第70話 戦わなければ生き残れない

 異世界リ・ガイア。

 その世界は今、滅亡に瀕していた。

 リ・ガイアでは謎の魔力枯渇現象が発生し、魔力を生命の源とする魔族達の多くが衰弱し、死の恐怖に怯えていた。

 リ・ガイアの魔導師達はその原因を徹底的に調べ、その結果魔力枯渇現象が何者かの手による人為的な現象だと言う事を調べ上げた。

 即座に魔導師達は魔王に報告し魔力の流れ込む先である場所、反転世界【ガイア】への扉を開いた。

 ガイアは驚くほど魔力に満ち溢れた世界であった。

 恐らくリ・ガイアから魔力を吸い上げた際にもれ出た魔力がこの世界に満ちたのだろうと魔導師達は結論付けた。

 幸い転移先は周囲に人のいない土地であった為、そこを臨時の王都として開拓、リ・ガイアの住民達を招き寄せた。

 当面の危機は去った。だがこのままではリ・ガイアは魔力が完全に枯渇して滅びてしまう。ガイアに来る事を良しとせず、リ・ガイアに残ったままの同胞達もいる。

 転移してきたばかりの土地ゆえ、食料が満足に行き渡らない。

 魔力枯渇現象の研究に関わっていない魔導師達を最大限動員して成長促進魔法で畑の植物を育て、騎士団が周辺の獣を狩って食料を確保した。

 だがそれでも足りない。

 仕方なくリ・ガイアの畑を使って食料うぃ確保する事にしたが、リ・ガイアは魔力が残り少ない為大規模な転移術式は行えない。月に一度ガイア側から転移魔法を発動させて食料を確保するという非常にコストの割に合わない事までして彼等は食料を確保していた。

 すべては魔王の穏健政策が故に。ガイアの種族に迷惑をかけるべからずと。


 ◆


 その間も魔力枯渇現象の研究は進められていた。

 だがその研究の進みは遅く、大陸の魔力濃度から複数ある大陸のどこかに魔力が注ぎ込まれているのかまではわかったのだが魔力の流れる先は強力な結界に封じられ、それ以上の捜索は不可能だった。

 スパイを放とうにも大陸は広く、とても自分達の存在が露見しない様に行動していてはリ・ガイアの滅亡に間に合わないと理解できた。

 ルシャブナ王子を始めとした家臣達は魔王に大規模捜索の許可を求めた。もしくはガイアの民に強力を要請してはどうかと?

 ガイアの土地を大規模捜索すればその姿は間違いなく誰かに見られるし、最悪他国のスパイでは無いかと疑われるだろう。だからこそ彼等はばれない様に総索に携わる者の数を絞らなければならなかった。魔物に襲われる危険を冒してまでもだ。

 だがそれでは調べる事の出来る場所は限られてくる。

 だからこその許可申請だ。

 しかし魔王は却下した。この世界の民に関わるべからずと。

 王子達は焦った。このままではリ・ガイアの同胞達が滅亡すると。

 今の自分達の領土では、リ・ガイアから移住を求める同胞達全てを住まわせる事はできない。

 当然だ、一国の領土で世界全体の住民を住まわせる事など出来よう筈も無い。

 移住を拒み、あえて残った者達の中にも同じ考えの者達がいたのでは無いだろうか?

 そして王子達は決断した。

 王が民を見捨てるのなら、自分達が民を守ると。

 魔王に毒を微量な毒を盛った食事を取らせ、体調を崩した魔王に呪いをかけ動けなくする。

 医者も回復魔導師も取り込んでいる状態なので魔王の病状は正体不明。ガイア特有の奇病という事になった。

 主導権を得たルシャブナ王子は即座にガイア制圧に向け進軍を開始した。

 リ・ガイアに残った種族達の多くを説得し異世界を故郷にするのではなく、原因となる存在を打ち滅ぼしてリ・ガイアを救う為に力を貸してほしいと。

 愛すべき故郷を救う為ならばと魔族達は重い腰を上げた。

 表向きは侵略を、その裏では魔力枯渇現象の原因の究明と打開の為に。

 それこそが魔族が全世界に向けて侵略を開始した真の理由だった。


 ◆


 全てを知った俺は困惑した。

 ルシャブナ王子達は厳密には悪ではなく、寧ろこの世界の住人の誰かが真の悪だったのだと知ってしまったからだ。

 勇者達にこの事実を教えてやりたいが今は戦闘中、しかも穏健派であるリザードマンを殺してしまった直後だ。ここは一旦引いて体勢を整えるしかないな。


「お前達、一旦引くぞ」


 俺は部下の魔族騎士達に撤退を命じる。


「ですがルシャブナ殿下の……」


「問題ない、殿下には【火】が付いている」


 俺達のする事、それはルシャブナ王子を逃す為のオトリだ。

 だが既に十分な時間は稼いだし、マーデルシャーンの知識で彼等の逃げ込む先は分かった。


「行くぞ、全員私のそばに集まれ!」


 部下が勇者達を牽制しながら俺のそばに集まった瞬間を狙って、俺は転移魔法を発動させた。


 ◆


 ここは臨時王都の外れの森。その中心部にあるルシャブナ王子の秘密の隠れ家だった。


「こ、ここは森の!? 何時の間に!!」


 部下の魔族騎士達が驚きの声を上げる。

 どうやら彼等は転移魔法による少人数転移を体験した事はなかったらしい。


「マーデルシャーン様は転移魔法の個人使用を実現されていたのですか!?」


 お、転移と分かったか。


「まだ研究段階だったのだがな、無事発動して何よりだ」


 一応何度も使えない切り札だったと思わせておこう。


「結果的に我々の方が速く到着してしまったな。さて殿下をお迎えする準備をするか」


「「「はっ!!」」」


 部下達は隠れ家に入ってルシャブナ王子の出迎えの準備をする。


「さて、これからどうしようかな」


 魔族の裏事情がわかった以上、強硬派をヘタに抑えればそう遠くない未来に魔族達は立ち行かなくなり、いずれは爆発する事が分かってしまった。

 この代替案を考えなければ結局穏健派も強硬派に変わってしまう。

 悩み始めたら何だか身体中が痛くなってきた。 

 その時になって俺はリザードマンの身体でマーデルシャーンを槍で刺して殴りまくっていた事を思い出した。

 とりあえず隠れ家の中に備蓄してある魔法薬で傷を治そう。

 考えるのはそれからだな。

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