第81話 超ド級魔導鎧甲『イカズチ』

 超ド級魔導鎧甲『イカヅチ』

 それがドワーフ達が作り上げた魔力で動く鎧の名前だった。

 イカヅチは召喚魔法によって異世界ニホンから呼び出された人間から聞いたパワードスーツという特殊な鎧から着想を得たらしい。

 イカヅチは魔力結晶と呼ばれる高密度の魔力を圧縮した結晶体をエネルギー源とし、使用者の身体能力を数十倍に引き上げ、魔力を流す事で武器は火炎を纏ったり雷を放つ事が出来る。また鎧の表面に魔力を流す事で、こちらもエルフの鎧の様に固くなる様に出来ていた。

 更にこのイカヅチには使用者の行動をサポートする魔導知能が組み込まれており、操縦者の望む行動ができるようにサポートしてくれるのだ。

 例えば、先ほどまでこの身体の持ち主だったドワーフが望んだ様に、放れた場所にいるエルフのド真ん中に大剣を投げつけて串刺しにしたいという望みも楽々サポートしてくれた。

 うん、俺が憑依した時には既にイカヅチが動き出していたのだ。

 この鎧にとって使用者の存在意義とは、行動の指針を取る事と、鎧の芯になる事でしかなかった。

 ぶっちゃけ使用者が本当に必要なのか疑わしい。

 もしかしたらAIの反乱的なものを恐れているのかもしれない。

 あくまで俺の想像だが。

 だがこのイカヅチの真に凄い所は魔力結晶にあった。

 これまで魔力とは、溜める事の出来ない流動型エネルギーと考えられてきたが、ニホンジンのもたらした電池という概念が彼等に衝撃を与えた。

 電気の力を封じ込めて何年も溜める事が出来るのなら、魔力でも同じ事が出来る筈だと彼等は考えた。

 その完成形さえイメージ出来てしまえば、圧倒的な魔法技術を持つドワーフに作れないものは無い。

 ドワーフ達は先人達の思い込みで出来ないって思い込んでしまっていたみたいだ。

 何時の時代も誰かが思い込みという壁を破壊しないと、その場で足踏みしてしまうのはよく有る話だ。

 だがコレだけ便利なマジックアイテムとなれば、消費魔力もハンパない。

 普通に魔力を溜めていてはとても戦争なんて出来やしなかった。

 だから彼等はイカヅチを動かす為の魔力を、異次元より魔力を無限に汲み出す事の出来る魔力井戸から汲み上げた。

 言うまでもない事だが、魔力井戸とはエルフ達にとっての源泉と同じモノを意味する。

 つまり、リ・ガイアから魔力を奪い取っていたのはエルフだけではなく、ドワーフもその片棒を担いでいたという訳だ。

 有る意味では当然の答えかもしれない。

 たった一種族が世界1つの魔力を使いきれる筈が無いからだ。

 エルフは森の維持と防衛の為に魔力を使い続け、ドワーフはマジックアイテムを動かす為の魔力結晶としてリ・ガイアの魔力を使い潰していた。

 魔族達は魔力の放出先が複数である事に気付いていなかった。

 だからここまで捜索に遅れが出たと見える。

 もしかしたら、ドワーフの国の捜索隊の方も、エルフの国捜索隊のように責任者の一存で情報が秘匿されている可能性も否定できないが。

 しかし、ここまで分かった以上、両者の魔力の源を放っておく訳には行かない。

 ドワーフに憑依した俺にはドワーフの考えが読める。

 そして恐らくだが、ドワーフと長年いがみ合ってきたエルフもまた同じ考えだと俺は確信した。

 彼等は、相手の種族を滅ぼした後、他種族を従えてこのガイアの盟主になるつもりなのだ。

 そしてその後こそが彼等の真の戦い。

 それはドラゴンとの戦いだ。

 無限の魔力を手に入れた彼等は、互いに魔法とマジックアイテムを強化してきた。

 そしてこの世界に生きる全ての種族を支配した暁には、1000年の時を経て強化改良を積み重ねてきた自分達の自慢の技術である魔法とマジックアイテムでドラゴン達に復讐するつもりなのだ。

