第69話 秘密同盟結成
「そこなリザードマン、その話詳しく聞かせてもらおうか」
隠し通路からやって来た第二王子ラウグルが俺に命令する。
だがこれはチャンスだ。王族を味方に引き入れれば戦後の混乱も抑え易くなる。
「皆さん、ここは私が説明します。皆さんはルシャブナ王子の捜索を」
「分かった」
勇者達はルシャブナ王子を探す為、隠し通路の奥へと向かっていった。
「ではお話いたしましょう」
●
「成程、そう言う訳か」
ラウグル王子は顎に手をかけて頷く。
「確かに、父上が原因不明の病に倒れ、兄上が代理で指揮を任された時の軍の掌握振りは不自然に早かった。回復魔導師も薬師も原因不明と言っていたが、あの者達も兄上の手の者であった可能性が高かったという事か」
成程成程と頷くラウグル王子。
「だが解せんのは何故兄上は複数の国家に攻撃を仕掛けているのかといいう事だ。一国ずつならば侵攻も早かろうに、仮にもこちらはリ・ガイア全体の魔族を率いているのだから」
「それに関しては我々も存じてはおりません。陛下のお体については人間の回復魔導師と魔法薬で治療を行う予定ですのでご安心下さい」
「それで、兄上を討った後は誰が玉座に座るのだ? まさか貴様か?」
ラウグル王子が意地の悪そうな目つきでこちらを見てくる。
「お戯れを、もしそのつもりなら一人で残ったりはしません。ルシャブナ王子にご退席戴いた後は、穏健派のお方にお任せするつもりでした。ラウグル王子にその意思がおありでしたら……」
俺はお返しとばかりにラウグル王子を見る。
「ふん、仕返しのつもりか。だがいいだろう。兄上無き後は第二王子の余が治めるが道理。その後の混乱を考えれば穏健派として戦を止めた方が良かろうしな。良いだろう、お前達の行いは余が認めてやる!!」
「ははー! ありがたき幸せ!!」
「だが人間達の国との交渉は手伝えよ。責任は兄上に全て被って貰うからな。この戦争は魔族の意思ではないとな」
「承知いたしております」
無茶を言う。もう魔族として侵略行為を行っている状態でどうやってそんな説得をしろと?
「なに、この土地を魔族の国として認めさせればよい。この地には人間が住んでいない事は調べてある。それなりの広さもあるゆえ、ここで我等がひっそりと生きる分には問題など起きまいよ」
うーん、まぁ確かに。このリザードマンの記憶でもルシャブナ王子が宣戦布告するまでは特にトラブルも起きて無かったもんなぁ。
「では余達は一時身を隠す。そなた達の侵略が終わって落ち着いた頃に姿を現すとしよう」
「はは-!」
そう言うと、ラウグル王子達は隠し通路を抜けてさっさと中庭へ出て行った。
「予定外の遭遇だったが、今後の事を思えばプラスにはなったかな」
俺も気を取り直して隠し通路から奥へと向かおうとしたその時、足元に何かがぶつかる。
「なんだ?」
見ればそこにあったのは、血に塗れた魔族の騎士の死体だった。
「コレは……」
恐らくさっき俺達が攻撃した時に石畳を外して外に出ようとしていたのがこの騎士だったのだろう。
なんとなくだが、俺は手を合わせて冥福を祈る。
祈りが終わると俺は騎士の身体を避けて隠し通路の奥へと向かった。
しかし、よく考えたら部下が一人殺されたって言うのに、よくもまぁ淡々と同盟を受け入れたもんだな。 ああいうのが指導者に求められる冷静な思考という奴なのだろうか?
◆
隠し通路を進んだ先では激しい戦闘が行われていた。
先行した勇者達が何者かと戦っていたのだ。既に彼等の足元では何人もの魔族や騎士が倒れている。
俺は物陰から彼等が戦っている相手を確認する。
戦場で勇者達と戦って居るのはなにやら見覚えのある青肌の魔族……ってあれ! 四天王土のマーデルシャーンじゃねーか!!
