第122話 日本帰還作戦
【品川〇X〇 △〇-XX】
壁にぶつかったトラックの、その後ろに貼り付けられたナンバープレートにはそう記されていた。
品川は説明するまでもなく日本の地名だ。
「どうやら本当に日本に繋がったみたいだな。……痛てて」
洞窟の壁に衝突したショックで鞭打ちになった首に回復魔法をかける。
痛みが引いた後、俺はトラックから視線を逸らし魔法陣を見る。
すでに転移ゲートはこのトラックを操縦していた勇者を召喚した事で機能を停止させていた。
魔法陣が異世界へのゲートを開いていられるのはほんの僅かな間だからだ。
だがその僅かな時間で十分だった。
確かに魔法陣は日本に繋がったのだから。
俺は自分が召喚した勇者の記憶を読み取る。
彼は俺に召喚された瞬間にトラックで俺を轢き殺した為に俺に憑依されていた。
名前は宍戸丈太郎。年齢は37歳。職業は元トラック運転手。
現在は事業失敗による多額の借金により逃亡中。
奥さんとは離婚、子供の親権も奥さんにとられ絶望から自殺を考えていた。
……目頭が熱くなってくるわー。
うわー、自殺して生命保険から子供の養育費を払おうとかしてるよ。
けど自殺じゃ保険は降りないだろ。
なんか不憫になってきた。
この人にとって唯一の気がかりは子供の将来か。
こんな状態になっても子供の心配とは、勝手に召喚した上に憑依までしちゃって申し訳ないなぁ。
日本に戻ったらお子さんの慰謝料を何とか捻出してあげないと。
幸いその為の資金なら俺の力で用意する事もできるし。
しっかし、本当にこの人の記憶は家族の事ばかりだな。
お子さんの成長だけが、悪化する会社の経営の重責から唯一逃れる事の出来る瞬間だったのか。
忙しい仕事の合間にあえるお子さんの姿が記憶に強く焼きついているなぁ。
家族3人で仲良く暮らしていた小さな姿。
少しずつ成長してきたけど、仕事が忙しくて構ってやれなくなり始めた小学校低学年の時。
なかなか起きてる時間に会えないけど、その中で会えた時は笑顔で抱きついてくる。
ゴメンよ。お父さん自殺する気マンマンだったとはいえ俺が乗っ取っちゃった。
そして自殺寸前の小学校高学年の記憶。大きくなったから抱きついてこそこないけど懐いている姿。
母親にまかせっきりだったけどいい子に成長しているみたいだ。
けどこの頃には既に離婚の話が出てるんだよなぁ。
けどそれを知らずに母親と一緒に会社へ向かう父親を見送って……
………………あれ?
なんかこの人の記憶おかしいぞ?
子供が奥さんに向ける視線がおかしい。
まるで……怖がっているみたな。
もう一度記憶を遡ってみる。
するとおかしな所がいくつか。
半そでを着ていた子供がある日を境に長袖になっている。
気付いたのはまだ暑い日なのにだ。
寒いからじゃない、その日から年中長袖になっていた。
時折怪我をしている。
本人はうっかりと言っているが、その頻度が多くないか?
借金や離婚の件でパニックになっていた所為でそこまで気が廻らなくなっていたか?