 つまり、この戦いはその前哨戦に過ぎない。

 いやはや、全く持って迷惑な話だ。

 ただの種族間抗争がいまや異世界にまで迷惑をかけているのだから。

 このドワーフの肉体を奪った事で魔法陣の破壊方法は理解した。

 ならばまずはエルフの魔法陣から破壊する。


「じゃあ、行きますか」


 俺はイカヅチに指令を出して、魔法陣に向かって行動を開始した。


 ああ、あとどうでもいい話だが、イカヅチの超ド級のドはドワーフのドらしい。

 考えたのは絶対ニホンジンだな。


 ◆


 イカヅチが俺の体を後押ししていく。

 イメージとしては他人の手で身体を動かされている感じか。

 等身大アクションフィギュアになった気分だ。

 イカヅチは結界で隠された源泉の位置をはっきりと把握して俺に教える。

 そしてイカヅチが感知した魔力の波動を追いかける振りをして、魔法陣のある通路に向かって駆けて行くエルフの姿に気付いたフリをする。


「数人のエルフが他のエルフとは違う方向に向かっていった。敵の『井戸』と思しき反応が有る方向だ」


 すると仲間のドワーフから通信が入る。


『了解、鉄部隊はマーカーを設置してエルフの殲滅に当たる。鋼部隊は『井戸』の破壊に当たられたし』


「了解」


 鋼部隊と称された俺の所属する部隊は逃げた階段方向に逃げたエルフを追いかける。

 そしてすぐに彼等の入っていった螺旋階段にたどり着いた。


『狭いな、イカヅチを着ていては入れないぞ』


『工作部隊が来るのを待つか?』


『工作部隊の戦闘能力はあまり高くない。爆裂魔弾で破壊しながら進む』


 爆裂魔弾、いわゆる手榴弾だ。ただしその威力はミサイル並だが。

 全員が通路から離れると、仲間の一人がスカートアーマーの一部を開いて赤い輝きを見せる宝石の付いた金属塊を取り出す。

 あの赤い宝石が魔力結晶だ。

 特殊加工された魔石の中に魔力を安定させる仕込がされており、その中に半固体化された高密度魔力が閉じこめられていた。

 爆裂魔弾はその魔力を使って強力な爆裂魔法を発動させる使い捨て武器だ。

 安全装置を解除して爆裂魔弾が投げられる。

 数秒の時間を置いて轟音と振動が響く。

 階段の入り口があっという間に拡張され燃え盛っていた。


『行くぞ』


 仲間達が炎を物ともせずに階段へと入っていく。

 イカヅチは敵からの魔法攻撃に為、耐熱処理や絶縁処理がされている。

 たとえ炎の海の中でもへっちゃらなのだ。


 ◆


 階段が燃えていない場所に来ると、別の仲間が爆裂魔弾で通路を拡張していく。

 先ほどからその作業の繰り返した。

 時折、階段の上から轟音と振動、それに雄たけびが聞こえてくる。

 上でも激しい戦闘が繰り広げられているみたいだ。

 仲間達の間に早く使命を達成しなければという緊張感が走る。

 そして漸く階段の終わりへとたどり着いた。


『防御魔法を全開で突入する。迎撃されても絶対に後ろには倒れるな、仲間の邪魔になる』


『『『「了解!!」』』』


 盾役の言葉に全員が了承の意を示す。

 盾役が大盾を構え、防御魔法を全開にして突入、仲間達もそれに続く。

 通路の向こうから迎撃の魔法が放たれる。

 氷、雷、風、光、闇、岩、様々な攻撃を盾役が防いでいく。

 部屋に入った瞬間に盾役の左右に仲間が転がり出てマジックアイテムで反撃を行う。

 俺は攻撃を行わずに盾役の後ろで仲間の攻撃が終わるまで待ってから横に転がり時間差で攻撃を行った。


「ぐはっ!」


 防御魔法を緩めてこれから反撃をしようとしていたエルフが俺の攻撃で吹き飛ぶ。

 エルフ達は魔法陣を守るように俺達との間に立っていた。

 数にして10人、今1人吹き飛んだので9人か。

 だが俺達の目的はエルフを倒す事ではない。

 後ろのある源泉を破壊する事だ。

 2名が攻撃を続け、盾役がエルフの攻撃から2人を庇う。

 俺はエルフ達に向かって突撃を行い、本来この身体の持ち主が行う予定だった行動を行う。

 それが、封魔結界だ。

 エルフがこの森に行った転移魔法の発動を阻害する魔法、この大樹の外に魔力が漏れないようにされていた結界の魔法。そうした特定の魔力の動きを阻害する為の魔法。

 封魔結界はその最たるもので、あらゆる魔法的な魔力の動きを停滞させる魔法だった。

 その封魔結界の機能を搭載したマジックアイテムを発動させれば、源泉の魔法陣は機能を停止する。

 そして停止している間に魔法陣を破壊すれば暴走する事無くエルフ達は魔力の供給源を失う。

 それは森の感知魔法から、迎撃魔法、果ては町の防衛魔法の至るまで全ての魔法が魔力不足で発動しなくなるという事だ。

 そしてエルフ達本人への魔力補給も行われなくなる。

 魔力源泉を破壊すればエルフ達の戦力は激減だ。

 更に俺達が転移魔法でドワーフの国に帰還する事も出来る様になる。

 圧倒的に戦況を有利に出来るのだ。


