第107話 スキルってなんだろう?

 故郷の山に戻ってきた俺は、山頂でノンビリしながらスキルについて考えていた。

 異世界人である俺達がこの世界リガイアに呼び出され、魂がこちらの世界に適応すると高い確率でスキルを手に入れるのだという。

 けれどスキルとは一体なんなのだろう?

 イメージするだけで自分の持つスキルが理解でき、更には使い方まで理解できる。

 まるでゲームのようだ。

 けれど、異世界人は誰もスキルを持っていなかった。

 この世界の人間ガイア、そして表裏一体になっている世界リ・ガイア、どちらの世界の住民もスキルなんてモノはもっていない。

 スキルをもっていたのは俺達異世界人だけだ。

 一体どういう理屈で覚えたのか、何故使い方が説明書の様に理解できるのか。

 それらの説明をできる者はガイア、リ・ガイアの住民、そして古代人であるエルフやドワーフにさえ居なかった。

 否、もしかしたらエルフやドワーフの知識人にはそれを理解しているモノが居たかもしれない。

 まぁどちらも壊滅状態ですけどね。

 ああ、そうなるとエルフの貴族達の本を処分したのは痛かった。土に埋めた魔法書の本の方に書いてないかなぁ。今度人型に憑依したら転移魔法で回収に行こう。

 コレまで憑依してきた多くの人々の記憶を読み込んでいくと、メリケ国の騎士団長であったエイナルにはスキルの漠然とした知識はある。だがそれも俺の知識とどっこいどっこいだ。イルミナは言わずもがな。

 メリケ国の人間達がたまたま召喚したヤツがスキルを持っていたから利用したとかいうのが真相だろうな。

 けれど、記憶を掘り起こしていくとおかしな点に気付く。

 無いのだ、スキルに関する知識が。

 リタリア王国の宮廷魔導師筆頭バーザック、それに魔王四天王土のマーデルシャーン、どちらもそれぞれの世界における力を持った知識人だ。

 であるにも関わらず、彼等の知識にはスキルと言うものの名前すら無かった。

 これはいよいよもって怪しい。

 まず最初のスキル持ちの異世界人はどうやって己がスキルを持っていると気付いた?

 まぁこれに関してはメリケ国の重鎮から聞くか、召喚魔法使い達の研究室とかから情報を得るしかないか。 

 現状やる事は、エルフの書物の回収、それにメリケ国での情報収集か。

 後は……そうだ、日本人を日本に戻す計画を再開しないと。

 その為にも会話の出来る存在に憑依しなおさないとなー。

 エルフの源泉とドワーフの井戸を破壊したからそれを恩に着せて転移魔法についての情報を手に入れたいところですよ。

 そうすれば人間と魔族、それにエルフとドワーフの転移技術が手に入る事になる。

 源泉や井戸の技術は余りにも複雑すぎて手に負えないが、通常の転移魔法ならエルフ達にとって高校レベルの知識なので俺が憑依したエルフとドワーフにもあった。

 上手くいけば日本人を帰還させる事も可能かもしれない。

 そうすれば日本とガイアを転移ゲートでつなげる事が出来るかもしれないなー。

 上手くすればビッグビジネスですよ!

 おれ自身も日本人である事は伏せて、異世界人として日本政府とコンタクトすれば日本に大手を振って帰還する事も可能だろう。

 うん、いいね、最近事後処理とかそんな感じで世界のピンチとかに流されてたけど、元々俺はこの世界で好き勝手に生きると決意していたんだ。

 それが日本で新しい生活が出来るとなれば尚更だ。

 よーし、お父さんちょっとがんばっちゃおうかなー!

 んじゃ、これからはスキルと転移技術について色々調べるぞ!!

 俺はばっさばっさと羽を羽ばたかせて雄たけびを上げた。


「クエー!!!!」


 ……そうでした。鳥でした。

 まぁ気長に気長に。そのうち人型に憑依したらね。


 ボゴォォォォォォォォン!!!!!


「ゴゲヶェェェェェェェ!!!」


 なんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?


 突然俺の体が横に吹き飛ばされる。

 山頂から吹き飛ばされた俺は、慌てて翼を広げて風に乗り墜落する事を避ける。

 だが何らかの衝撃を受けた所為で右の翼が上手く動かない。一体何が起きたんだ!?

 衝撃を受けたほうに視線を向けると、そこには数人の武装した人間達の姿が見える。


「まだ生きているぞ!」


「翼に集中して落とすんだ!!」


 どうやら俺を狙ってきたみたいだ。

 理由は分からんが、大人しく倒される理由は無い。

 俺を攻撃してきた事を後悔させてやる!

 即座に龍魔法を発動して全身を強化し、魔法使いや弓使いの攻撃をかわしながら上空高くへと飛び上がる。

 人間達は俺がバンカーホークお得意の急降下爆撃をしてくると思って、回避と迎撃の用意をしている事だろう。

 だからセオリーを外す。

 俺は人間達の周囲を大きく弧を描きながら少しずつ降下していく。グルングルンと速度を上げつつ降りて行く。

 人間達はバンカーホークのありえない行動に動揺して武器を構えた手がさまよう。

 更に人間達の背中側に回りこんだ所で、身体を捻って半回転し、態勢を強制的に人間達の背面に向けた所で急降下を行った。

 遠心力を伴った高速の螺旋軌道に逆らう旋回機動を行えば、巨鳥の肉体と言えど翼が持たない。

 そんな異常な機動を可能にしたものこそ、ドラゴン意外では俺だけが使える龍魔法だ。

 龍魔法の効果で肉体を強化した俺の体は、異常な機動を行えるだけの強度を手に入れている。

 そして人間達は、振り向いた時には既に自分達へと飛び掛って来ていた俺の姿に驚愕し硬直する以外に術はなかった。

 吹き飛ぶ人間達。

 人間からすれば巨大な岩がぶつかってきたようなものだ。とても耐えられるものではない。

 傾斜の高い山から転げ落ちていく人間達。

 やがて彼等は傾斜から生えている木々の中へと突っ込んでいった。

 まぁ、運がよければ生きているだろう。


 しかし何で人間が襲ってきたんだろうか?

 帰ってきた俺は人間を襲っていなかったし、このバンカーホークは人間よりも肉のある大型の獣を好む。 小さな獲物は捕っても腹の足しにならないからだ。

 マーメイドを襲っていたのは食べるモノをえり好みしていられなかったからであって、食べるモノが在るのならより食いでのある方を選ぶ。

 人間達もわざわざ退治の困難な飛行型の魔物に闘いを挑む理由など無いと言うのに。

 人を殺していない以上、人間に教われる理由がわからなかった。

 うーん、コレはまたやって来るかなぁ。

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