ヤバい。あいつはマジでヤバイ。どうする? 一旦隠し通路を迂回して別の場所を狙うか? いや、それともここでヤツを倒す事に専念するか? ヤツを生かしておけば間違いなく後顧の憂いになる。
味方の振りをして近づいて一気に龍魔法で攻撃。後は一気に勇者達と連携して殺す。
それならいけそうな気もする。
敵の数もそれほど多くは無い。恐らくマーデルシャーンも一旦隠し通路から逃げて態勢を立て直そうとしていたのだろう。
城内には別働隊が動いている。連中も戻る事はできないだろうから何としてでも逃げたい筈。それを考えれば生け捕りにされて拷問される可能性は低い。最悪近くに魔族に殺されれば何とかなる。
覚悟を決めた俺は物陰から出てまっすぐに戦場に突っ込んでいく。
「マーデルシャーン様、援護いたします!!」
「うむ! 頼むぞ!」
勇者がギョッっとしてこちらを向くが俺の姿を見てニヤリと笑う。
「あの魔族は任せろ!」
そのまま俺を迎えうつ振りをして回避。マーデルシャーンへの道が開く。
ここで龍魔法を発動! 立った一歩の踏み込みでマーデルシャーンの懐に入る。
「覚悟!!」
全力の一撃がマーデルシャ-ンに向かって叩き込まれる。
だが俺の槍はマーデルシャーンの発動させた防御魔法によって遮られ、完璧な一撃とはならなかった。
「むおぉぉぉぉ!?」
しかしそれでも龍魔法によるブースト効果は大きく、マーデルシャーンの胸には俺の槍が突き刺さっていた。
「き、貴様一体何の!?」
俺は刺さった槍を手放し、マーデルシャーンを組み伏せる。
そして殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る!!!
「ぐぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!!!」
なす術も無く殴られるマーデルシャーン。しかし防御魔法の所為でダメージ自体は少ない。さすがは四天王。
俺はマーデルシャーンの胸に突き刺さった槍を引き抜き両手で思いっきり突き下ろした。
眩暈がした。
その瞬間、身体中の力が抜けるような感じがして龍魔法の効果が切れる。
魔法の加護がなくなった槍はマーデルシャーンの防御魔法であっさり防がれる。
「何!?」
一体何が起きたんだ?
「エアファング!!」
不可視の牙が俺を吹き飛ばしながら噛み砕く。
「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
龍魔法を再度発動しようとするがやはり魔法は発動しない。
変わりに意識を失いそうな強い眩暈だけが俺を襲う。
「何かよく分からんが、このマーデルシャーンによくもやってくれたな」
マーデルシャーンが膨大な魔力を放出して魔法を発動させる。
まずい、アレはヤバイ!
「ファイアアロー!!」
俺は敵の魔法を中断させる為に目くらましの魔法を放とうとした。
だが……
「何故だ!?」
魔法は発動しなかった。変わりに再び強い眩暈に襲われた。
俺の知る限りこんな現象が起きる状況といったら……
「まさかコレが……MP切れ!?」
考えられるのはそれだけだった。
そしてマーデルシャーンに魔法が発動したのもこの瞬間だった。
「死ぬが良い裏切り者よ!! 直ぐに貴様の仲間もあの世に送ってやるわ!! バーンスフィア!!」
眩暈に眩んで動けない俺に、マーデルシャーンの放った爆発を繰り返す炎の大弾が襲い掛かった。
◆
バーンスフィア。火属性の攻撃魔法、狭い建物内で使う事を考えて作り出された爆裂魔法で、弾の中は常に超高温の炎と爆発が渦巻いている。だが範囲は弾の中のみで外部には一切影響を及ぼさない結界型攻撃魔法。
球状結界の中で標的がもだえ苦しむ姿を眺める事が出来る、土のマーデルシャーンが好んで使う処刑魔法だ。
それを俺は憑依したマーデルシャーンの知識から知ったのだった。
そして……それ以上の真実も、マーデルシャーンは知っていた。
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