 しかしそうそう事は上手くいかない。 


「ドワーフを近づけるな!!」


 4人のエルフ達が俺の行動を察して攻撃を開始する。

 だが俺はヘッドスライディングで床上ギリギリを滑りながら彼等の足元へ突き進んで魔法を回避、そこに味方の援護攻撃がエルフを襲い俺への追撃を防ぐ。

 俺は手にした大剣をしゃがんだまま振り回す事でエルフ達を転倒させる事に成功。


「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!」


 防御魔法のお陰で足を切断させる事はなかったがそれでも大質量の金属塊がぶつかった訳で、すねを思いっきりぶつけられたエルフ達が悶絶する。

 いかな筋肉の鎧があろうとも、弁慶の泣き所の強化は無理であったか。

 しかし仲間を攻撃していたエルフが俺の迎撃に回る。

 仲間の援護を求めようと視線を向ければ、そこには負傷した仲間の姿が。

 どうやら俺の援護に集中して敵の攻撃を受けてしまったらしい。

 盾役一人ではきつそうだ。

 俺はイカヅチが被弾する事も構わずに魔法陣の中央に到着、被弾箇所から濃密な魔力が侵入してイカヅチの機能を狂わせようとする。

 イカヅチの魔導知能が撤退を進言してくるが、俺は構わず封魔結界のマジックアイテムを設置する。

 エルフ達の攻撃からマジックアイテムを守る為に己の身を壁として結界を起動する。

 結界の完全な発動が行われるまでの起動時間に気が狂いそうな焦りを覚える。

 魔導知能が背面装甲の損傷が危険域を超えた事を知らせる。

 エルフの魔法攻撃の衝撃で身体が吹き飛びそうになった。

 だが、その衝撃が突然やむ。

 後ろを見れば盾役が俺とエルフの間に入って攻撃を防いでいた。

 更に別方向から負傷した仲間がエルフに攻撃を行って敵の攻撃を阻止していた。

 エルフ達は俺を攻撃したくても出来ない状態。


 そして装置が起動した。


 装置の発動によって源泉の魔力がうねりを上げて吹き飛ばされてゆく。

 更に魔法陣の中央から沸きあがっていた魔力がどんどん小さくなっていき、遂に魔力は欠片も見えなくなった。

 成功である。


「井戸の封印成功! コレより魔法陣を破壊する!!」


 俺は魔法陣を破壊しようと身体を動かそうとしたが、身体がピクリとも動かない。


「何!?」


『どうした』


 魔法陣を破壊しようとしない俺に盾役が声をかけてくる。


「イカヅチが動かない!」


 盾役が俺を、俺が装着したイカヅチを見る。


『損傷が激しい、封魔結界対策の機能が損傷しているようだ。待ってろ、お前の爆裂魔弾を使って魔法陣を破壊する』


 盾役が盾をエルフ達に構えたままゆっくりと下がってきて俺のスカートアーマーを無理やり開けて周辺に爆裂魔弾を転がす。


「いかん! 阻止しろ!!」


 エルフ達が叫んで爆裂魔弾に氷結魔法を掛ける。

 うまいな、凍らせて機能を封じるつもりか。


「甘いんだよ!!」


 爆裂魔弾に意識を取られた瞬間を狙って仲間が雷撃を放つ斧で魔法陣を攻撃していく。


「しまった!!」


「これ以上破壊させるな!!」


 エルフ達が武器を構えて攻撃してくる。

 莫大な魔力を用いた魔法による後押しを失ったエルフ達にできるのは、原始的な攻撃だけだった。

 確かに彼等の身体能力は高い。伊達に今まで鍛えてきた訳ではない。

 だが悲しいかな。高性能パワードスーツによって強化されたドワーフは高密度に圧縮された魔力結晶の魔力が切れるまで戦い続ける事が出来る。

 エルフに残った魔力は自前の魔力だけだ。

 使える魔法には限りが有る。

 源泉の魔力を失った彼等とでは残存魔力の桁が違ったのだ。

 とはいえ、こちらも負傷者2行動不能1と振りである事には変わらない。

 なんだかんだ言って強化魔法を掛けて武装を強化したエルフの爆発力は侮れない。

 あくまでも長期戦で有利になったというだけの話なのだ。

 その勇猛果敢な攻撃で、次々と仲間のイカヅチが破損していく。

 だが、そんな状況にあっても仲間達は魔法陣の破壊に注力していた。

 エルフ達の攻撃を最小限の手間で受け流し、耐え、あくまでも魔法陣を優先する。

 なぜなら、結界が機能を停止した以上、俺達は転移魔法で帰還する事が出来るのだから。


『魔法陣の完全破壊完了。全員集まれ!!』


 全員が封魔結界のマジックアイテムを中心に集まる。


『転移装置を起動する!機能停止したイカヅチには俺のイカヅチと連結して転移装置を強制起動させるぞ』


「了解!!」


「逃すかぁぁぁ!!」


 魔法陣を破壊されたエルフ達がせめて俺達の首だけでもと襲い掛かってくる。

 だが一歩遅かった。


『転移!!』


 役目を全うした俺達は、無事エルフの町から離脱したのだった。

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