第121話 蜘蛛の糸

「では実験を開始しますか」


 メリケ国で行われていた勇者召喚魔法陣の不完全資料を手に入れた俺は、ついに日本へと繋がる正しい勇者召喚陣を完成させた。

 だがこれだけでは単に日本から勇者を召喚するだけだ。

 重要なのは日本の次元座標を確認する事。

 その為、この召喚魔法陣に魔族式の追跡魔法をエルフとドワーフの知識で改良して組み込む。

 ソレこそが俺の目の前に広がるか改良式勇者召喚陣なのだ。

 はじめこそは日本から誰かを召喚しなければならないが、そこは召喚された勇者に事情を説明して許してもらう事にしよう。

 なに、日本の座標が完成すれば直ぐに返してやれる。

 相手も異世界転移なんて体験が出来て許してくれるだろう。

 ……と、思っておこう。


「つー訳で、いざ勇者召喚を開始だ!」


 改良した勇者召喚陣はメリケ国で行われてたものと違い、単独での発動を可能とする。

 コレまでの魔法陣と違って複数の魔法使いは不要だ。

 そもそも複数の魔法使いが必要だったのも、単独では魔力不足だったからだ。

 けれど、その辺りはドワーフのマジックアイテムの理論を応用して周囲の魔力をかき集める事でクリアしている。

 必要なの起動時の魔力だけだ。

 魔法陣にリンクさせるべく作られた四角い箱状のマジックアイテムには、大きな水晶の玉が付けられている。

 それに手を当てて魔力を流し込むと、マジックアイテムが起動し、内部のミスリルが大気中の魔力を九州し、魔法陣に魔力を伝える。

 魔法陣に魔力の光が流れ込み、魔法陣が起動する。

 陣の中心に黒い点が現れる。

 黒い点は少しずつ大きさを増していき、そこから懐かしい匂いが流れ込んできた。

 排気ガスの匂いだ。

 そこが日本と繋がった事を確信した俺は、マーカー機能を起動させる。

 四角い箱の魔法陣側の面から、先端に矢じりのようなものが付いた細い糸が射出され黒い点の中へと流れ込んでいく。

 これで日本とこの世界を繋ぐラインが出来た。

 俺はマーカーとリンクしたマジックアイテムを起動させ、異世界に飛ばしたマーカーの反応を拾えるかを確認する。

 反応があった。

 大成功である!

 ついに俺は日本と異世界を繋ぐ事に成功したのだ!

 そして黒い点がドンドン大きくなっていく。

 ついに異世界、いや日本から勇者が召喚されるのだ!

 黒い点は大きな黒い円となって魔法陣の幅ギリギリまで拡大した。

 しかし転移ゲートは安全を確保する為に魔法陣よりも大きなサイズにはならない。

 その制限が無いと再現なく大きくなってしまう危険があるからだ。

 魔法陣の中から光が見えた。

 ついに来た!

 本当に日本人が来るのか? 外国じゃないのか?

 いや、そもそも繋がった先は本当に日本なのか? その答えが今こそ明らかになる。


 来た!

 黒い点の中から輪郭がはっきりと見えてくる。

 四角く、大きな輪郭が、ライトを照らして、俺の前に飛び込んできた。


 ガシャァァァァァァァン!!!


 俺は、異世界でトラックに跳ねられ死んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る