
普通に考えれば残ったエルフ達は町を捨てどこかほかの場所に避難したという所だろう。
だがそれでも先行してここに来たドワーフ達の姿が見えないのはおかしい。
エルフが全員逃げ出したとしてもドワーフ達が制圧した都市を放って全員エルフ達を追うとは考え難かった。普通最低限の人数は残すものだろう。
町を見れば第一陣が放ったであろう大量の魔力結晶によって町はボロボロになっていた。
人間の胴体よりも太い枝は折れ、木々の表面は爆発の余波で炭化している。
だが誰かが魔法で消火したのか、そこかしこがびしょ濡れになっていた。
つまり奇襲は行われ、エルフ側からの消火作業も行われたという事だ。
しかし周囲には人っ子一人居ない。
ふむ、ここに居ても情報を得られそうもないし、まずは貴族達が生活している上層に行って見よう。
◆
かつてドラゴンの襲撃を免れた古参エルフ達のすむ区画。
そこもまたドワーフ達の襲撃を受けたであろう生々しい燃え跡がと爆発跡が残っていた。
やはり戦闘はあったのだ。
だが、だったら何故死体が無い? 戦闘をしたのなら、生存者が居なくても死体はある筈だ。
俺は得体の知れない状況に危機感を募らせていた。
手がかりを探すべく、貴族区を探索する。
そこで俺は意外にもあっさりと状況を確認する手がかりを見つける事が出来た。
俺の視線の先にはドワーフの鎧、イカヅチが倒れていたのだ。
わき腹に穴が空いている、恐らくエルフの攻撃を受けて殺されたのだろう。
いやもしかしたらまだ虫の息で生きている可能性もある。接触してみよう。
「おい、大丈夫か!?」
声をかけながら近づくか返事は無い。やはり死んでいるのか?
俺はイカヅチの装甲板を開き、その中に隠された外部操作パネルを操作する。
イカヅチは内部から鎧を脱ぐ以外に、装着者が意識を失った時の為の外部操作パネルが有る。
ソレを副団長権限で解放し、鎧のロックを外すと、胸部装甲版が展開して内部の装着者が露出する。
生きていてくれよ。
「…………なに?」
だがそこには誰も居なかった。
そこには装着者たるドワーフがいる筈だというのに、もぬけの殻だったのだ。
「どういう事だ?」
これは明らかにおかしい。
何故中にドワーフがいない? 鎧の不調で外に出た? わざわざ蓋を閉めなおして? ソレだったら仲間の転移装置で鎧ごと帰ればいいだろうに。
「鎧を捨てざるを得ない何かが起こったのか?」
結局、鎧を見ただけでは判断がつかなかった為、俺は更なる情報を求めて移動を再開するのだった。
しかし俺はここで気付くべきだった。
鎧を貫いた穴にも、鎧の内部にも、装着者の血液が付着していなかった事に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます