第106話 帰ってきた故郷の山
退治されたバンカーホークの番に憑依する事で、俺は事のあらましを理解する事が出来た。
何故『本来現れる事のない場所にバンカーホークが現れた』のか。
その理由とは……
俺が原因でしたー!
うん、そうなんだ。かつて俺がドラゴンに憑依した時に見た巨大な鳥、ソレこそがバンカーホークだったのだ。
あの時プルスア山脈へと引っ越してきた子龍に憑依してそこらじゅうを飛び回った事で、本来その付近で生活していたバンカーホークが食べられるのを恐れて逃げ出したのが原因だったのだ。
ドラゴンのいる所になんか居られるか!と。
いや、俺もバンカーホークを追い立てた訳じゃないんだよ。
ただ当時はこの世界において、ドラゴンがどれ程の脅威なのかよく理解していなかったんだよ。
ドラゴンといえば大抵のファンタジーでは最強生物の地位まっしぐらだけどさ、大抵そういう作品だと実はそれ以上の脅威とかが居てドラゴンがどんどんカマセにってのも良くある話じゃないか。
だから俺的にはドラゴンはけっこー強いくらいの認識で居たから、好き勝手飛び回れたんだよな。
ソレがまさか、この世界において圧倒的技術力を持つエルフとドワーフをあっさりと滅ぼしてしまうほどの本物の強豪種族だとは思っていなかったのだ。
ドラゴンは生物としての格がマジで違った訳だ。
この事から、何も知らなかった頃の俺が好き勝手飛び回っていた所為で、バンカーホークだけでなくほかの生物の縄張りまでも変えてしまった可能性が浮上してきた。
いやね、ホントわざとじゃないのよ。
まぁ、バンカーホークはデカい生き物だから、それほど数が居る訳じゃない。
番に憑依した俺が居なくなればマーマン達の脅威も無くなる事だろう。
ホントすんませんでした。
◆
つー訳で現在引越し中です。
俺は大空を飛び回りながら、この巨体が維持できるだけの食料がある場所を探していた。
どこか良い場所はありませんかねー。
出来れば元々バンカーホークが居た場所に近い環境とかさー。
俺はそんな都合の良い事を考えながら翼をはためかせる。
逃げ出して来たんだから帰れる訳が……ってそうじゃん! 犯人俺だから帰れるじゃん!!
今更ながらにその事を思い出した俺は、一路プルスア山脈目指して飛び立つのだった。
◆
幸い、ドワーフとエルフが暮らしていたウィンブランド島はプルスア山脈に近かった。
勿論空を飛べる巨鳥の認識では、だが。
巨大な海蛇を飛び越えて、大地を走る恐竜のような巨大な生き物を眼下に見下ろし、俺はプルスア山脈へと戻ってきた。
実に数ヶ月ぶりの里帰りである。
……たった数ヶ月で一杯死んだなぁ。しんみり。
懐かしき山々に帰ってきた俺は、ある場所へと降り立つ。
俺が降りたった場所、それは人知れず作られた墓がある場所だった。
そう、俺と同じ日本人であるケンジとタカユキの墓だ。
俺が巻き込んでしまった日本人であるケンジとタカユキ。異世界に来たばかりでスキルの事も良くわからず、追っ手に追い詰められていたとはいえ、彼等を巻き込んでしまった事は改めて謝罪したい。
俺は墓の前で黙祷を捧げる。
そして彼等の墓の横にあるもう1つの墓。そう、イルミナの墓だ。
メリケ国の貴族で、かつて俺が憑依していた騎士団長エイナルの婚約者だった女だ。
乗り移った俺が権力を手にする為にこの女を捨てて王女と結婚した事で俺を刺した女だ。
それだけ言うと可愛そうな女だが、この女も俺達異世界人を自分達に従うべき労働力と認識していたクソ貴族だった。
とはいえ、それも大人の貴族達の教育が原因だったのだと信じたいところだ。
俺を殺した女だが一応冥福を祈るくらいはしてやろう。来世はまっとうな人間に生まれ変われよ。
……死か。俺もいつか死ぬのかなぁ。
憑依スキルがある俺は死んでもその死因が他者にあるのならその相手に憑依して生き続ける。
そう考えると事実上の不死みたいなものだが、俺はいまだ寿命や他者が関与しない死は迎えた事がない。
その時どうなるのかを考えると少々怖いものがあるな。
普通の人間として死ぬのか、それともドワーフの時と同じ様に因果を遡って原因となった人物に不完全な憑依をするのだろうか?
ソレを確かめるには勇気が居る。なにしろ永遠に死んでしまう危険があるのだから。
結末はいつか老人になって、天寿を迎える時にしか分からない。
答えのわからない問題に気分が重くなる。
やめやめ! どうせその時が来るまで分からないんだから、メシにしよう!
俺は翼をはためかせ山を飛び降りて風に乗る。
風の流れと共に俺の鼻腔をくすぐる匂いが流れ込んでくる。
近くにご飯がいる証だ。
それは視線を動かし匂いの元を探る。
……居た!
視線の先には大きな牛と思しき生き物が見える。
よく見るとその周囲に何かが居て、牛にちょっかいをかけているみたいだが俺には関係ない。
俺はただ獲物を狙うだけだ。
旋回して突入角度を調整した俺は一気に牛へ向かって飛び込んだ。
足に確かな感覚が生まれる。牛はしっかりと俺の脚から生える杭によって貫かれていた。
そのまま上空へと突き抜けていく。
一瞬だけ視線を地上に向けて、この牛にちょっかいをかけていた連中の姿を確認する。
それは人間だった。
どうやらあの人間達はこの牛を狙ってやって来た狩人だったようだ。
俺の足の中の牛は、野生ゆえの生命力で暴れようとする。だが所詮は少しでかいくらいの牛、15mオーバーの巨体である俺に抵抗する事などまったくの無意味であった。
身体中を足から生えた大小さまざまな杭で貫かれた牛は瞬く間に失血して行き、遂には動かなくなった。
バンカーホークの足には大小さまざまな杭が生えている。
それは獲物の大きさに合わせた杭を刺す為。そして貫いた獲物の血を効率よく抜く為だ。
幾ら巨体とはいえバンカーホークは鳥。獲物の重量も軽いに越した事は無い。
更にそれの血抜きの役にも立った。
俺は手に入れた獲物を持ち去って山の頂に降り立つ。
そして足を振る事で足の杭に突き刺さった牛を取り外した。
さて、実食である。
もぐもぐ……
うん、生肉の味だ。
……当然だよね、生なんだから。
あー、焼きたいわー。焼肉喰いたい。
だがスペルを喋れない俺では、龍魔法は発動できても普通の魔法は発動させる事が出来なかった。
いつか龍魔法以外の魔法も喋らなくても使えるようになりたいもんだ。
この【憑依】スキルがあれば、いつかそんな知識がある身体に憑依する事もあるだろうか?
その時、俺はふと思った。
そういえば、一体スキルとは何だろう? と。
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