第71話 和平? 継戦?
さて困った。
魔王四天王、土のマーデルシャーンに憑依した事によって魔族の裏事情を知ってしまった俺は、これからどうしたものかと悩んでいた。
魔族が戦争を始めたのは国民を餓死させない為、更に言うと住む場所も確保する為。
だがその裏にはリ・ガイアを襲う魔力枯渇現象の原因を排除するという大きな目的があった。
寧ろ戦争に関してはそちらの方がメイン。
ある日突然現れた見知らぬ種族がやって来て、異世界が滅亡しかかって居るのはこの世界の誰かが原因なので、犯人捜しの為に貴方達の国を自由に捜索させてくださいと言われてはいそうですかと受け入れるヤツは居ない。
寧ろその国が犯人だった場合、全力で隠蔽しようとするだろう。
一度は魔王に対してこの世界の人間に強力を仰ごうと進言したルシャブナ王子だったが、これはあえて魔王に進言しらしい。
後で魔王が反対したからという理由を作る為に。
いやそんな後々の為の工作についての考察は後回しだ。
大事なのはこれからどうするかだ。
ルシャブナ王子を殺害してもどうにもならない。
寧ろ今後の事を考えるとルシャブナ王子は殺しちゃいけない。
だったらやる事は絞られる。
まず第一にルシャブナ王子を守る。第二に勇者を味方につける。第三に騎士団を無力化する。幸い大陸側のゲートはカネダ国のゲートしか支配されていないから、カネダ国のゲートを破壊する方が先か?
ゲートを破壊するのは痛いが、まだ向こうには転移待ちの騎士団が多い。これ以上敵が増えては大変な事になる。
ゲートの支配権を奪い返せば、こちらに来ている騎士達を脅迫して沈静化する事もできるかもしれない。
故郷に帰れない絶望はこちらもよく理解しているしな。
……よし、それで行こう。
「私はしばし留守にする。ルシャブナ殿下を頼む」
「はっ!!」
この場を部下に任せて俺はカネダ国にある魔族の前線基地へと転移した。
◆
カネダ国の転移ゲート(操作室側)に転移すると、何か騎士っぽいのが魔法使い達に命令していた。
見れば操作室内には先ほどまで居た勇者達は居らず、居るのは騎士と魔法使い達だけだった。
「今の内に構造をよく調べておけ! 後でコレを量産して他国に対して優位に立たねばならんのだからな!!」
ああ、そう言うことね。
コイツ等はメリケ国かカネダ国の騎士達て、魔族を倒した後の事を考えて転移ゲートの構造を解析しようとしているのか。
全く、この世界の連中は本当に戦争が好きだな。
「そういう事をされると困るんだよ」
「っ!? だ、誰だ!!」
突然話しかけられた騎士が驚いてこちらに向き直るが、俺はそれを無視して魔法を発動した。
「アースクエイク」
突然建物が大きく揺れる。
そして俺達の居る操作室が、いや転移ゲートが斜めに傾いた。
「な、何事だぁぁぁぁぁ!!」
騎士がバランスを崩して壁まで転がっていく。
俺は彼の二の舞にならない様に魔法で空中に浮遊する。
「うわぁぁぁぁ!!」
魔法使い達も同様に転がっていき、騎士の上へと落ちていった。
「ぐべっ!?」
アースクエイク、それは土の大魔法。あらゆる物を大地に飲み込み喰らい尽くす恐るべき魔法だ。
今、この転移ゲートはアースクエイクで起きた深い地割れに飲み込まれ地中深くへと落ちていってい最中だ。
そして地の底に落ちる。当然落下の衝撃で中に居た連中は衝突死、いや落下死か。
魔法で空中に浮いていた俺だけが生き残った。
俺は死体を持って地上に転移する。
そして死体を捨てて大地に空いた巨大な亀裂がふさがっていくのを眺めた。
亀裂はドンドン小さくなり、遂には何事も無かったかのように元通りの大地へと戻った。
ただ1つ、転移ゲートを除けば。
「これで敵は転移ゲートを使ってこちらに来る事はできなくなった。後でゲートが必要になったら魔法で掘り出せばいい。後は臨時王都で戦っている味方の援護と勇者達の勧誘だけだな」
俺は再び臨時王都への転移を行った。
◆
臨時王都上空へ転移を完了する。
地上を見れば人間の騎士団と魔族の騎士団が戦っている。
上空からでも鎧の色で人間と魔族が判別できるのはありがたいな。
「ここで敵を皆殺しにするのは楽だが、それだと後々禍根が残るからな。まずは無力化を試してみるか」
俺は大きな水玉を発生させる魔法を唱える。
「ウォーターバルーン!」
そしてそれを人間の騎士団の真ん中に向けて何個も落としていく。
そして落下のタイミングを見ながら次の魔法を発動させる。
「サンダーランス!!」
騎士団が水に塗れた瞬間を狙ってイドネンジアで行った感電攻撃で人間の騎士団を行動不能に陥れた俺は感電から逃れた騎士達を個別に行動不能に追い込んでいく。
「スパークアロー!!」
拷問をして情報を引き出すマーデルシャーンは敵を生かして捕らえる術に長けていた。
一番得意なのは土魔法だが、捕獲のために色々な属性の魔法を学んでいたみたいだ。
……けど風系の魔法は使えないのか。
ほうほう、魔法には個人の適正があって、得意な魔法は習得も早く威力も高くなるが不得意な魔法は習得し辛く相性によっては覚える事すら出来ないと。
バーザックの知識には その辺の情報はなかったが、あいつはどうも全属性使える珍しい奴だったみたいだな。
魔法を使えるからと言って全部使えるわけじゃないと。
◆
人間の騎士団を無力化した俺は地上に降りて魔族の騎士団と合流する。
「マーデルシャーン様!」
「この人間達の武装を剥ぎ取って捕らえておけ。後で交渉の材料にする」
「はっ! ですが転移ゲートが制圧されており敵が次から次へと……」
「分かっている、既に大陸側のゲートを使えないようにした。後はこちらのゲートを奪い返して騎士団を捕獲するだけだ」
「おお! さすがはマーデルシャーン様!!」
俺の言葉を聞いた魔族騎士達の士気が上がっていく。
「魔法使いは敵の捕獲を考慮して魔法を使え、だが無理ならば即座に殲滅せよ。騎士団は市民の避難を急がせろ。反対派に市民を傷つける気は無くとも、人間達は追い込まれれば必ず市民を人質に捕る!」
「ははっ!!」
マーデルシャーンの命令で騎士達が迅速に行動を開始する。
恐れられてはいるが、それと同様に信頼もされているようだ。
「じゃあ俺も勇者達を説得するかな」
この戦いで一番重要なのは、イレギュラーな戦力である勇者達を味方にできるかだ。
人間の騎士達は勇者達の事を異世界の平民と侮っているが、大事なのはそこじゃない。
彼等のスキルと異世界の知識だ。
こちらの人間には思いつかない事をされたら騎士達では対応できなくなる危険が高い。
などと考えていたら、城の一角で大爆発が起こった。
あの位置は……キッチン?
何故あんな場所で爆発が?
「…………ま、まさか!!!?」
やったのか? アレを? ファンタジー、SF、現代アクションとあらゆるジャンルの作品で作家達が嬉々として行う伝説の奥義を!
「粉塵爆発をやったバカがいるのか!!!」
もうもうと立ち上げる煙を見ながら、俺は早く勇者共を止めなければいけないという別の意味での使命感に襲われるのだった。
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