なんだろう、何かおかしいぞ。
……ちょっと調べてみるか。この人の身体を乗っ取っちまった負い目もあるしな。
もし子供がイジメや家庭内暴力を受けているのなら、俺にはこの子を救う義務がある。
◆
日本に帰る前に俺は色々と準備をする事にした。
というのもだ、日本に帰った際に魔法が使えるのかと言う問題があるからだ。
もしむこうに戻って魔法が使えなかったら俺は借金塗れの生活をしなければならない。
だからまずは壁にぶつかって壊れたトラックを直す事から考えた、
なにしろこれが日本でも通用する唯一の財産だからだ。
機械の知識は殆どないが、そこは魔法の知識でカバー。
マジックアイテムの開発に秀でたドワーフの知識は、魔法と言うよりも科学に近い。
なので何かしら使える知識があるだろう。
あー、せっかくだから工具を用意するか。
俺はささっと転移魔法でドワーフ達の格納庫に入って加工用の工具を貰ってくる。
その際何人かのドワーフに見られたかも知れないが、帰りは別の場所に転移してから普通に飛んで帰ってきたので大丈夫だろう。索敵魔法でもなにも引っ掛からなかったし。
さて、それでは早速ドワーフの工作機械でドライバーを作るか。
いやだって、異世界にドライバーないし。
工具を作ったら、龍魔法で肉体を強化して壁にぶつかったトラックを作業しやすい場所におく。
作ったドライバーで壊れたフロントカバーなどを外し、金槌で叩いて直す。この辺は板金屋の修理と同じだ。
車用のガラスは無いから水晶を魔法で加工して更に強化しよう。
んで、中の機械部品はっと……壊れたパイプとかは金属加工の魔法で直せるな。
致命的な破損はなさそうだからコレなら直せそうだ。
こういう時ドワーフの魔法技術すごい便利だわー。
…………けど、つまらんな。
いやいや、ただ直すのはどうよ。せっかくだからちょっと色々やっちゃうか。
車内部の空きスペースにマジックアイテムを仕込めそうだしな。
まず日本に魔力が殆ど無かった時の為に魔力を集める装置を仕込もう。
更に魔力が全く無かった時の為に、こっちの世界に戻る為の魔力を蓄えた魔力結晶を……ドワーフからもらおう。
うん、アイツ等の所為でこの世界に呼ばれたんだから全然構わないよね。
つー訳でちょっくら転移魔法で以下略。
転移魔法で魔力結晶他色々貰ってきた俺はトラックの改造を再開する。
まず飛行魔法と認識阻害魔法、それに光学迷彩魔法でステルス機能を付ける。
それに防御魔法で外装の強度を上げて、更に魔法障壁も張れるようにしよう。
あと回復魔法装置も仕込んで、攻撃魔法の杖を起動させるスイッチもハンドルの真ん中と助手席のサイドボードに仕込んでおこう。全部ドワーフの格納庫にあったモノだ。慰謝料慰謝料。
他色々盛り込んでと……
◆
「出来た!」
見た目は普通のトラックだが、とても人に言えないし絶対車検に出せない魔法のトラックが完成したぞ!!!
あとはこのトラックにドラゴンの巣に隠してあった財宝のうち、日本で換金して金になる金貨や宝石を山ほど搭載する。金貨はそのまま使えなくても鋳溶かせば金塊になるしね。
「そんじゃあ、魔法トラック始動!」
イグニッションキーを回すと、魔法トラックのエンジンが動き出す。
俺は魔法トラックを操縦して洞窟の外へと出たあと、飛行魔法でトラックを平地へと下ろす。
そしてトラックのギアをニュートラルから1速に変え、走り出す。
トラックがゆっくり進む。
次第に速度が上がり、ギアを2速に変える。
そのまま3速、4速、5速と上げて行き速度が70Kmを越えたところでMと書かれた場所へギアを動かす。
本来存在しないMのギア、ソレこそがこのトラック最大の魔法機能を起動させるスイッチ。
「逆召喚魔法陣起動!」
車の正面に仕込まれた魔法陣型のエンブレムが光を放つ。
そしてエンブレムから放射状に光が走り魔法陣を作り出す。
次の瞬間、トラックの正面に魔法陣が完成。
トラックは完成した魔法陣の中へと吸い込まれていく。
そしてトラックの全てが魔法陣の中へ入った後の平地には……
なにも無かった。
否、そこには2つの太いわだちだけが残っていた。
◆
電気の光。
車のエンジン音。
アスファルトの匂い。
そして視界を埋める日本語の看板。
「帰って……きた……」
そこは、まごう事なき日本の光景だった。
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